第12話 元大賢者は、国の行く末を不安視する。
「あー、授業は聞く価値ゼロ! 期待して入学してみれば、この程度とか…」
私は午前の授業開始後から、昼休みまでの間に聞いた授業の内容に頭を抱えたくなった。
「バカ弟子! 何度も殴り殺しては蘇生してやるから今すぐ顔を出せ!」
そう思いたくなる程に間違いのオンパレードで、それを金科玉条の如く賛美する教師にも頭が痛くなった。
「何か期待していたのと大違いだわ。本当にこれで賢者を育てようとか思っているなら愚行そのものよね。この程度なら私が授業に出る必要はないし、午後からはいつも通り委ねて早退しようかしら…」
昼休み、外食に出た私は一人呟くのだった。
今は学園近くに用意して貰った屋敷へと転移して、こちらにも保管した食材を厨房で調理しながら、午後の段取りを行う事としたのだ。
「それと登城の件も何とかしないとね。幸い、数日後に行われる校外学習の日にでも向かうかな? 私の場合、参加不要とまで言われているし、それなら好都合として利用させて貰わないと!」
「何を利用するんですか?」
すると、今度は背後ではなく気配を消した声音が目前から響く。
「あ、リーナ居たの?」
「それは居ますよ。親方様から、この屋敷の管理を委ねられてますから。それよりも独り言が多すぎではないですか、アリス様?」
彼女が言う親方様とは寄親殿の事だが人を雇わないとしても管理する者は必要として父さんの二番弟子である、リーナ・クラベルをこの場に寄越したのだ。屋敷管理のメイド長として。
「その呼び名、まぁいいか。それで母さんは気付いた?」
「はい、それはもうご立腹ですね。『魔力無しを演じる事は仕方ないとはいえ、下手すると身バレもあり得るので注意しなさい!』っと伝言を預かって参りました」
しかも私自身の秘匿すべき事案を口走るので注意するも、涼しく受け流されたので話題を変えたところ母さんのこめかみに青筋を浮かべた冷笑を思い出して戦慄した。
「うっ、母さんには隠せないなぁ。流石は〈戦塵の女王〉だわ」
それは以前にも話した、私が魔力隠蔽している件についての事なのだが、十二才の時にAランク冒険者となった際に、両親にもバレてしまい、その持ちうる魔力量に対して畏怖の念を込めて隠していた事を許して貰えたのだ。
ただ、その件も相俟って両親の実家が何処で聞いたのか寒村まで出張ってきてしまい平民としての〈アリサ〉と両親の実家で呼ばれる〈アリス〉という私の名前を教えられたのだ。
そのうえ子爵としての名もあるので混乱は必定である。
「それで、アリス様?」
「何でしょう?」
「利用するというのは何ですか?」
「あー、校外学習の日にね? 参加不要と教師から言われたので、その日に城へ上がろうかと思ってね?」
「そういう事ですか。ではそのように段取りして参ります」
「う、うん。お願いね?」
「それと、調理後の道具はキチンと洗って元の場所に戻して下さいね?」
「はい、判りました…」
最後はメイド長の凄みを見せたリーナは、そそくさと厨房を離れて王宮へと移動した。
ある意味で暗殺者のような印象だよね。お尻が大きいから窓枠に引っかかりそうだけども。
実際に暗殺が得意とか言ってたし寄親殿は護衛という意味合いで寄越したのかもしれない。
◆◇◆
そして午後!
授業は〈身代わりゴーレムちゃん〉に任せて私は存在希薄魔術を併用しつつ他のクラスの授業を見て回った。
だってJクラスだけが碌でもない授業をしてると思えたもの。ここが両親の卒業した場所でもあるので、その間違いのある教科書との差違を知るために必要な事として見て回ったのだ。
(Iクラスから上は普通の授業ね。やっぱりJクラスだけが偽物の授業を与えられているみたい。落第クラスとも揶揄されてるし、退学確定者を纏めたようなクラスって事かしら?)
移動しながら聞き流すも、どのクラスも真っ当な授業をしていたのだ。唯一の例外は姫殿下が在籍するAクラスであろう。その場にはとてもとても不釣り合いな者も居たし。
(あれは副学長よね? 確か、ルーネン侯爵だったかしら? 華美なローブとスタッフね。彼は見た目から入るタイプ? 授業は間違っていないけど所々で選民的な言い回しがあるわね)
目の前に見える位階差別の病巣主は偉そうな素振りで姫殿下を相手に下心の見える気色悪い笑みを浮かべていた。逆に姫殿下はそれすら気にせず真面目な様子で授業に聞き入っていた。
(あの子、芯が強いわね? ゴブリン達の食料となった時と違ってこちらが本来の姿かしら? でも周囲の生徒もそうだけど全員が気持ち悪い笑顔でゲッソリするわ。王族に媚びへつらいとか反吐が出る…)
このAクラスを例えるなら服をドロドロに溶かす、スライム小屋に放り込まれたような物だろう。それだけ周囲の者達の視線が気色悪い雰囲気であった。
今後の四年間で姫殿下の人格に悪影響が出なければいいけどね?
仮にも王位継承権第一位なのだから下手打って消えるような事だけは止めてね?
(この国は女王が統治する国家なのだから、私に寄越さないでね?)
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月16日〉