第1話 プロローグ ─誕生─
拙い文章ですが、ご容赦下さい。
『魔導とは神の深淵を覗くに等しい愚行なり、然れど…』
◆◇◆
彼の大賢者は言った。
魔王軍との戦いの最中、己が死を迎える前夜、自身の行いが如何に深淵よりも浅く遠方にあるかを知り、人間とは儚く脆いものだと思い知ったという。
最後の教えは共に歩んだ唯一の弟子達が遺言として残した。
それは…
『然れど、人の業という深淵も存在するから、世界は本当に広いわね』
彼女の遺言を受け取った弟子達は魔王と共に消滅した大賢者の意思を継ぎ王立魔導学園を創設した。
そう、未来の大賢者と成りうる者を育てるために。
◆◇◆
時は進み…。
ここ、シルフェンド王国・王立魔導学園では次代の大賢者となる者を育て、いずれ蘇るであろう魔王と相対する者を養成する学園である。
この学園では魔力量に基づく位階序列があり、下から順に【エナ・デュオ・トリア・テッセラ・ペンデ・エクシ・エプタ・オクト】の第一から第八位階という【点と線で構成された印】を与えられるのだ。
ただその内【ミデン】を含めると第九位階となるが、この学園が創設されておよそ三〇〇年を過ぎようともミデンを与えられた者は一人も居なかった。
「はぁ? 今期の新入生の内、魔力無しが居るだと?」
「はい、学長。希望者であれば誰にでも門戸を開いている当学園に於いて、初めての事になりますが、いかが致しましょう?」
「うむ。今までに無かった事だが、なぜそのような者が希望してきたのだ?」
「詳細は不明ですが、辺境の村出身とだけありまして、着の身着のまま入学したいと申請書類に記述して、提出してきたというのが、事務局の者の言でして」
「そうか。仕方ない事だが、その者にはミデンを与える他あるまい。それで名は何という?」
「はい。名はアリサとだけ書かれてありますね。特技は特に無し、見た目としては貴族と見間違える程の銀髪ですが、家名が無いため、平民ですね」
「そうか。まぁ仕方ないだろうな。入学を拒む事は創設者のルードに背く事になる故、受け入れよう」
「はっ! では手続きを続けて参ります」
この日、今までに類をみない者が訪れた。
その名は〈アリサ〉という少女だという。
出身地は辺境の村とあるが、領地で言えばフェンドルフィン辺境伯領の端の端、隣国・サドッカー帝国との国境付近にある寒村だという事が鑑定結果で判るくらいだ。
「うむ。これは第一から第八位階までの学徒達がどう反応するか、恐ろしい話ではあるな。学内の〈位階差別〉が落ち着いた頃合いで、このような試練が与えられるとは、我の代は全く以て修羅道のようだ」
学長は呟き…、
窓の外に見える学徒達を見守っていた。
◆◇◆
そこから、時は十六年ほど遡る。
シルフェンド王国北東部・フェンドルフィン辺境伯領が寒村に一人の女の子が産まれた。
その子は平民でありながら、銀髪でありその瞳も右が碧、左が紫という異色の身形だった。
「おぉ! 女の子だ。しかし顔立ちはお前に似ているが瞳は不思議な色合いをしているな?」
「ふふっ。まぁ良いではないですか? それよりも、汗を掻いて肌着を着替えたいので、出て行って下さいますか? 貴方?」
「す、すまん」
寒村の診療所。
その一角にある病室では、とある夫が大騒ぎだった。
「着替えましたよ貴方。入ってきても結構ですよ」
「おぉ! やっぱりお前はその姿がいいな!」
「何を仰いますか、私よりも我が子を抱く方が先でしょう?」
「そうだった! 名はもう決めているのか?」
「そうですねぇ。アリサ、というのは、どうでしょう?」
「アリサ、か?」
「はい。偉大なる大賢者こと〈アリステア・ノルンハイド〉の愛称を戴きました」
「おぉ! あの大賢者様か! よし! お前の名はアリサだ!」
「キャキャキャ!」
「おぉ! そうか嬉しいか!」
「キャキャキャ!!」
「ふふっ。大喜びですね? それはともかく、退院した後は大忙しですよ? 貴方のお仕事も私のお仕事も」
「うぐっ。ま、まぁそれは置いといてだな…」
「逃がしませんからね? 賢者・ライオネル様? 第一弟子の私に、新たな深淵を見せて下さいませんと」
辺境の寒村に隠遁生活を好む一人の賢者と追っかけ弟子が夫妻の元に一人の女の子が産まれたのだ。
顔立ちこそ妻と似ており瞳の色はそれぞれの色合いを受け継いだ不思議な女の子だった。
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月16日〉