第6話
更新が遅れてしまい、申しわけございませんでした。
翌朝、荒れていた天候は嘘のように晴れ、快晴となっていた。しかし、吹き荒れた風のせいか、枝や桜の花びら、葉っぱが地面に散乱している。
けれど、晴れた事には変わりは無い。昨夜寮に泊まった自主通学をする生徒の表情は、不安が取り除かれ晴れやか。
自主通学をする生徒達は今日はいつも通り家に帰れそうだ。
「……」
が、浮かない顔をしている生徒が1人だけいた。江咲 結音だ。
現在朝のHR前の時間。彼女は3年6組の教室で、自身の席に座りボーっとしている。
(まほろちゃん、今日は大丈夫だよね)
昨夜のことを思うと、やはり心配になってしまう。
実は、あんな事が起きる前、ぐっすり寝ていた結音であったが、雷がなった直後に扉の方から悲鳴が聞こえたのだ。
心配になって駆けつけてみれば、まほろが床にペタンと座っていて、怯えているではないか……。
ソレを見て結音は思った。
"助けないと"。
だから、結音はまほろを部屋にいれた。
(まだ、膝に温もりが残ってる)
そこで、結音はまほろに膝枕をしてあげた。その感覚がまだ残っている。残っているのは感覚だけではなく記憶も。
あの時のまほろの表情、仕草、一夜明けても覚えてる。
(スゴく、可愛かった。大人の女の人にドキドキしたのって、あれが初めてかも)
思い出すだけで、また心がドキドキしてくる。
そうなのだ、まほろを膝枕していた時、結音の心は大きく脈動していた。恥じらい無くやっていた様に見えて、しっかりと緊張していたのだ。
(やだ、私ってば変に意識しちゃってる)
特に、まほろが部屋を去る前に見せたあの顔。もの凄く顔が赤かった。初めてみたまほろの印象からすると、予想外……かも知れない。
もっと、落ち着いて澄ましたような仕草をするのかと思ったのに。
と言うか。明子から聞いていた話と違う。弱い部分はしっかりあったじゃないか。
(聞いてた話と違うからギャップを感じてるのかな。んー……というか)
それは意外な事じゃない。人間誰しも、そう言う部分はあるから。だからたいして驚いてはいないんだけど。
(……どうしてだろ。私、まほろちゃんにまた、会いたいって思ってる)
不思議な事を思ってしまう。こんな経験は初めてだから動揺している。
結音はまほろの"弱さ"をみて、惹き付ける何かを感じて、また会いたくなったのだろうか?
膝枕をしていた、子猫の様な可愛い顔が印象的なのを覚えている。また、そんな顔を見たいとも思ってしまっている。
(あの、うっとりした顔……絶対忘れられないよ。うぁぁ、思い出したら口元が緩んじゃう)
まほろは、気持ちよさそうに目を細め。力を抜いて身を任せていた。あの表情が、結音の心を鷲掴みにし、結音を今困らせてしまっている。
(また会いに行く? でも、会う理由が無いし。会って何をするって言うのよ)
こんなこと、誰にも相談出来るはずもなく、1人静かに悩む結音。周りの人に変に思われない様に、小声で「うぅぅ……」と呻きながら考えること約3秒……。
(うん。きっとコレって、一時の悩みってヤツよ。暫くしたら消えちゃうわ……たぶん)
そう切り替え、授業の準備をするのであった……。
◇
一方のまほろのお話。
彼女は現在、寮母室にある椅子に座り、テーブルに突っ伏し呻いていた。
「あ゛ァ゛ァ゛ァ……」
言わずもがな、昨夜のことを思い出し。恥ずかしさと惨めさで情けなくなっているのだ。なにか、生徒相手にやってはいけない事を沢山やってしまった気がする。
(だめ、あれはダメよ。大人として恥ずかし過ぎるわ)
思い出すのは、やはり膝枕の事。あとは結音の表情や肌の温もりetc.....。数えたらキリがない。
カリカリと突っ伏したまま素早く頭を掻きむしり、うーうー、呻くまほろは涙目で自分を恥じていた。
とても優しくされて嬉しいと言う気持ちもあるが、何より学生相手にトロトロに甘やかされてしまったのを。
(そっ、そもそもどうしてゆい姉さんは、どうしてあんな私に優しくしてくれたの?)
普通はあんな姿を見せたら、白けた目を見せる筈なのに。まほろは少なくともそう思う。でも、結音はそんな目を向けてこなかった。
まるで優しいお姉さんみたいで、膝枕をしてくれた結音は……母性を感じた。。
思い返せば思い返すほど、恥ずかしくなってくる。チラつく結音の顔が脳内から出ていかない。次第に思うのは、結音にまた膝枕をされて、甘やかされると言う妄想。
いけないと分かっていても、その妄想を続けるまほろは、自分を恥じることを忘れていた。
コンコンコンコン……ッッ
が、唐突に鳴ったノックの音により我に返る。ガバッと上半身を起こし扉の方を向く。素早く突っ伏したせいで乱れた髪を整えつつ。
「ど、どうぞ」
そう言った。
カチャリと、ゆっくり扉を開けて入ってきたのは、この寮の職員だ。
「あら。なにかご用ですか?」
職員を見て、瞬時にニコリと笑うまほろ。切り替えがスゴく早い……。そんなまほろを見て、職員は困ったように話し出す。
「は、はい。実は部屋を掃除していたらコレが落ちてたんです」
「あら、それは」
職員は、小さな鍵を取り出した。ソレには可愛いストラップと小さなタグが付いてある。そのタグを見ながら、更に職員は続けて言った。
「タグには江咲 結音って書いてあったんです。これって忘れ物ですよね。どうしましょう」
「……っ!?」
この言葉を聞いた瞬間、まほろに電撃が走る。結音の忘れ物。昨夜、膝枕をしてくれた結音の……。
「え、えと、まほろさん? 急にぼぉっとしてどうしたんですか?」
「ッッ!? え、ぁ。なんでもないわよ。わ、忘れ物なら届けなきゃですね」
いけない、また昨夜のことを思い出して顔が赤くなってしまった。誤魔化すように笑い、まほろは咄嗟に職員から鍵を受け取る。
何故か勝手に身体が動いたのだ、そして……。
「わ、私が放課後にゆいねぇ……結音さんに届けて来ますよ」
「え、そんな。わざわざまほろさんが行かなくても」
いけない、他の人の前で"ゆい姉"と言いそうになった。流石に自重しなければ……。
慌てて誤魔化したまほろ、この職員には気付かれていない様で、ほっと胸を撫で下ろした。
「いえっ。私が行くんです!!」
「わっ。は、はい……そっ、そこまで言うのなら、お願いします」
ちょっぴり強引に、届けに行くと言ってしまった。
(私ってばどうしてあんな事をっ。昨夜のことで、顔なんて会わせられないのに)
言った手間、もの凄く後悔した。が、決して訂正しなかった。少なくとも、まほろはもう一度結音に会いたいと思ってしまったから。
(い、いいえ。忘れ物してるんだもの。寮母である私が届けにいかないと)
正当な理由を立てつつ、まほろは会う勇気を振り絞る。会って鍵を渡すだけ、なにかをして欲しいと願う訳では無い。
決して、また膝枕の様な事をされたい……という想いは無いのだ。
そうは思うが、やはり昨夜の事が頭にチラつき意識してしまうまほろであった……。