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3章5話

 初めてのキスの感触は、甘い味だった。佐藤の様な甘さじゃなくて、果実の様な仄かな甘さ。


 ずっと味わいたいけれど。切なくも、その甘味は直ぐに消え。まほろの唇に"キスされた事実"だけを残していった。


 感触は柔らかくて優しくて、ちょっぴり熱い。トクンッと強くまほろを感じさせたかと思うと。

 その感覚も、水に溶ける粉砂糖の様に寂しく消えていった。


「ゆ、ゆい……姉さ」

「ダメ。結音って呼んで。もうその呼び方されるの、モヤモヤしちゃうの」


 どうしよう。言うべき言葉が見つからない。キスのせいだ、このキスで思考を乱された。まほろは今、1つの事しか考えられない。


(キス、なっ、どうして……ぁぅ)


 唇がチリチリ痺れる気がした。キスの後も、結音はほんの少し離れただけで、彼女の顔はまほろの眼前にある。

 結音はどうして離れないの?


 まほろの目を見つめて、ほんの少しだけ口を開け。瞬く間に頬を赤く染めポツリと語った。


「恥ずかしい……」


 恐らく。この言葉はまほろには聞こえていないと思って話してる。でも、しっかりと聞こえていた。

 キスをした理由など明白だろう、好きの気持ちを伝えたいからだ。誠心誠意伝えるには、これ以外方法は無いと結音は思っている。


 こんなやり方、結音(じぶん)らしく無いのは解ってる。でも、まほろさんにコレが一番良く伝わると思ったから。

 結音は、羞恥心を押し殺し……したのだ。本来、告白が成功したらしようと思っていたキスを。


「ほら。結音……って、呼んでみて」

「……」


 その結音に襲っている羞恥心は、まほろにも伝わった。彼女は本当に強いとも思う。


(そんな彼女に、私なんて釣り合うはずが……ッッ)


 無い、絶対に無い。僅か1秒足らずでまほろは思ったが。まほろの心が強い拒否感を出す。


 いや、いや、嫌だ。悩みはある、色んな不安もあるけれど。押し殺したくない。この気持ちだけは。

 言いたい、好きって言いたいよ。言わなきゃ、言わなきゃ、でも怖い、不安だ。泣き出したいくらいに。


 ズキズキ、チクチク心が痛み棘が刺さる。いつしか、まほろは目を潤ませ泣き出す寸前までに陥った。

 その刹那、まほろの心が1つの感情を生み出し。一種の衝動となって……無意識に言葉となって出た。


「私も好き!! この先、どうなったって良いくらいに。ゆ、結音……さんの事が大ッッ、好き!!」


 強過ぎる感情には言霊が乗る。まほろが放ったのは"愛情"と言う言霊だ。言った通り、もうどうなったって良いと思っている。

 言わないのはもっと嫌だと思ったから、でも……怖い。でも言えた、無意識にだけど言えたのだ。


「ハ……。へ、ぁ」


 そして、直後にまほろに恐怖が襲う。言ってしまった。生徒と付き合う事を認めてしまった。どうしよう、こんなのこんなの、ダメに決まっているのに……。


 でも。まほろは否定しない、したくないんだ。結音が好きなのは間違いないから。変わりにまほろがしたのは。

 長い長い沈黙だ。


「ふふふ。まほろさんらしいなぁ。でも、やっと好きって言ってくれて嬉しいな。恥ずくてもやって良かった」


 破ってくれたのは結音。まだ黙ったままのまほろの唇を長く見た後、今度は指先でまほろの唇に触れようとする。

 ビクンっと、小さく肩を震わせ後退りするまほろだけれど、背後は壁……下がれる筈はなく。優しく触れられた。


「ぁ、ん。ゆい……ねぇ、さ……ン」

「可愛いなー、まほろちゃん。ごめんね、ちょっぴりイジワルさせて? 痛くしないから」


 もっと、まほろの可愛い反応がみたい。抑えられない想いを抱いて触れた。こんな風にされるイジワルが、とても気持ちよく感じてしまう。


(こ、こんなの。おかし……く、ぁ……っ)


 気を抜けば変な声が出てしまう、手で口を押さえたいけれど。結音が前にいるからソレも出来ない。


「ていうか。私、端ないこと……してるよね。だ、だからその。す、少しだけだから」


 結音は、恥じかしげに語った後。まほろの唇をツーっと指でなどった。集中して感触を味わっている。


「ゃ、だめです。ゆい……ぁッッ」

「ッッ」


 まほろが可愛い声をあげ、結音の肩がピクンっと震え、心の中でイケナイ気持ちが芽生えてくる。

 もっと触れてみたい、もっとまほろの声を聞きたい。そんな想いから結音は、まほろの耳に触れた。


「痛かったら、直ぐに言ってね?」

「へ。ぁ゛……きゃっ、う゛」


 むに、むにっとマシュマロを掴むように優しく弄ばれる。その感覚が擽ったくも気持ちが良くて変な声が止まらない。


(ダメ、だめよ。こんな……ぅ゛、はぁ……ッッ、変な気持ちになっちゃ、ぅ゛)


 必死に口を閉じ、まほろは天井を見上げる。はぁ……ッッと息を切らし、早くもまほろは汗をかき始めた。

 唇が汗で濡れ、口紅と溶け合い仄かにテカらせた時。結音に強烈な誘惑を与えた。


「……ッッ。そんなに見せつけられると。我慢が、ぅ、うぅぅ」


 また、キスしたい。でも、今ここですると歯止めが効かなくなる気がするし。なにより、違う。

 まほろはまだ、告白を受けていない。返事をしていないのだ。それまでは結音はしたくはないし。

 そもそも、そう言う事をするのは、まだ早い。


「ぁ、だめ。も……ん、ンン」


 ふとした瞬間に、まほろがキュッと強く目を瞑る。たったそれだけの仕草すら可愛く見える。

 いつしか結音の呼吸が荒くなり、まほろは目が潤み初め……泣きだしそうになった。


 その時。結音は我に返る。

 危ない、もう少しで一線を超えそうになった。まほろは可愛いから、ついつい手が出てしまったのだ。


 結音は深く反省し、まほろの耳から手を離す。


「……ご、ごめん。これ以上はダメ。変な事しちゃいそうだから、止めるね」

「へ? ぁ、は、はひ……」


 結音のイジワルが終わり、変な声をあげつつ。ほんの少しだけ安心した。

 良かった、あれ以上続けられてたら本当に可笑しくなっていただろう。


 火照った身体を沈めるように、まほろは息を整え。改めて結音をみるが……。


(結音さんが色々してきた事もあるけど、今は直視なんて出来ないわ)


 さっき、随分と変な声を出したし恥ずかしい仕草を見せてしまった。はしたない女だとか思われてはいないだろうか?

 ソレが心配で仕方が無い、そんな事を考えているせいか、妙にモジモジし始めたまほろを見た結音は、察したかの様に……。


「まほろちゃん。まだ私と付き合うのは不安?」


 告白の事に、話を切り替えた。やはり本題はコレだ。まだ答えを聞いていない……いや、結音にとってまほろの答えなど解り切っているが。

 ちゃんと、まほろの口から聞きたいし。言って貰いたいッッ。


 けれど、まほろは応えない。


(あたりよ、結音さん。私はこの後に及んで不安な気持ちは消えてはくれないの)


 好きと言う感情が溢れて、本音を言えたのに。本当に可笑しい限りだ。


(こんなの矛盾してるわ。やっぱり、私が結音さんと付き合うだなんて……)


 止めた方が良い……。自分の想いに反して微かにそう感じ初めた時。流れるような動きで、結音はまほろの耳元へと近付いた。

 結音は、まほろが驚く暇もなく……その可愛い声音、結音自身が持つ母性の様な優しい雰囲気を持って囁いた。


「じゃぁ、その不安な気持ち。私と半分こしよ?」

「……ッッ」


 言われた言葉よりも、囁かれると言う結音の仕草に先にキュンときてしまう。そのせいで、くぱっと口をあけ、小さく声を漏らしてしまった。


「不安になったら、甘やかしてあげる。私がずぅぅっと一緒にいれば安心だよね?」

「くは、ぁ゛……ッッ。そ、しょれ……ぅ゛、ぁ」


 だめ、ダメ、また……またキュンとくる。全身が敏感に感じて抗えなくなる。

 いや……抗わなくても良い。だって、だって、まほろは甘やかされたいと、ずっと思ってきたから。


 心の底から結音の事は信頼しているし、大好きだし……なにより、もっと触れ合いたい。


(もう。色々と悩むのはイヤ。生徒と付き合う事実はあるけれど。そんな事、どうだって……良い)


 甘く、深く、抜け出せなくなる程に。それこそダメになるくらい結音の傍にいたい。結音だけが自分の弱さを知る存在で、甘やかしてくれる存在でいて欲しい。


「は、はい」


 だから、まほろは言ったのだ。恥じらい、切なくなりつつも。まほろなりの言い方で真っ直ぐ、結音に伝えた。


「すごく、安心……するわ。でも……こんな弱い私の事を、本当に癒してくれる?」


 まほろは蕩けきった声音と蕩けきった表情で。漸く全ての感情をさらけ出すが如く応えた。

 続けて問い掛けたのは、まほろにとっての最終確認。コレだけは聞きたい、確かめるみたいで狡いけど、まほろは聞いて安心したいのだ。


「当たり前よ。たくさん癒してあげるっ」

「……ッッ。ゆいね、さん」


 あぁ、やっぱりそうだ。結音ならそう言ってくれると信じていた。どうしてだろう……解り切っていた事なのに嬉しくて堪らない。


「ありがとう……ッッ。私も、私だって結音さんを癒すわ。だから、だからね? 不束者だけれど、その……よろしくお願いします」


 だからなのか。婚約紛いに、真っ直ぐ結音に気持ちを伝えた。若干声音は裏返り掛けてるけど、まほろは伝えたんだ。

 

「ぇ、ぁ……ま、まほろちゃん」


 その刹那、結音に膨大な嬉しさ感情がぶつかった。あのまほろが、あんなに真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた?

 嬉しい、こんなに嬉しいことは……無いっ!!


 結音は思わず微笑み、感極まってまほろを強く抱きしめた。


「や、やった。やったわ!! 嬉しい……ッッ。も、もうっ、中々素直にならないから心配したよー!!」

「ぅ。あ゛……ちょ、ゆ、結音さ……」

「ほんとに、ほんとうに良かった!! 私こそよろしくだよ、まほろちゃんっ」


 そのまま、涙ぐんだ後。結音はまほろの胸に顔を埋め、声を押し殺して泣いてしまった。


(結音さんも、不安だったのね)


 まほろが告白を断るかも知れない、結音は微かに思っていた。だから、ちょっぴり積極的になり過ぎた所もあった。

 でも、まほろが大好きと言ってくれた事。安心すると言ってくれた事に感極まり泣いてしまったのだ。


「まほろちゃん、まほろちゃんっ、うぅぅ……」

「結音さん、ごめんなさい。素直になるの遅くなっちゃって。不安にさせたわよね」


 涙でくしゃくしゃになった顔で、まほろを見上げる結音。

 そんな結音に、まほろは謝り……彼女は改めて感謝の意味を込めて気持ちを伝える事にした。


 あの時は、結音のお陰で告白できた。でも、自分自身の力では出来ていない。結音がソレをして、告白したのだから……。


(私もキチンとしないと)


 軽く上唇を噛み、肩を微かに揺らし。押しつぶされそうな恥ずかしさを抱きつつ、まほろは……。


「私からもキチンと言わせて。だ、大好きよ……結音さん」


 自分自身の力で言った。敢えて結音と呼び捨たのは、より気持ちが伝わると思ったから。恥ずかしさで心と身体が変になっていくの感じ。


 そんな、まほろの表情を見て。面白くなったのか唐突に、涙を見せながら結音はクスリと笑う。


「うん……っ」


 この笑顔は、今まで見せてくれた結音の表情の中で一番好きだと思った。またキュンとくる。この顔を知るのは……きっとまほろだけ。


 だって、結音もこの時決めたから。これは好きな気持ちを溢れ出した笑顔。だから、この表情を見せるのは、まほろだけ。二人きりの秘密の表情だ。


 結音の笑顔を見て、つられてまほろも笑った。微笑ましい雰囲気のなか、2人は暫く廊下で静かに抱きしめ合うのであった……。

 



「あの、結音……さんっ。私、今日も頑張ったんです……だから」

「うん、ちゃんと分かってるよ。私にどうして欲しい?」

「き……キスをして、欲しいです」

「うん。良く言えました」

「……ッッ。ぇ、ぁ……ン゛」


 まほろと結音は恋仲になった。そのとある日の夜、とある場所、2人だけの空間で。まほろと結音はベッドで抱き締めあい深くて甘いキスをした。


 互いの愛を確かめる様に熱い視線を送り合い、キスをし合う。まほろは幸せを噛み締め、結音も幸せを感じつつ……まほろを癒す。

 2人の間には永遠の愛で溢れている。


 切っ掛けは春嵐、まほろは全てを理解してくれて癒してくれる人をみつけた。結音は真に支えてあげたい人をみつけた。


 春は恋する季節、恋とは嵐、夜は静かな雰囲気をつくり人の心を露にさせる……。


 春嵐の夜にそっと手を。結音が差し出したのは手だけではなく心もだろう。でなければ此処まで深い関係になってはいない。


「ゆ、結音……さんっ。それじゃ物足りないわ。も、もっと……して?」

「もう。甘えん坊さんなんだから」


 ベッドを揺らし、身体を結音に預けたまほろは、強く目を瞑り……結音を受け入れる。

 引き合うように惹かれ合うように。また、まほろと結音はキスをする。


 その後、微笑み……幸せな夜を過ごしたのであった。

 この物語はここで終わりとなります。


 因みに、2人はただ抱き合って寝ているだけです。他意は…………ないです、はい。


 最後に。幸せなキスで閉められて最高な気分です。最後まで読んで頂きありがとうございました。

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