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3章4話

 思い返せば、江咲(えざき) 結音(ゆいね)は春嵐の夜に雨酔(うすい)まほろを好きになったのかも知れない。


 次第に好きの想いが膨れ上がり。気がつけば"私に甘えていいよ"と言い。まほろとの特別な関係が始まった。

 最初はソレだけで終わるかと思った、けれど終わらなかったんだ。


 想いは膨れ上がって、まほろにもっともっと深い関係になりたかった。だって、結音は……まほろの様な頑張る人が好きだから。

 苦しみながら、耐えて耐えて、耐え抜いて弱さを見せずに必死で頑張る人が好きなんだ。


 その想いが本物なのか? 結音なりに確かめた。間違いなく本物だった。なら、もう……行動するしかない。

 江咲(えざき) 結音(ゆいね)は自重しない、恋心には従順に。癒してあげたい人を見つけたら、率先して癒してあげたい。


 加えて言うのなら。


"私だけがそっと手を指し伸ばしてあげられる人になりたい"


 その想いの元。突き進むんだ。

 独占欲、というものなのだろうか? 気がつけばソレが結音を包み込み。日曜日の休日デートと言う行動に至った。



 "好き"

 たった二文字の告白は、恥ずかしがりながら絞り出した、結音の懇親の想い。きっとまほろは困惑し、動揺して言葉を返せないだろう。


 でも安心して。結音はきっと見越してる。暗い言葉を返しても、何も言えなくても、結音は必ずソレに対応してくれる。

 だって結音は、まほろの事が大好きになったのだから。



◇◇◇



「……ッッ」


 "好き"


 たった二文字の告白を受け、まほろは息がつまってしまった。間違いなく、まほろが思った通りの言葉であった。

 好き、好きなんだ……結音は、まほろの事が。


(ど、どうしよう。わ、私……なにも言えないわ)


 色々な言葉が、想いが。頭の中でグチャグチャになって口から出てこない。どうして、なんで? いま抱いている感情も不安定。不協和音のようにガンガンと響いて苦しめる。

 いつもなら出てくる筈の困惑よりも、先に出てきたのはコノ思考であった。


「……ッッ、…………ッッ」


 だめだ、必死に言葉を出そうとしてと。やっぱり出せない。出るのは、か細い呼吸のみ。

 そもそも、まほろはどう答えるつもりなのだろう?


(告白されたんだ、答えないと。でも、やっぱり私とゆい姉さんは……。いえ、でも……わ、私、私が……ッッ)


 何度も何度も思った"立場"の問題? いや……それもあるけど。まほろが一番に思ったのは。


(私が、ゆい姉さんとお付き合いしても良いの?)

 

 気弱で、直ぐに不安になる私なんて……。人にどう思われるかを気にする。被害妄想しがちな自分は……結音と付き合う資格があるの?

 告白をされた嬉しさもあるけれど、考えてしまう不安感は振り払えない。


 こんな事自体考えるのは失礼? それすらも分からない。自分がどうしたかいは二の次。

 この告白を受け入れて生まれる、結音への負担。自分のせいで結音に何かあったら、まほろは耐えられない。


 でも……でも、でも!!


(それでも、私は……付き合いたい)


 素直に、純粋にそう言いたい。

 好きという感情では無い、まほろはそう思っていたが。心が変わってしまった。ソレは結音の告白を受けたから?

 いいや違う、少しずつ……少しずつだ。まほろは結音の事を好きになり始めていたのだ。それが徐々に純粋な好意になった。


(ゆい姉さんの事が、好き。もう認めるわ……。大好きよ。いま思ってる嫌な思考を投げ捨てたいくらい、好きなの)


 これだけ熱い想いがあるのに、踏み出せないのはなぜ? 恐いからだ。


「まほろちゃん、こっちにおいで」

「ッッ」


 恐さが襲いかかるまほろの手を、優しくひいて。まほろは誰からも決して見られる事の無い壁際へと押し付けられた。

 結音を見てみると、真剣な眼差しでみつめてる。彼女は答えを待っている。


「また、暗いこと思ってるでしょ。ダメだよ、そんな顔しちゃ」

「へ、ぁ……」


 まほろは、待っていると思っていたのだが……違った。


「ほら、ぎゅーってしてあげるから。笑ってみせて?」

「……」


 彼女は、答えを急かしてはいない。待ってもいなかった。いつもの様に抱きついて、まほろの背中に手を回してくる。

 そのまま結音は、なにも言うこと無く、暫くまほろを抱きしめた。なぜだろう? まほろの背中に触れる結音の手から尊い感情が伝わった。


 好き、大好き、愛してる。ほんとだよ……まほろちゃん。

 結音の気持ちは本物なんだ、なら……はやく答えないと。でも、口は硬く閉じたまま。言えない、どうして言えない?


 勇気を出せない自分が、これ程憎く感じたことはない。まほろは唇を噛み、己を悔いた……。きっと結音は中々答えを言わないまほろに怒っているだろう。


「……ッッ。ゆ、ゆい姉さん」

「大丈夫。ぜんぶ分かってるから」


 いや……。そんな事はない。むしろ優しく微笑みかけて、優しく背中を撫でてくれた。言葉とおりだ、結音はまほろの事を理解してる。

 

「まほろちゃんの事なら、分かっちゃうの」

「ゆい姉さん……」


 告白をすれば、きっと結音(わたし)の事を想って悩むだろう。苦しい想いをさせるって……。


「まほろちゃんは優しいもんね」

「へ、あ……急にどうしてそんな事」

「気にしなくても良いよ。ふと思っただけ」


 茶化すように微笑み言った後、直ぐに結音は真剣な顔になった。その刹那、空気がピリつく……。

 ジッと見つめる結音の瞳はいつになく真剣で、まほろを強く緊張させた。いったい何を言うの? そればかりが気になった。


「……そう。まほろちゃんは優しいもの。ちょっぴり強引にならなきゃ、告白なんて成功しないわよね」

「ご、強引って。どういう意味ですか? って、きゃっ」


 結音は、よりまほろとの距離を詰めてきた。結音の吐息が胸に当たり、まほろの胸を高鳴らせた時、結音は言った……。


「まほろちゃん。今ここで私の事を好きって言ったら……良いことしてあげる」

「……ッッ」


 この直後、甘い衝撃がまほろを襲った。カクンと膝が崩れ床につくと、眼前に結音の顔が……。

 狡い、でも魅力的だ。そんなの、そんなの言われたら……まほろは惹かれてしまう。屈してしまう。欲しい、欲しくなっちゃう。結音の事が。


「難しい事じゃ無いんだよ? まほろちゃんだって、私の事大好きだよね?」

「ぇ……ぁ、そ、それは……」

「ほら。否定しないって事は、そう言う事よね」


 ちょっぴりキツい物言いだ。責めてる様にも捉えられるけど、そんな事は無い。

 まほろの身体は、何故かゾクゾクしていた。


 その言葉に確信をつかれ。まほろは、なにも言い返せない。彼女の心に刺さったからだ。


「まほろちゃん。素直になって? 私の事好きって言ってよ」

「くぁ、ゆい姉さ……ッッ。み、耳……ふ、ぃ、あ゛ッッ」


 ちょっぴり意地悪くまほろの耳元で話しながら、S気を含んだ視線を向けてくる。新たに見せた彼女の一面は新鮮であり、まほろにとって……もの凄くドキドキさせた。


「そんな反応しないで。私まで、その……変な気分になるじゃない」

「う、ぁ……だ、だってソレはゆい姉さんが」


 でも。この一面はやってる本人はもの凄く恥ずかしいみたいで、慣れない態度が見て取れる。逆にソレが可愛く思えた。


「誰がこんな事をさせてると思ってるの?」

「……ッッ」


 まほろに言葉を返せなくさせた後、結音はちょっぴり遊ぶように、まほろの耳に触れた。その刹那、微かに「ぅ、ぁ……」っと可愛い声を漏らさせ。結音は己の気持ちをさらけ出す様に語りだした。


「聞いて? 私、もうダメなんだ。私の方が、まほろちゃん無しじゃいられなくなってるの」

「え……」

「だって。好きなんだもん、まほろちゃんの事」

「ゆ、ゆい姉さ……ンぁ゛」


 短い言葉に想いを込める。まほろはまだ迷っていた、まだ気持ちに整理が付かなくて戸惑いをみせ。結音の名を呼ぶ、その口を結音は塞いだ。


「まほろちゃんに、みんなと同じようにお姉ちゃん扱いされるのは。モヤモヤして……切ないの。だからもう、ゆい姉さんって呼ぶの止めて?」

「ぁ、や……だって、それは……ッッ」

「皆と違う呼び方、して欲しいな。ダメ?」



 それは、結音からそう呼んでって言ったのに。そう思う間もなく、結音の小さな手はまほろから離れ。

 恥じらいを含んだ目で、まっすぐとまほろを見た。


「結音って呼んでよ。呼び捨てで呼ばれたいの。そ、それと好きって言って。私に甘えてよ」

「ッッ。ゥ、ゥ゛……ッッ。でも私は……ッッ」


 甘い、甘すぎる言葉責めに混乱してしまった。まほろは頭を抱え俯いた。一歩ふみだせる勇気が湧いてこない。だって、怖いから。


「まほろちゃん、悩ませてごめん。辛いよね。でも、私の好きって気持ちは引っ込められないのよ」



 結音は、まほろの気持ちを察し。強く、より強く抱きしめた。身体をくっつければ、まほろは落ち着く事をしているから……。

 でも、今はソレでは落ち着かない。もっと落ち着かせないと。もっと甘やかさないと。


「狡いって言われてもいい。強引って言われても良い。辛いなら傍にいてあげる、ずっとずっと甘やかしてあげるから」

「……」

「だから。これからする事を許してね」


 故に結音は。まほろの顎をクイッとあげ……まほろの唇に向かって、自分の唇を近づけた。

 その結音の行為を見た時、まほろは目を大きく見開いた。


 ……ッッ


 時間にして僅か1秒。体感にして約5秒。まほろは初めてされた"キス"の感触に。ペタンと尻もちを付き、驚いた。


 しっとりと潤んだ瞳でみつめる結音を、ただジッと見つめ放心するまほろの心は、数秒後に慌ただしく乱れてしまった……。

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