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3章2話

 "私とデートしようよ"


 唐突過ぎる結音の言葉は何日経っても、まほろの頭と耳から離れていない。何をするにもソワソワして、また職員から質問攻めにあうまほろだが……。


 なんでもありません、の一言でなんとか切り抜いた。


「今日が日曜日。アァァ……どうしましょう」


 日曜日も寮生達は基本寮の中にいる。でも、外出届けを出して外出したり、家が近い寮生は家に帰ったりしてる。

 故に、寮職員達は平日と変わらない忙しい日々を過ごしている訳だが。ただ、寮母であるまほろだけは、仕事をしていなかった。


 ……いや、する事が出来ない。と言う方が正しいだろうか? 気持ちが早りすぎて集中出来ないからだ。


「もう来るかしら。と言うか、ゆい姉さんは、ほんとうに来るの?」


 ソワソワと、まほろは寮母室で右へ左へ歩いて回る。ジッと時間を見てみれば午後9時くらい。何時に来るとは言ってなかったから、いつ来るか解らない。


 唐突過ぎて、まほろは冗談に思えているが。あの時の真剣な目を思い出せば、真実味がついてくる。


(本当に来たら、どうすれば良いの?)


 カチカチと時計が秒針を刻むと共に、心臓も鼓動を刻んでいく。ジッとしていられないから、寮母室の中を右に左に行ったり来たりと歩く。


 落ち着けない、心がソワソワする。あの時、結音に何か一言でも言えば良かったのに。言う前に放心してしまった。


(だ、だって。あんな事言われるだなんて思わなかったんだもの)


 反応のしようがない。そう言う言い訳を思いつつ、深くため息をついた。丁度その時だった。


「あの。まほろさーん、少し良いですか?」


 ノックの後に、職員が入ってきて。そう言ってきた。


(たぶん、ゆい姉さんが来たんだわ)


 職員は何も話していないが。予想がつく、と言うか、そうとしか思えない。


「なにかしら?」

「あー、えとですね。まほろさんを呼んで来て欲しいって。たぶん学園生の娘ですよ、背が低かい可愛い娘でしたよ」

「そ、そう」


 ……やはり、結音が本当に来た。その特徴は間違いなく結音だ。


「もしかして、知ってる娘ですか?」

「そうかもしれないわ」

「ほー。そうなんですか、へー。ふふふ」


 ふーん、と呟く職員。なぜだか知らないけれど。じぃ……っと、まほろを見つめてくる。なんだろう、この職員……仄かにニマニマ微笑している気がする。


「どうかしたのかしら? 私の顔になにかついてたりするの?」

「いや、そう言う訳じゃないんです。ただ……」

「た、ただ……?」


 何故だろう、よりニマニマして。まほろを見てくる。意味深過ぎて逆に怖い。


「まほろさんは、愛されてるんだなぁ……って」

「へ? あ、あい?」

「おっと。口が滑っちゃった、これ以上は私からは何にも言いませーん」


 またまた意味深な事を言った。愛されている? いったい、どう言う事だろう。

 職員は「ニシシシ」と妙な笑い方をして部屋から出ていった。

 とっても気になり、是が非でも聞き出したい所だが。


「よく解らないけど。はやく行かないと」


 今は、玄関で待つ結音の方が先決。という訳で、まほろは急いで部屋から出ていった。その直後に、結音が言った"デート"という言葉を思い出す。


 結局まほろは、その事をどうするか決めていない。なのにこのまま会っても良いのだろうか? いや、折角来てくれたんだ、会わないのは失礼だ。


 必ず会わないと。それに……。


(わ、私も会いたいって思ってたから。そ、それと。本音を言うと、ゆい姉さんとデートしたい)


 不器用な純粋な想いもある。でも、本当に行っても良いのだろうか? どうしても考えてしまう立場と言う問題。こんなに悩んでしまう自分がイヤ。ハッキリと決めたいのに……。


 真剣に思考を巡らせている内に、まほろは玄関へと辿り着いた。そこには、壁にもたれかかる結音がいた。


「あ。おはよ、まほろちゃん。元気そうでよかった」

「う、うん。私は元気よ」


 結音はまほろに気がつくと、早々に話し掛け。元気いっぱいの笑顔を見せる。


 今日の結音は、一段と笑顔が素敵だ。でも……まほろは結音を見て、1つ思う事があった。


(えと、こう思うのは悪いのだけど。ゆい姉さんって、私服が……こ、個性的なのね)


 なんというか。流行りに合っていないとか、そういうレベルでは無く。単純にダサいのだ。よく分からない可愛いと変なキャラの中間を行くキャラクターの服を着ていて。

 独特な色合いのスカートを履く。そんな事は口が裂けても、まほろは言わないけど。悪いと思いながら、思ってしまった。


「今日は晴れて良かったね」

「え、えぇ。そうね。いい天気だわ」


 と、少し失礼なことを思っていると。唐突に結音が話してきた。確かに、いい天気だ。仕事が無ければ散歩にでも行ってみたいくらい。

 結音は、鼻歌交じりにまほろに近づき、ピトリと密着した。その仕草に思わず心が高鳴って、後退りするけれど……。


「良いデートにするから、よろしくね。まほろちゃん」

「ッッ!?」


 ぎゅっと、まほろの手首を掴み。離れさせてはくれなかった。有無を言わせないと言う言動は、まほろを黙らせてしまう。


(やっぱり本気で言ってたんだわ)


 心揺れるその言葉には、やはり緊張を隠せない。結音とは少し特殊な関係を持つまほろにとっては、ただ事では無いのだ。


「行こっか。私ねー、この日の為に色々と用意してきたの」

「あ、えと。ゆい姉さん……その、待って」


 でも。やはりまほろは迷ってしまう。

 このままデートに行っても良いのか、生徒と寮母が一緒に歩く姿を見られたら……一体どんな風に思われるか、やっぱり不安で仕方がない。


 まほろには、こう言う思考がある。ソレだけは抜けきれない。結音ら力強く立ち止まる まほろを優しく見つめた。


 言われなくても解る。大丈夫……安心して? そう言っている様にみえた。まほろは思わず「ゆい姉……さん」と、口ずさんだ時。

 

「ごめんね、まほろちゃん。このデートは私のワガママなの。今日だけは、私の言うこと聞いてもらうから」

「へ、あ!?」


 結音もまた、力強くまほろを引っ張り。菊花寮から離れていき、なんと学園の外へ出ていってしまう。


「あ、あのあの。ゆい姉さんっ、ダメですよ、私は今日、まだ仕事があるの、だから」

「うん、その事なら大丈夫。……実は職員の皆には言ってあるから」

「い、いえ。そういう問題じゃ。って……えぇッッ!?」


 思わず、声が出てしまう。まさかそんな事をしていただなんて……。全く知らなかった。


 そう考えると、さっきの職員の意味深な態度に納得がつく。結音が此処に来ることを知っていて、あんな事を言ったんだ。


(ほ、本当に愛されてる……って感じだわ)


 そこまでして、まほろとデートしたかった。でも、やっぱりどうして? こんな強引すぎるやり方でも。デートをしたい理由はなに?


「まほろさんに、お休みをあげたいのって言ったら。みんなが良いよって」

「……」


 まほろの疑問に答えることなく。

 話続けたあと、結音は立ち止まった。ふぁさっと風で髪が靡いた時、彼女は微笑み問いかけた。


「まだ、まほろちゃんから答えを聞いてないな」

「え」

「まほろちゃんは私とデートしたい?」


 そう。まほろはまだ答えていない。けれど、寮の玄関付近で言うの? この近くには人がいると言うのに。いや、言わなければいけない雰囲気が出ている。でも……。


(そ、そんな事。私が言わなくても、ゆい姉さんなら分かっている癖に)


 分かってて聞くだなんて、結音はちょっぴり意地悪だ。こんなに必死に頼まれたら、まほろも本音を言うしかないじゃないか。


「ゆい姉さん。私、デート……したい、です」

「ふふ。よく言えましたー」


 えへへっ、可愛らしく笑ったあと。クルリとスカートを靡かせながら一回転したあと、速やかに、まほろの手を握ってきた。


「じゃ、いこ。デートのコースは決めておいたんだー」

「はっ、はい。よろしくお願いします」


 なんというか、まほろだけかも知れないが。お見合いみたいな雰囲気になってきた。もうこの時点から、嬉しさと緊張とで心の高まりが止まらない。


(これ、身が持つのかしら……)


 ルンルンと鼻歌交じりに歩く結音を尻目に、まほろは心配し。そんなまほろの気持ちを知る由もなく、結音とのデートが始まった……。


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