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3章1話

「いやー、まいったまいった。あと少しで忘れる所だったよー」


 軽快な女の人の声が聴こえる。あっはっはーと笑いながら教室に入ったその人は教室に入ってきた。

 言わずもがな、大ピンチだ。音を立てるのは厳禁。静かにしないといけないのは解っているが……。この至近距離、この狭い中で二人きりというのは中々に難しいのではないだろうか?


(う゛。ゆい姉さんの吐息が胸に当たってる。擽ったい、と言うより……その、変な感じが……ぅぅ)


 今更ながら、結音の顔が胸に当たっているのが気になりだして。変な気持ちが芽生え始めた。

 ついさっき、好意がどうのと考えていたから余計に……。ダメだ、こんな時に考えるべき事じゃない。


 思考がグルグルと周り、気がつけばまほろの身体は微かに揺れだした。


「ちょ、ちょっとまほろちゃん。ダメだって、あんまり動かないで。押し付けられると、変な気持ちになるじゃないぃ」

「え、あ。ご……ごめんなさい。でも、ゆい姉さんもあんまり動かないで……うぁっ」


 それは結音も同じのようだ。ボソボソと小声で話す、静かにしないといけないのは分かっちゃいるが。

 お互い意識しまくり微かに揺れる、やはりじっとしている事なんて無理だ。同性でも2人は特別な関係なのだから。


「ン? いま物音がしたような……?」


 だが。見回りの人のこの言葉により、一気に静かになる。結音はギュッと結音を抱きしめ動かない様にし。まほろも結音に抱きついた。


 お互い抱きついたまま、静かにし……はやく行ってと念じる。この密着状態でいるのは身が持たないから……はやく、はやく、はやく!!


「んー。なんの音もしない。よし、気の所為だな。さ、次いこ次ー」


 2人の必死の念が届いたのか。見回りの人は教室から去っていく。足音が徐々に遠くなり、聞こえなくなったタイミングで……。


 カチャンーーッッ!!


 静かに、かつ勢いよく飛び出した。


「はァッッ、はぁ……ッッ、はぁぁぁ。心臓が飛び出るかと思ったわ」

「見つかるかと思った。見つかるかとおもったぁぁ。危なかったァァァッッ」


 2人とも膝をつき極度の緊張から解き放たれ、安堵する。同時に密着していた事実に見悶えた。

 まほろは思い返す、結音の抱き心地を……ッッ。


(とっても柔らかかったわ。本人には悪いのだけど、その……ちっちゃくて抱き心地が良いというか、私が抱き着いて甘やかされるのも有り……って、何を思っているのよ!!)


 触れれば瞬時に柔らかさを感じ、ふわっと香るのは結音の匂い。あの狭い空間で、まほろの鼻腔をくすぐって魅了していたのは紛れもない事実。

 あの緊張した状況も合わせて、好意を抱いているかも? その疑問が確信へと近づいた気がした。


 だって、だって、だって。密着していた時、本当にドキドキして……思っちゃいけない事だけど。あの時まほろは。

 "良いかも"と思ってしまったんだ。心が揺れた、正直離れたく無かった。極度の緊張は人を可笑しくさせると言うが……本当に可笑しくなった?


 混乱気味のまほろは、結音になにか話し掛けようと彼女の方を見てみると。


「違う違う、その……吊り橋効果。そう、ソレよ。って、こう思うの2回目じゃん。あーッッ、もうーッッ!!」


 まほろよりテンパっていた。

 これにより、なんと話し掛けて良いか迷ってしまったまほろだが。取り敢えず……。


「あ、あの。ゆい姉さん」

「ッッ!? な、なぁに? どうしたの、まほろちゃん」

「えと、その。さっきの人に見つからなくて、良かったですね」


 当たり障りの無いことを言っておく。まほろの言葉を聞いた結音は、「う、うん」と緊張気味に話しながら頷き、髪の毛を弄り始めた。


「だ、ダメだ。私ってば、さっきので気持ちが抑えきれなくなってる。あの時のまほろさんが、その……良かったんだもん」


 そして、なにかを呟いた。まほろの耳にはボソボソとしか聞こえていなくて、なにを話したか分からない。


 何を話したの? 結音の顔が今まで見たことがないくらい紅い。雰囲気も何処か大人っぽくなって……なぜか緊張が吹き飛んでしまう。

 結音の瞳は潤み、まっすぐとまほろをみつめて……震える口をキュッと結んだ後、また結音は呟いた。


「切っ掛けがどうであれ、もう……思い切って近づいてみよっかな」


 また、聞こえなかった。流石にまほろは、聞き返す事にする。


「あ、あの」


 だが、それに割り込むように結音は言った……。


「まほろちゃん、今日の分を補うくらい、飛び切りに楽しいデート……しよ?」


 唐突に言われた、3文字の言葉は強い魔力を秘めていた。色んな疑問を吹き飛ばすように。窓は開いていない筈の教室に、強い風が吹き荒れ。嵐の如くまほろの心を掻き乱しながら、言霊となり……まほろの耳に響いた。


「で、デー……ト?」

「そ。デート」


 なにも考えつかない、ハイとも言えないしイイエとも言えない。一度吹き荒れた嵐は中々止んでくれない。

 あの夜以上の勢力で容赦なく、まほろの心を荒らしていく。今のまほろは知らない、結音の想いを知らない。


 かつて結音は自宅で思っていた。

 "この気持ちはアレだよね" アレ、とは言わずもがな……好意。

 そう、結音もまた。まほろの事を好きになったかも……そう思っていた。故に彼女は自分の想いを確かめたい気持ちもあり、まほろに近づき確かめた。


 結音は今日のことで確信する。まほろの事を好きだと。

 だけど、まだ確信が持てない。だって、"好きかも"と思った切っ掛け全てが事故の様なモノだったから。


「お弁当作ってくし、たっぷり甘やかしてあげる。だから行こ、ね?」


 知りたい。もしかしたら、抱いた想いは本物かも知れない。甘やかしたいと思った人だから余計に。


 そんな真っ直ぐな結音の気持ちのこもった想いを、まほろは受けた。彼女はペタンと座り込み……固まった。本当にどう答えて良いかわらないからだ。

 そんなまほろを見て、結音はすくっと立ち上がる。


「今週の日曜日に迎えにいくから」

「ッッ。ゆ、ゆい姉さん……わ、私、そのあの……ッッ」

「今日は少ししか甘やかせられなくてゴメンね。じゃぁね」


 かなり強引に話を進め、結音は微笑んで帰っていた。答えなんて聞くまでもなく、結音は必ず まほろをデートに連れていく気だ。

 小さな身体に持つ、大きく真っ直ぐ過ぎる想いは、まほろの気持ちを荒れさせた。


「で、デートって。で、デデデ……でーと……」


 変な妄想が止まらない、まほろは暫くこの教室で悶える事になってしまう。


 一方。強引過ぎる誘いをした結音は早足で階段を駆け下り、ドキドキしっぱなしの心臓を止めるように胸に手を置いた。


 後悔は無い、恥じらいだって無い。隠さずいった、後は確かめるだけ。真っ赤になりっぱなしの顔も抑えて、彼女は呟く。


「……あぁ、もう。私ってば、回りくどいなぁ」


 回りくどい……? かなり強引すぎる誘い方だと思うが、結音が言った言葉の真意はまだ解らない。だがきっと、後に明らかになるのだろう。


 それが解るデートは、本当に今週日曜日に始まる……。

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