2章10話
その中は、暗闇……という程暗くはないが。人2人が入るには狭く、まほろと結音は強く密着していた。
「ぅ、ぐ……狭いですね」
「ん、うん」
2人が入ったのは掃除用具入れ。
まほろは、入るのには少々狭く。結音にいたっては、まほろの胸に顔が埋まってしまい。かなりキチキチの様子。
焦りと恥ずかしさの息使いが、まほろの胸に当たって、少々くすぐったい。
けれど、静かにしないと二人揃ってバレてしまうので静かにするしかない。過去一の緊張する時間がやってきた……。
「し、静かにだよ。まほろちゃん。じゃないとバレちゃうから」
「はっ、はい」
結音の言葉に頷いた後、彼女の緊張をヒシヒシと感じた。小刻みに震えているのはもちろん、顔も真っ赤だ。
「ぁぁぁ。なんでこんな所に隠れちゃうかなぁ……」
ポソポソと呟く結音は、自分がした行動を激しく後悔していた。勢いでまほろを連れてここに入ったけど。明らかにドジな行動だった。
こんな隠れ難い場所、入るべきじゃなかった。
そんな結音を見て、まほろは静かに思う。
(近くで見ると。ゆい姉さんって、本当に可愛いわ)
薄暗くても解る。柔らかな肌にキレイな髪、見ていると吸い込まれてしまいそうな魅力がある。
まほろは、こんな時でも触って見たいと思ってしまったが……さすがに自重した。下手なことをしてバレたら一大事だからだ。
「ッッ。ちょ、あ、あの。まほろちゃん」
「な、なにかしら。あんまり大きな声を出すとバレてしまいますよ?」
「そ、そうじゃなくって……」
だから静かにして。まほろは願うのだが。なにやら結音の様子がなにやら可笑しい。急にモジモジして、仕切りにまほろの方を見ているではないか。
心做しか、なにかを恥じて散る様に見えるが。一体……?
「胸……その、私の顔に当たってる……かも」
「……へ?」
何のことは無い、背丈の関係上。結音の顔にまほろの胸が当たってしまっていた。むにゅりと柔らかなマシュマロの感触は至極 結音の心をドキドキさせる。
指摘された途端。まほろは急激に恥じらい始め、その事実に漸く気付いた。だって、ここに入った直後はバレないように必死だったから。
「ご、ごめんなさい。直ぐに退けるわッッ。って、アイタッ」
「わっ、ちょ。まほろさん、動いたら余計に。むぎゅ、ん、ンーッッ」
身体を揺らすけど、当然退けられる訳もなく。より、結音の顔に胸を押し当ててしまう。思い切り口を塞がれて苦しそうな結音だが、まほろの胸の柔らかな感触に少しだけ"幸せ"を感じてしまった。
「わ、わぁ。ご、ごめんなさい。大丈夫ですか? 息苦しくないですか?」
「だ、大丈夫。だいじょぶだから!!」
慌ててまほろが動けば、結音の顔に胸が押しあたる。その柔らかさときたら永遠に味わっていたいほど。
だが、結音はなんとか気持ちを切り替えた。
「と、とにかく。今は静かにしないと」
「そ、そうですね。ゆい姉さんの言う通りです」
テンパって慌てている場合じゃない。恥ずかしい格好になってしまっているが、このままやり過ごすしかない。
見回りに来たと思わしき人が、ここに来なかったのならソレまで、早々に出てしまえば良い。だが、本当に此処に来てしまったら……。
(遠くにいくまで、ゆい姉さんと此処にいないと)
こんな狭い空間で二人きり、色々と意識して変になってしまうのは確実だ。故にまほろは切に願う。
(お願いします。ど、どうか此処を通り過ぎるか、こっちに来ないでください)
キュッと目を瞑るまほろ、拳もつくり念じた。その念は。
ガラガラ
残念ながら、通じる事は無かった。足音の主は教室の扉を開け。カツカツと靴を鳴らし教室の中に入ってきた。
刹那的にドキンっと心が揺れた、まほろと結音。胸の谷間からまほろを見上げる結音の目は完全に「どうしよう」と言っていた。
まほろだってそう……。
(ど、どうしましょう。大変な事になりました……)
最大のピンチに至ってしまった2人、果たして乗り切ることは出来るのだろうか……?




