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2章8話

 慣れというのは恐ろしい。いや、まほろの場合はある意味助かったと言うべきだろうか?


「じゃぁ。それが終わったら、あっちを手伝ってくれるかしら。大変な仕事だけれど頑張ってね」

「はい、わかりましたっ」


 結音に甘やかして貰う日々があれから続いて、すっかりソレに慣れてしまったまほろ。もう殆ど相手は学生だからと遠慮する事は無くなって。

 彼女は無くてはならない存在、求めてしまう存在になっていた。


(うー……社会的にアウトなのは分かってはいるの。でも、身体が甘えを求めちゃってるのよ。だ、だって仕方ないじゃない。ゆい姉さんが優しくて、つい求めちゃうのよ)


 時間が合えば結音に会って、甘やかして貰う日々を続けていた。その都度、日々の不安や寂しさを癒してくれた。実を言うとまほろは結音のメアドも電話番号も入手している。

 ある時、結音が強引に渡してきたのだ。


"いつでも連絡してきて。たっぷり甘やかしてあげる"


 と。渡される際、食い気味に言われた。こういう事は、よりアブノーマルさを感じさせ、最初こそ戸惑ってはいたが、やはり数回連絡をとる事によって簡単に慣れてしまった。


「……あの、まほろさん。1つ良いですか?」

「ん、なんですか?」


 さて、それはさておき。今は学生は授業中の午前中。まほろは1人の職員に仕事の指示を出していた。

 いつものように笑顔で優しく接していく。それこそ見ている人を癒すくらいに。


 それはまさに、まほろの目の前にいる職員がそうだ。じぃぃ……っと不思議そうにまほろを見つめた後、話した。


「最近、なにかありました? すごぉくウキウキしてますけど」

「え。そ、そう見えますか?」


 ほんの少しドキッとした。そんなにウキウキしていただろうか。改めて指摘されると恥ずかしい。


「はいっ。そりゃもう、目に見えてわかります」

「う゛……ッッ。そんなに態度に出ていたのかしら? 恥ずかしいわ」

「ふふ。良いじゃないですかー。いい事あるって言うのは、幸せな証拠なんですから。で、なにがあったんです?」


 職員はニヨニヨしつつ、まほろに近づいて。ちょっぴり悪い顔をした。たぶん、何かを察したのだろう。

 気分は人の何かに興味を持つ学生。きっちり聞くつもりだ。


「特に何もありませんよ。そんな事より仕事を……」

「嘘ですねー。絶対になにかありました。まほろさん。今、そんな顔をしてますっ」


 お見通しですからっ、と言いたげにドヤ顔する職員。目ざとい娘だ、図星だからまほろは困ってしまう。


「私にだけコッソリ、何があったのか教えてくださいよー。もちろん誰にも言いませんから」

「な、なにもないですって。それよりも、お仕事ですよ!! ほら、はやく行ってください」


 誤魔化すように、まほろはパンパン手を叩き急かすように仕事へ向かわせようとするけれど。職員の興味は刺激されたまま、ちょっとやそっとじゃ動じない。


「えー。だってまほろさん。前はすっごく暗かったのに、最近と来たら明るいんだもん。気になりますよー」

「……わ、私にだって色々あるんです。あんまりしつこいと怒りますよ」


 確かに、最近暗い時はあった。それを踏まえての変化を見ると、気になるのは仕方がない。でも、まほろはあまり追求されたくない。

 だって、生徒に甘やかして貰ってる事実を知られかねないから。


「ほらほら、お仕事にいってくださいっ」

「うぇー、なんか誤魔化してるー。絶対になにか隠してるじゃんかー」

「考えすぎですからっ。もう、はやくいきなさいっ」


 だから、兎に角誤魔化す。さっさと話を逸らすために職員の肩を掴み、くるりと方向転換させて、背中をグイグイ押した。

 それでも、人の秘密に興味が惹かれてしまった職員はしつこく言う。けれど、この時の職員はピンッと頭が冴え渡る。


 なにか秘密があって、それを誤魔化す……。もしかしなくても、十中八九"アレ"のことだと思った。だから、決定的な証拠を突きつける時の様にビシッと言い放つ。


「そんなに誤魔化すって事は……。もしかして、好きな人が出来たー、みたいな感じです?」

「にゃ、にゃにをっ!? な、ぇ゛……ぁ゛ッッ、ぁ゛」


 それが、面白いようにまほろに効いた。慌てふためき盛大に後退りして転びかける。そんな様子に、今度は逆に職員が詰め寄った。


「おぉぉ。これは図星ですね? そっかー、まほろさんに恋人かぁ。うんうん、良いですねぇ、相手って誰なんです?」

「え、や。その……恋人なんていません!! べ、別にあの娘は好きとかそう言うんじゃ……」


 そう、結音はそう言う人じゃなくて、甘やかして貰える人。

 でも、それってつまり……好きと言う事になるのでは? と言うより。まほろは話終わった直後に自分の失言に気がついた。


「あのこ……ねぇ。ほぉ……また意味深な事を言いましたねぇ、本当はその人の事が好きなんじゃないですか?」

「え、いや。だ、だから……そ、それは」


 わかりやすく、アワアワと言い出したまほろ。コリコリ髪の毛を掻きつつ、「うぅぅ゛……ッッ」と呻いて。


「と、とにかく仕事に行ってください!!」


 わーっと、感情的に叫んでしまった。こんな姿を職員に見せたのは初めてだ。それも加えて恥ずかしくなってくる。


「えーー!! 気になって仕事になりませんー」

「も、もう。本当にしつこいですよ」

「そりゃしつこくもなりますよっ。他人の恋愛事情なんですから」

「だから、恋愛とかそんなんじゃ無のよー!!」


 いえば言うほど、向こうが求めている反応になってるみたいでイヤになる。暫くその問答? は続き。"好き"と言う感情に心を掻き乱されながら感情的になってしまう、まほろであった。


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