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春嵐の夜にそっと手を 繊細な心に温もりを  作者: わいず
2人のプロローグ
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雨酔(うすい)まほろのプロローグ

百合作品になります。

この作品は私立星花女子学園プロジェクト、参加作品になります。


存分にお楽しみください。

 立成19年、4月の終わりごろ。まだ桜の花が咲き乱れるキレイで心地の良い日和。

 私立星花女子学園の今日の早朝は、そんな素晴らしい光景から始まった。


 何気ない挨拶をする生徒達、和気あいあいと通学するさまは本当に微笑ましい。その光景を静かに眺める女性がいた。


「今日も、みんなは元気そうだわ」


 学園の中に建てられた学生寮、その内の一つ。全室個室の高等部菊花寮の部屋の窓から微笑んで、彼女はポツリと呟く。

 

「あの子達も元気に登校したんだし、私も頑張らないと」


 その人は青い髪ゴムで一つ括りにした黒髪を靡かせ、大きく育った胸も揺らし。足早に部屋から出ていった。


「先ずはお洗濯物を干して、備品の確認もしなきゃ。あとソレから……」


 廊下を歩きながらブツブツ呟く彼女の雰囲気は、とても優しくて美人である。同性でも羨ましがられるナイスバディの彼女、どうやら多忙らしい。


「ま、まほろさーんっ。すみませーん」


 その時だった。慌ただしく遠くから、この寮に働く職員だろうか? 大人の女性が走ってきた。近くまで来た後、その娘は息を切らしたのか、ぜぃぜぃと荒く呼吸する。


「こら、ダメじゃない。廊下を走っちゃいけません」

「う、あ……すっ、すみません」


 まほろ、と言われた女性は。指でバツをつくって優しく叱った。叱ってはいるけど可愛らしい……叱られた女性は、その仕草をみて頬を赤らめつつ頭を下げた。


 と、その直後「ちがうちがう」と言わんばかりに頭を振るう。


「あの、大変なんですっ。今、洗濯物を干してたんですけど。風で飛んでっちゃったんですー」

「あらっ、大変じゃない」


 泣きそうになりながら話す女性に対して、まほろは慌てずに冷静に返す。その後。


「直ぐに取りに行かないと。私も手伝うわ、どこに飛んで行ったのか教えてくれる?」

「え、あー。ありがとうございます、まほろさん」


 優しく話しかけ、その女性に案内させた。スゴく大変な事をしてしまったのに、まほろは怒りもしない。

 それどころか、手伝うと言い出した……。


「ごめんなさい、まほろさん。色々仕事があるのに」

「いいのよ、気にしないで。皆を支えるのが私の大切なお仕事なんだから」

「ま、まほろさーんっ」


 女性は感激のあまり、本当に泣き出した。それを「あらあら」と困ったように呟いて。持っていたハンカチで優しく拭ってあげた。

 と、ここでまほろは自らの事を寮母と言った。そう、彼女は私立星花女子学園 菊花寮の寮母さん。


 しかもこの学園のOGであり。22歳でこの寮に勤めて数年で寮母を任された超すごい人なのである。

 年齢は現在32歳、独身。付き合ってる人はあない。


 寮母であるまほろは、毎日が大変忙しい。けれど彼女決して笑顔を忘れない。故に寮職員からも慕われ、寮に泊まる学園生徒からも大人気。


 ほんとうにママの様な存在である。


 さて、そんなまほろは今。女性職員に泣き付かれ、洗濯物を干している庭へと向かった。ここで洗濯物が飛ばされたらしい……。

 

「どの方向へ飛んで行ったか分かるかしら?」

「え、えっと。多分アッチ……? いや、えと、やっぱりコッチかも」

「あらあら、よく覚えてないのね」

「う、うぅぅ。ごめんなさい」


 女性職員に聞いてみるけど、よく覚えてないみたい。あー、困ったと腕組みして目を細めるまほろ。

 これでは探し様がないわ、と困ってしまう。その時であった。


「あのー。すみませーん、誰かいませんかー」


 ひょこっと、庭にツインテールのおさげ髪の小さな女の子が白いシーツを持って現れた。誰だろう? ここの学園の制服を来ているから、ここの生徒だろうか?


(この寮生じゃないわ、みた顔じゃないもの)


 では自主通学の生徒だろうか。ここに何をしに来たのだろう。と少し思ったまほろであったが、女の子が手にしているシーツをみてピーンっときた。


 もしかしたら、この娘は。飛ばされた洗濯物をわざわざ届けに来てくれたのかもしれない。


「これ、急に飛んできてビックリしたんだけど。もしかして、この寮の……ですか?」

「あらまぁ、それは大変。怪我は無い?」

「へ? あ、うん。怪我はない……けど」


 ホッと一安心だ。もしも怪我でもされたら大変だ。そんな心配を他所に女の子は不思議な顔をして、シーツを差し出してくる。


「えと、良くわかんないけど。はい、これ」

「ありがとう。助かったわ」


 まほろはソレを受け取り、笑顔を見せた。すると女の子の顔がほんのり紅潮する。ほんの少しだけ黙った後、照れくさくなったのかその娘は。


「あ、えと。どういたしまて」


 それだけ話して足早に行ってしまった。


「はーい。気を付けていってらっしゃい」


 また笑顔を見せ、手を振り女の子を見送るまほろ。あの小さな女の子……誰か分からないけど、とても親切な女の子だった。


(名前、聞いておけば良かったわ。改めてお礼したいのに)


 それと、自分から名乗るのを忘れた。まぁ、名乗る暇が無かったから仕方が無いか。と、ちょっぴり考え込んだ後、パンっと手を叩く。


「さ。お洗濯ものは一件落着。作業に戻りましょ、やる事はたくさんあるんだから」

「は、はいっ」


 いちじはどうなるかと思ったけれど、優しい生徒さんがいて助かった。まほろは感心しながら菊花寮に戻っていく。

 さぁ……。まほろの忙しい一日が今、始まった。


読んで頂き、ありがとうございました。

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