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茶番はほかでやってください。

連載の息抜きに。書いてて楽しかったです!


 待って。

「カトリーヌ、君との婚約を破棄させてもらう」

 お願い、待って。本当に待ってほしい。

「・・・・・・・・・ジルベール王子、理由を伺っても?」

 お願い。ちゃんと話を聞いてほしい。

「理由?そんなの君が一番知っているのでは?」

「申し訳ありません。身に覚えがありませんわ」

「白々しい。ここにいるレティシア嬢に向けた嫌がらせをしたじゃないか。忘れたとは言わせない。そんな君に第二王子の婚約者は務まらない」

 今日は、王族や貴族が通う学園の卒業パーティー。その挨拶の席で、王子であるジルベールが今まで育ててくれた学園への感謝を述べるではなく、カトリーヌを糾弾した。突然のことに皆が動きを止め、二人を見る。

「レティシア様にわたくしが嫌がらせ?」

「確かにレティシア嬢は男爵令嬢で身分は低い。しかも、彼女の家は決して裕福だとは言えない。しかし、それを理由に態度を変えるなどあってはならない。それなのに、君は身分を盾にレティシア嬢にひどい言葉を投げかけた。それに周りの令嬢にも声をかけ、彼女を孤独にした。それは立派な嫌がらせだ」

 本当に待ってほしい。お願い、ちゃんと話を聞いて。

「だから、カトリーヌ、君と婚約破棄する」

 そうはっきりと言い切ったジルベールをカトリーヌはただまっすぐ見つめていた。その瞳が美しすぎて、レティシアは泣きそうになる。

 お願い、話を聞いて。

 叫び出したい気持ちをなんとか堪える。だって教えてもらった。貴族の令嬢たるものいつでも淑女でいなくてはいけない、と。

「そして、俺は、レティシア嬢と婚約をすることをここで宣言する!」

 ジルベールの半歩後ろに立っていたレティシアに手を伸ばし、そう叫ぶように言った。

「それは・・・」

「淑女たる品格を失った君に発言する権利はもうないよ」

 ジルベールはカトリーヌの目をまっすぐ見て、冷たくそう言い放つ。

 困る。本当に困る。

「・・・」

 カトリーヌは唇を噛みしめ下を向いた。その顔すらも美しい。

 違う。違う。全部違う。

 叫び出したいのを懸命に堪える。

「あの・・・発言しても、よろしいでしょうか?」

 半歩後ろに立っていたレティシアが小さく手を挙げる。身分の低い彼女が発言することなど本来は許されない。けれどジルベールはうなずいて許可を出す。

「大変、大変、申し上げにくいのですが・・・私、その・・・・・・カトリーヌ様に嫌がらせなどされていません」

「・・・君は、本当に優しいな」

 どこか慈悲に満ちた表情でジルベールがレティシアを見る。けれどレティシアは首を横に振った。

 だから、聞けよ、この馬鹿王子。

 言えない気持ちを心の中で吐き出す。イライラしながらも「私は淑女」の呪文を唱え、なんとか堪えた。

 カトリーヌを見る。どこか困ったような表情に、申し訳なくなる。

 私が、この馬鹿王子と婚約?ふざけるのもいいかげんにしてほしい。レティシアは一つ呼吸をしてからジルベールを見る。

「本当のことをお伝えしているだけです。私の家は貧乏で、家庭教師もつけることができませんでした。貴族のマナーも知らず、学園に入ってしまった。そんな私にカトリーヌ様は貴族のマナーを教えてくださいました。身分の下の者から声をかけてはいけない。いつも淑女として行動することの大切さ」

「学園ではそれらのことは許されている。それなのに、それを強要することがいけないと私は言っているんだよ」

 ジルベールの言葉にレティシアは首を横に振る。

「確かに学園では免除されているルールです。けれど、規則上免除されているとはいえ、気分を害される方は確かにいる。そしてそこに亀裂が生まれる。そうならないようにカトリーヌ様は私に言ってくれました」

「・・・」

「それに孤独にされたのではありません。私は一人の時間が好きなのです。それをカトリーヌ様は周りに伝えてくださっただけ。一人の時間を持てるように取り計らってくれた。私は、うれしかったです。カトリーヌ様の優しさが。私はカトリーヌ様が大好きです」

「・・・」

「だから、私はお二人の婚約破棄の理由が私にあるならば、王子に考え直していただきたいと思います。・・・カトリーヌ様がそれを望むのなら、ですが」

 こんな馬鹿王子でいいのか?という疑問はある。それでもカトリーヌがこの王子がいいのなら、なんとかしてあげたいと思った。

「・・・私は、レティシア、君と婚約を・・・」

「王子。申し訳ありませんが、私は王子を好きではありません」

「え?だって、私の近くにいつもいたじゃないか!」

 ああ。この馬鹿。近くにいたら、誰でもおまえのこと好きなのか?そこまで自信過剰なのか?そこまで思って、ああ、馬鹿だから仕方ないのかとレティシアは一人で納得した。

 確かに近くにいた。そこは認めよう。けれど、それはジルベール目的ではない。ジルベールの執事目的だった。庶民であるが第二王子の執事にまで上りつめた。男爵令嬢なら身分的にもちょうどいいと思ったのだ。優秀なところも高評価だった。けれど、この茶番劇に一言も言わないとなると、ただのイエスマンだったのかなと思う。残念だ。

 レティシアは執事の彼を一瞬見て、すぐにジルベールに視線を戻した。

「たまたま、でございます」

「たまたま?」

「ええ。たまたま、です」

「・・・」

「だから、万が一、カトリーヌ様と婚約破棄されることがあっても、私は王子と婚約などできません。身分が違いますし、そもそも、好きではありません」

 ジルベールが驚いたように目を丸くする。そりゃ驚くだろう。自信満々だったもんな。でも、しょうがない。ここまで言わないとこの馬鹿は絶対に気づかないのだから。

「・・・王子、発言しても?」

 カトリーヌがすっと手を挙げた。ジルベールは何も言わない。無言は肯定と受け取ったのか、カトリーヌは小さくうなずき話し始める。

「わたくしは幼い頃から、あなたの婚約者として生きてきました。いつかは王妃になる。そのために、王妃教育もずっと行ってきました。同年代の皆様が遊んでいる間もいつだってわたくしは知識をため込んでいた。このわたくしよりも王妃になるにふさわしい人がいるとでも?」

「・・・」

 厳しい口調にジルベールは何も言わない。いや、言えない。

「それに、婚約破棄の茶番は、これで何回目ですか?」

 え?何回目って、何回もあるの?レティシアは食い入るようにカトリーヌを見た。

「・・・5回目」

 ご、5回目?多すぎない?ああ、だから執事も何も言わないのか。そうか。ということは、やっぱり、優良物件で間違いない。

「いつも根も葉もない噂を鵜呑みにし、婚約破棄を宣言してきましたね。しかも多くの皆様の目の前で」

「・・・」

「本当にわたくしと婚約破棄して、レティシア様と婚約するのですね?」

「・・・」

「それでいいのですね?」

 たたみかけるカトリーヌ。その彼女をジルベールはまっすぐ見つめている。そしてゆっくり首を横に振った。

「しない」

 しないんかーい!!いや、されても困るけど。

 そして周りの雰囲気が「やっぱりな」の感じになる。

 もしかして、もしかすると?

 レティシアは自分がとんでもない、それこそ茶番に付き合わされていたことに気づく。

「それで、今回はどうしてこんなことされたんですか?」

「・・・・・・怒るカトリーヌって最高に綺麗だよね」

「・・・」

「ほら、その顔。本当に惚れ惚れするよ」

「・・・」

「冷たい目で見られるのも好きだ。いつもの君はいつだってお手本の言葉しか言わないから」

「毎回、毎回、婚約破棄を突きつけられて、それでわたくしが傷つかないとでも?」

「・・・ごめん、カトリーヌ。でも、私は、カトリーヌ、君が本当に好きだよ」

「・・・」

「本当だよ。愛している、カトリーヌ」

 それは、甘い、甘い声だった。思わず聞いていたこちらの頬も赤くなる。レティシアは自分に向けられた訳ではないのに、思わず頬を押さえた。

「・・・まず、巻き込んでしまったレティシア様への謝罪が先です」

「ああ、そうか。レティシア嬢。本当にすまなかった」

「い、いえ」

 全力で首を横に振る。謝罪とかいいんでこれ以上声かけないでください、が本音だ。

「王子」

「ジル」

「・・・ジルベール王子」

「ジル」

「・・・ジル」

「なんだい、カトリー」

 それはとろけるほど甘い声に甘い顔だった。その顔を見せられていたらもしかしたら惚れていたかもしれないとレティシアは思う。まあ、ほかの女に向けたその顔に惚れるほど馬鹿ではないが。

「次は・・・・・・本当に婚約破棄しますからね」

「それは、困るな」

 決して困るとは思っていない声色に、きっとまたやるのだろうと周りを囲む誰もが思った。

「・・・本当ですわ」

「君以外に王妃になれる人はいないのに?」

「・・・」

「君が私の元を離れたら、きっとこの国は大変だよ」

「・・・」

「それでも、私のもとを離れられる?」

 王子、それは脅しです。そんな言葉を言える勇者はここにはいなかった。レティシアはあきれたような表情を浮かべた。自分がこの場所にいる意味を失い頭を下げるとそそくさと場を退散する。

「そもそも私から離れられるの?カトリーは」

「・・・」

「私のこと愛しているのに?」

「・・・」

「大丈夫。それ以上に私はカトリーを愛しているから」

「・・・ジル、あなたって人は・・・」

「好きでしょ?」

 最後に見たカトリーヌの顔は悔しそうで、けれとしっかりとうなずいていた。それを見たジルベールは幸せそうに笑う。

 どうしてこんなやばそうな人を好きなのか。そんなことはわからない。きっと私にはわからない良さがあるのだろうとレティシアは自分を納得させた。一言言い残したくて、けれど言えないから心の中で言わせてもらう。


 とりあえず、爆発すればいいと思う。


婚約破棄されている時の主人公がちょっと、待って!って言っている話を書きたかったのですが、

なんでか、王子とカトリーヌの話になってしまった笑


ジル王子。うん、好きだ。かわいい(笑)


 とりあえず、楽しかったです。ただし、聖龍が進まない・・・


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 第二王子の婚約者なのに王妃ってことはジルが王になるんですよね? こんな茶番を卒業パーティーでしでかす、しかも5回もやる男が支持なんて得られるわけないのでは? 周りの反応もやっぱりなって…
[一言] こんな奴らに仕える執事の妻になんてなったら巻き込まれるのは目に見えてるから やっぱり諦めた方がいい気がします…レティシアさん。 今まで何回もあった茶番ならレティシアへこっそりフォローくらいし…
[良い点] なんだこのクソ茶番
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