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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 第三章 礎石 〜Top of mind〜
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ある日の日和

 日も沈み、辺りは暗く、世の中を照らすものは街灯と家々から漏れ出る照明の明かりのみ。星の輝きも街の灯と厚い雲に閉ざされ、欠け始めた月も見えるはずだがそれさえも見えない。月があるであろう場所も少し薄明るいかな、といった感じだ。


 仕事から帰宅してきた浜崎日和は家の鍵を開けて、家内に足を踏み入れる。外の空気は著しく蒸し暑く、帰ってきた後の冷房の利いた家の中は本当に天国だ。今は汗を洗い流してゆっくりもしたいが、ご飯とか洗濯をしないといけないからそういうわけにもいかない。


 ふと足元を見るといつもより靴が少なかった。どうやらまだ帰っていない子供たちがいるらしい。困ったものだ。思わず大きく息を漏らしていた。


「あっ!おかえり、お母さん!」


 顔を上げると出迎えに娘の花楓が来ていた。相変わらず楽しそうで抱きついてきてくれる。仕事終わりのこの笑顔を見ると自然と頬が緩んで疲労も吹き飛んでしまう。こちらも抱き返してあげた。


「ただいま。今日はなにしてたの?」


 今や浜崎家の戸主となった日和はこれからの予定を頭に思い浮かべながら、自分の娘の頭を撫でて微笑みかける。花楓も嬉しそうに頬を緩ませた。そして彼女は答える。


「今日もね。ソフィアお姉ちゃんに魔法を教わったよ!でね、今じゃ人形5つくらい同時に動かせるんだよ。凄いでしょ?」


「おおっ!凄いじゃん。頑張ったね?」


「もっと撫でてっ!」


「いーこいーこ」


 日和は魔法に関しては全く何も知らない。配偶者である浜崎代表にも機密のことは聞かされていないし、自分から話題にすることもなかったからなのだけど。それでもこうして自分の子供が楽しそうに、そして夏休みを充実させていることが喜ばしかった。

しかし。


「学校の宿題はやったの?」


「うっ……」


 小さな唸り声を漏らして花楓があからさまに視線を逸らす。顔が引き攣っているのがよく分かる。夢中になりすぎてやっていなかったのだろう。小さい頃の自分によく似てる。日和自身夏休み最終日になるまでやらなかったというテンプレはしたことないが、3日前までやらなかったことはある。その時は本当に地獄を味わったものだ。


 だから花楓にはそんな苦労はしてほしくない。

 でもそんな経験をしていない花楓には伝わらないだろうなぁ。

 まあ、やっと夢中になれるものを見つけられたと思えば良いかもしれない。

 それに、夏休みも始まったばかりだし、やらなくてもきっと大丈夫だ。


「ま、今日は良しとしよっか」


「え……?う、うんっ!」


 叱られるとでも思ったのか豆鉄砲でも喰らったように花楓は拍子抜けしていた。けれど直ぐに嬉しそうに頷く。


「でも明日からはコツコツ頑張るのよ?」


「う、うん……」


 嫌そうな顔をする花楓。このままだと明日もやらない姿が見えるようだ。そしてそのまま夏休み後半になって――。


 ……。

 これはソフィアに頼もう。

 花楓もよく懐いているからなんとかしてくれるかな。


「ご飯はこれから作るから少し宿題やってみたら?」


「ええっ!明日って言ったじゃん!」


「じゃあ、手伝って?」


「むぅ〜っ!」


 頬を可愛らしく膨らませてまた嫌そうな表情をする花楓だったが、宿題と手伝いを天秤に掛けて手伝いをすることを選んだらしい。ほんとに良い子だ。


 そして日和は自室に戻ってスーツを脱いで私服に着替え直す。


 ふとベッドが一つしかないことを見て、日和はもういないヒトのことを思い出した。とは言っても少々つまらなくて、不服な出来事なのだけれど。最初はこの部屋にも2つベッドがあった。しかし一緒に寝るようになって直ぐに一つになったのである。つまりあのヒトと結婚してから一緒の部屋で寝ていたのは数日だけだった。そしてある日唐突に別々の部屋で寝ようと告げられたのである。その理由を聞いた時は初めて夫婦喧嘩をしたものだ。


 その理由とは日和が寝ぼけて枕も掛け布団もかっさらっていくかららしかった。その時は全く身に覚えがなかったので、そんなことで別々の部屋にするのか!と憤ってしまったのを憶えている。そして喧嘩をしている傍ら、子供たちが隅で戦々恐々としていて、中でもエヴェリンはそのまま離婚するとでも思ったのか必死で喧嘩を止めようとしていて、今から思えば本当に可愛そうだった。


 結局その時期は冬だったからそのヒトが風邪気味になってしまったことでそれが事実であると理解した。不服だが、自分にはヒトの布団を根こそぎ奪っていく寝相の悪さがあるらしい。その時まではずっと一人で寝てきたから全然知らなかった。もちろん今でも自覚はない。


 確かあの時あのヒトは、彼のおじいさんと同じ目に遭うとは思わなかったとかぼやいていた気がする。


「またあの世で逢えるといいな」


 あの世なんてない。そうあのヒトは言っていた。それでもやはり願ってしまう。自分が死んだ時にまた出逢いたいと。もっと言うのなら生まれ変わってまた一緒に生きていきたいと。

例えどんな姿になっても、どんな形で出逢おうとも。もう一度、もう一度だけ――。


 デスクにはあのヒトと出逢ったばかりの時の写真が立てかけられている。それを見て、毎回願ってしまうのはまだ立ち直れていないのだろうか。そしてこれからもこんな気持ちをふとした瞬間に思い出してしまうのだろうか。


 怖い。

 悲しくて、辛い記憶をずっとずっと思い出し続けるなんて。

 叶わない願いと共に生きていくなんて。


 またそんな思考をしていることに気づいて日和は自分の両の頬をパンッと叩く。


 子供たちがいるのに自分が落ち込んでどうするっ!

 あの子達のためにもしっかりしないとっ!


 日和は目尻に浮かんだ涙を拭って下階に降りて行った。そしてそのままリビングを横切って台所に入るとエプロンを身に着ける。そしてテレビを眺めていた花楓に声を掛けた。


「花楓。じゃがいもの皮お願い」


「はーい」


 さて、今日の晩御飯は”じゃがいもグラタン”だ。そろそろチーズが古くなりそうだったのでここで最後の全部を使ってしまおうという作戦である。


 ”じゃがいもグラタン”の作り方は非常に簡単だ。最悪じゃがいもと玉ねぎとピザ用のチーズがあればそれっぽいのを作れてしまうほどに。


 まずは花楓が皮を剥いてくれたじゃがいもを薄切りにして――浜崎家では単純に輪切りするだけ――ラップして電子レンジで柔らかくなるまでチンする。


 この間に玉ねぎを内側の甘い部分とシャキシャキの辛い外側部分に分けて内側の甘い方を大雑把に切る。そして内側の甘い方をオリーブオイルを引いて加熱したフライパンで柔らかくなるまで炒め、薄口醤油(塩も可)と胡椒(こしょう)で味付け。ここにズッキーニやナス、しめじなどお好みで入れて炒めてあげれば味わいがより深くなる。


 あとは耐熱用の皿にじゃがいもと先に炒めたものとピザ用チーズ、ホワイトソース――小麦粉とバターと牛乳、バジルで弱火で混ぜながら作ったもの――を盛り付けて、焼くだけである。この時、焼く前にチーズの上にマヨネーズとオリーブオイルを掛けるとさらに美味しくなる。


 補足になるが、ホワイトソースに使うバターは有塩でないと無味になってしまう。しかし敢えて無塩を使って薄口醤油で味付けするという裏技的なものもある。こうすることで好みの味というものを出せるようになる。


 これで完成だ。


 因みに玉ねぎの外側は細切りにして軽く炒めたらごま油で風味を付けたスープにしている。玉ねぎの内側と外側で味が違うのはあのヒトの薀蓄だが、これだけでも味が大きく変わってしまうのだから本当に凄い。


 一段落して、ふと日和はあることを思い出した。


「花楓はハヤトたちがどこに行ったか聞いてる?」


 日和はスープの味を調節しながら玄関にはなかった靴を思い起こして問うてみる。もう8時に回ろうとしているのに一体どこに行ったのだろうか?無事であることを祈るしか出来ないが。

対して花楓は頭を振る。


「知らないよ?でもなんか昼間に来たお姉ちゃんに会いに行ったみたいなこと言ってたような?ハルカお姉ちゃんも面倒くさそうについて行ったけど」


「昼間に来た?」


 日和は首を傾げる。ここに来るとしたらエヴェリンかミリアだが、どちらも忙しくて来るとは思えない。来たとしてなにしに来たのだろう?


「連絡しておこうかな」


 ハルカもついて行ったのならたぶん大丈夫だろう。けれどやはり連絡しないのも不安しかない。


「《アサヒ》。ハヤトたちに一言伝えてくれない?」


『良いですよ』


 声を掛ければリビングに置かれた家族共用のパソコンの画面に濡れ羽色の髪の少女が愛想よく現れる。いつも不思議に思うがどうやって電源が落ちたパソコンを起動させて現れているのやら。


「帰りが遅くなるなら連絡して、気をつけて帰りなさい、って」


『了解しました』


 《アサヒ》はふざけてニッコリと白い歯を見せながら敬礼して返す。そして唐突に画面が暗転して彼女は消えた。


 それから暫くしてスープは出来上がり、グラタンも程よく焼き目がついてきた。あとは鶏ガラとして昨晩使った鶏の皮を塩で味付けしながら焼いて、食卓に並べるだけだ。そこで日和は花楓に声を掛ける。


「ソフィアを呼んでくれる?数分でできるから」


「わかった」


 花楓が一つ頷いて駆けてゆく。その背中を見送って日和はガズレンジで鶏の皮を焼き始めた。それを眺めて、一言呟く。


「いつか家族皆で食べたいね」


 その言葉は独り言だったか、それともそこにはいない誰かに掛けた言葉だったか。結局その言葉の意味を日和本人も掴みあぐねてしまった。しかしそれでも今の自分にできることを精一杯頑張ろうと心に誓ったのである。


 そこでメッセージの着信音が鳴る。手元の作業を止めて顔を上げてみる。すると再びパゾコンの画面が光り、《アサヒ》が現れた。


『返信です』


 どうやらハヤトたちからの返信が来たらしい。そして彼女はそれを読み上げた。


『当分帰れなさそう。でもエヴェリンのところにいるから心配しないで、だそうです』


「…………………………は?」


 予想外の返信に一瞬凍りつく。予想外すぎて頭が追いつかなかった。


「え……?それ、本当?」


 動揺する日和に対して《アサヒ》は淡々と答える。


『はい。本当みたいです』


「そ、そう……」


 こんなことは初めてだ。どんな所に行くにも彼女たちは必ず事前に知らせてくれていたし、夜遅くに出かけるなんてこともなかった。だから日和が吃驚して動揺してしまうのも当然だろう。それも帰って来ないのが大切な子供ならなおさらに。


 親離れかな?

 とうとうグレたかな?

 いや、流石にそれはないか。


 それにしても心配だ。でもエヴェリンとハルカはちょっとやそっとでは危険なことはないだろうし、エレナとハヤトも2人がいるからたぶん大丈夫……だと思いたい。本音としては帰って来ないことが怖い。また失うかもしれない不安でどうにかなりそうだった。


 しかしそれで子供たちの行動を制限するのは単なる我儘だ。自分の気持ちだけで束縛するのは間違っている。


「じゃあ、伝えて。気をつけて帰って来なさい、って」


『了解しましたっ!』


 元気よく《アサヒ》は返事をして姿を消す。その時ちょうどいいタイミングで花楓とソフィアが2階から降りてきた。


「2人共。運ぶの手伝って」


「はーい」


「はーいっ!」


 そしていつもよりも少ない人数で、ちょっと淋しい夕ご飯が始まるのだった。

 彼女は子供たちのために――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。ブックマークを新しくしていただいた読者様本当にありがとうございます。とても嬉しいです!これだけでもやる気がたくさん出てきます!


 花楓がさらりと人形を5体も操ることが出来たと言っていますが、私は書いてて、え?と思ってしまいました。もしこれらを別々に操作している場合、彼女は5つの思考を同時に行っているということになります。もはや人間業でない気がします。でも、そうでない可能性もあるので、可能かもしれませんね。例えば他の人形の動きに連動して動き出すとか。


 度々書きましたが、日和自身配偶者である浜崎代表を失った悲しみから脱却できていません。当然と言えば当然ですが、彼女はそんな悲しみを覚えつつも子供たちのために精一杯生きています。とても優しいですね。そして強いですね。憧れます。でも子供たちを自由にさせすぎるのもどうかと思うのだけれど、まあ、彼女の立場では仕方ないのかな?というか心配をかけ過ぎですよ、ハヤトたちは。もう少しお母さんのことを考えてあげて下さい!


 そして今回はグラタンの作り方に触れてみました。あれってとても美味しいんですよ。今回は少しアレンジしたものですが、とても美味しいです。また作ろうかなぁ?でも最初の電子レンジでチンしないとじゃがいもがサクサクとなって、好みは分かれますが、臭みが残ったりしてしまいます。作る時は気をつけて下さい。因みに玉ねぎの内側と外側では本当に味が違います。中は柔らかくて甘く、外側はシャキシャキで辛いというのが私のイメージです。この2つの分け方は文章では説明しづらいんですが、2つ外側に切り込みを入れて(中心を切らないように反対側に)少し捻るだけです。慣れると簡単ですよ?

ちなみにここに出てきたホワイトソースはそのままシチューのルーとして使えてしまうので、ぜひとも試してみてください。


 評価、感想、質問、お待ちしております。ブックマークもぜひ!ではまた来週ぅ!またまた〜。

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