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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 序章 人工知能と人工実存 〜Soul's whereabouts 〜
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《アサヒ》の正体と話し合い

「それで、これからどうするんだ?」


 家に着いて一息吐いたところでハヤトは尋ねた。主に現在冷静で理知的であろうソフィアと、どこまでも合理的な判断ができる≪アサヒ≫に対してである。

これはただの誘拐などではない。諜報機関が関与する組織的な誘拐だ。その大本をどうにかしないとこのようなことが今後も度重なり起きてしまう。


「まずは……というか、ほとんど≪アサヒ≫の力を借ります」


 ソフィアは冷凍庫から取り出してきた棒アイスの箱を片手にきっぱりと断言した。ただアイスを持ちながらだとどうにも危機感が無いように見えるのはどうしてだろう?


「わーいっ!アイスだぁっ!」


「一人一本ですからね」


「うんっ!ありがとう!」


 無邪気にアイスを頬張るハルカはまるで幼稚園児だ。姿形が18歳くらいの少女のものでなかったのなら絶対に幼児だとハヤトは思ったに違いない。それほど姉という雰囲気が感じられなかった。


 それと特にあれ以降ソフィアがまた謝ることはなかったのだが、既にハルカは気にしていないようだった。呑気というか、なんというか。きっと心の底ではソフィアを絶大に信頼しているから今のように振舞えるのだろう。さっきまで泣きじゃくっていたのが嘘みたいだ。

ハヤトなら少なからず恨みはそんな早く消えないに違いない。


「はい。二人もどうぞ」


「「ありがとう」」


 ハヤトとエレナもソフィアからアイスを貰う。適当に箱から引いたアイスの味は、ハヤトが夏ミカンサイダー、エレナが桃カルピスサイダーだった。(ちな)みにハルカはココナッツバニラサイダー、ソフィアはバナナクリームサイダーである。どうやらサイダー系のアイス箱だったようだ。


 それを口に含めば、ひんやりした甘い氷が溶けて口内に染み渡っていく。熱くなった身体にそれが溶け込んでいくようで、なんとも心地よい。サイダーのシュワッとした刺激も堪らなかった。ハヤトのアイスは柑橘系だからか、長時間走り続けたこともあって疲労が一気に流れ出るような気さえしてくる。


 美味しい……。


 母には既に連絡してあってエレナが無事帰ってきたことを伝えてある。その時の母はとても安堵したようで、エレナが攫われた時とは違って安堵と共に嬉し涙を零しているのが音声越しにでも伝わってきた。やはりとても心配していたようである。今は万が一のことを考えて会社を早退して、学校にいる花楓も迎えに行くらしい。だからもうじき帰って来るはずだ。


「それでさ、どうして≪アサヒ≫なんだ?今は警察とかに頼った方が良いんじゃないか?そっちの方が専門だろうし」


 話を戻してソフィアに疑問をぶつけてみる。人工知能(AI)である≪アサヒ≫は、サポートAI として見れば確かにスペックが異常に高い。しかしそれは電子世界(サイバースペース)でのことであって、仮にここにどこかの諜報機関の手先が押し入ってきたら手も足も出ないであろう。ソフィアは安全だというがその理由も全く分からない。


 しかしソフィアはこれ見よがしに溜息を吐いて、呆れたような視線を向けてきた。


「日本の警察ですよ?大国の息がかかってるに違いないじゃないですか。飛んで火に入る夏の虫です」


「それ、本当なのか?噂じゃなくて」


「ええ。命令に逆らった者は謎の死を迎えるのが定番ですね。病気になることもありますが、それをやってない国はないんじゃないですか?まあ、警察のほとんどの人間がそのことを知らないようですがね」

 

 そこまで迷いなく平然と言われると本当にそんなことがありそうで少し怖くなってしまった。フィクションでよくあることだが、人権など裏の世界にはないも同然なのかもしれない。

まあ、彼女の言葉を信じるならば、だが。彼女の表現は過言に過ぎる。


「だからこそ、≪アサヒ≫を使って戦術と戦略で勝つしかないんですよ」


「そうは言うけどさ。≪アサヒ≫ってそんなに凄いのか?」


『失礼ですね。普段私が何をしているのか、ハヤトさんは分かってるんですか!?』


 突然テレビの画面越しから盛大に≪アサヒ≫が苦言を(てい)してきた。不意打ちのように大声出されると心臓に悪いからやめてほしい。


 それにしても、≪アサヒ≫が普段やっていること?


「うぅん。……目覚まし?」


『違いますっ!!』


 ボケたら鋭いツッコミが入って来た。そのコントのような会話が面白かったのかエレナがクスリと笑う。ソフィアも楽しそうな笑みを浮かべている。ハルカは……いつの間にかソファーの上で寝ていた。本当に呑気だ。気楽とも言うのかもしれない。


 対して≪アサヒ≫は怒ったように振舞って言葉を続けた。


『いつもハヤトさんのために情報を集めてるじゃないですか!?あれらをどうやって入手してるのか分かってるんですか!?』


「いや……ネットだろ?」


『はあぁ……。無理解な男性ってほんと嫌になりますよね』


 ≪アサヒ≫が画面の中で肩を竦めて首を左右に振る仕草をして見せた。


 最後の言葉は要らないと思うし、なんか少しカチンときた。ハヤトが興味をあまり持たなかったのも悪いが、ちゃんと語らなかったのだから無理解だの言われるのは筋違いな気がしてならない。


 しかし話が全く見えてこない。戦術面でなぜ≪アサヒ≫がそんなに重要なポジションにいるというのか。


「≪アサヒ≫は世界有数の人間の総演算能力を超えた、技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えた人工知能なんだよ。ほら、お父さんが持ってた小説に出てくる超高度汎用AI」


「えっ!?」


 エレナが解説するようにそんなことを教えてくれた。しかしハヤトはそれを聞いて納得すると同時に驚愕していた。なぜなら≪アサヒ≫の管理がとてつもなく杜撰(ずさん)だったからだ。


 普通の、一般的に出回っている人工知能(AI)ですら非常に堅固なシステムによって管理されているのである。それは人間が人工知能(AI)のことを創った側でありながら完全に彼らを理解も信用もできないからだ。世界を終わらせる人工知能(AI)の映画のようになったり、人間にとって不都合なことをされるのを毛嫌いしているというのが信用できない理由で、理解できないのはそもそもモノとヒトでは違いすぎるというのが理由である。


 なのに一般的な人工知能(AI)より圧倒的な能力を持ち、遥かに人類を凌駕した存在をこんなに自由にさせていると?


 未だに国際的な条約や法律がないとしても露見すれば世界から非難されるのは目に見えることだ。確か日本の未成立の法律案の中にも完全に管理できていなければならないと罰則が与えられるというものがあったはずである。


 まあ、逆に言えばCONEDsの、父も含めたCONEDs最高権限保持者達が彼女を信用しているからこのような扱いになっているのかもしれない。実際父は人工実存(AE)を世界に解き放っているわけだし。


 彼らCONEDs最高権限保持者たちと一般人の違いはたぶんそういった信用しているか否かの違いでしかないだろう。もしくは理解できているかどうかの違いかもしれない。


「なら、≪アサヒ≫にとって社会を動かすのは簡単。僕たちに有利な環境も作れるのか」


 この世界は通信技術によって支えられている。普通の人間が発言しただけで炎上、果ては社会問題に発展していくことも多々ある。たった一つの動画が国を巻き込んだ大騒ぎにだってなりうるのだ。ならば人間よりも圧倒的なスペックでネットを荒らしまわったらどうだろう。それはもうパニックでは済まないかもしれない。それ程の能力でエレナ達を狙う存在が動けない状況を作り出す。

少し今のハヤトたちにとっては明るい未来が見えてきた。


 しかしソフィアは冷静にハヤトの言葉を否定した。


「世の中そんなうまい話はないと思いますよ?目には目を、歯には歯をとも言いますし。ね?≪アサヒ≫」


『そうですね。皆さんは今の社会が無くなるようなことは望んでいないのでしょう?それだと他の人工知能(AI)やハッカー、または国の邪魔が入って限定的、かつ一時的なものになりますね』


 もう何も突っ込まない。彼女が本気で世界を潰そうとしたら何が原因か分からないままに世界が終わってしまう気がする。気づいた時には目の前に死があるようなことだってあり得るかもしれない。

それだけのことが出来ると≪アサヒ≫は今間接的に主張したのだ。


 正直一瞬未来のディストピアが見えた気がした。


「期間は?」


 確認するようにソフィアが尋ねる。


『何もしなければ、大体一年くらいでしょうか?』


 何をやるのかは分からないが、兎に角(とにかく)≪アサヒ≫が社会に介入すればハヤト達に一年の猶予が得られる。そうすれば今回のようなことや、それ以上のことは起こらないということらしい。

きっと後始末も全部処理してしまうに違いない。


 しかし、そこで、あれ?とエレナが首を傾げた。


「でも≪アサヒ≫って一応CONEDsのトップの人たちが所有者(オーナー)でしょ?私達じゃそんな社会に大きく干渉するような命令出せないんじゃない?」


「ああ、確かに」


「どうですか?≪アサヒ≫」


 人工知能にとってその所有者(オーナー)の命令が絶対だ。≪アサヒ≫の場合、CONEDs最高権限保持者達の総合的な判断の下に決まったことをどこまでも忠実に、もっと言えば素直に実行している。


 彼女が浜崎家のサポートAIとして振舞っているのはとある理由から浜崎代表が幹部全員に認めさせたためである。だから単なるサポートをしている存在からの命令などリスクが高ければ、理由が何であれ拒絶も出来る。その判断でヒトが死ぬとしても。

実のところロボット工学三原則は色々と矛盾したものがあるのだ。


 そして≪アサヒ≫の返事は。


『しっかりと聞きますよ』


「良いのか!?」


 こんな大掛かりなことを≪アサヒ≫が承諾するとは思わず聞き返してしまった。これで失敗すれば所有者(オーナー)に対する反乱、もしくは裏切りになってしまうのに。


『はい、ハヤトさん。私は本来【会社の理念の下株式会社CONEDsを存続させ、それに基づいて経営計画を立て、会社の新商品の提案を行うための人工知能(AI)】です。つまり、CONEDsの機密の塊である人工実存(AE)人工知能(AI)が奪われることはCONEDsが存続できなくなるリスクが付き纏います』


 もし一つの国が彼女の言う機密を手に入れれば技術的な優位に立つためにCONEDsを潰すか、傀儡にしてしまうだろう。仮にそれを防ぐために情報を敢えて全て公開すればそういうことは起こらないかもしれない。しかし今度はその情報をCONEDsが発表する立場に必然となり、容易に人類に取って代われる人工実存(AE)の存在を知ったほぼ全ての社会に断罪されて会社は潰れる。


 なるほど、どこまでも合理的だ。


 そもそも人工知能(AI)に同情というものはない。全て命令通り忠実に熟すのが彼女たちだ。

ハヤト達の感情を(おもんぱか)っての行動ではなく、自らが課せられた、もしくは自らの目的のためにだけに行動する。人間にとっては冷酷、人でなしと言われても仕方ない。

しかし彼女たちにとってそれらはアイデンティティだ。


 彼女たちの根本にある存在理由(レゾンデートル)を否定することはきっと、人間で言うなればアイデンティティを否定したり、プライドを否定することと同義なのかもしれない。だから曲げようものなら彼女たちは何も出来なくなる。いや、自分を見失い、何を目指すべきなのかの指針を失くしてしまう。

アイデンティティの危機と言っても過言ではない。


 そう考えれば、ヒトの都合を適切な手順でない方法で押し付けるのは可哀想なことなのかもしれない。

もちろん、心はないと彼女たちは言うから不快にも思わないだろうが。


『そこで、私からもお願いがあるのですが』


「なんだ?」


 ≪アサヒ≫がお願い?

 彼女にもできないことなどあるのだろうか?


 ほとんど全てにおいて≪アサヒ≫は人間の能力を凌駕しているにも関わらず、ハヤト達の力が必要だという。


 そうして彼女は口火を切った。

 彼女はどこまでも忠実に――。


 さて、今回、というより以前からあったことの解説ですが、私は人とヒトという言葉をを使い分けていました。人は人間のこと。ヒトは人間、人工実存を含めた大きな枠として定義しています。以前まではヒトに人工知能を含めてしまっていましたが、修正しました。人工知能はヒトではありません。

まあ、明らかにそうだったんですが、すみません。


 これからは人工知能の少し合理的に過ぎる話が出てくるかもしれません。私も書いていて何度か読み直しましたし、その辺りは理解していただけると助かります。


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