表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 序章 人工知能と人工実存 〜Soul's whereabouts 〜
29/263

屋上にて

 ハヤトがエレナと共に屋上に上がって最初に思ったのは本当に暑い! ということだった。本当に蒸し暑くて地面からは焼けつくような熱気がこれでもかと伝わってくる。ここで寝そべったのなら人間の丸焼きが完成するのではと錯覚してしまうほどだ。


 じわりじわりと汗が肌に浮かぶのが容易に感じられる。そしてその白っぽい灰色のコンクリートのせいでとても眩しかった。おかげで目を細めずにはいられい。快晴なのもその要因だろう。


 それから次に気づいたことは誰かがその屋上にいるということだった。陽炎(かげろう)が揺らぐ真夏の日差しの下に一人の少女が(たたず)んでいたのである。後ろ姿ではあったがその白い肌が眩しく日光を浴びて、とても輝いて見えた。


「え? なんでここにいるの?」


 その少女を見た時のエレナの反応はそんなものだった。だから少なくともエレナが彼女のことを知っているのだとハヤトは理解できる。


 しかし声をかけようとして、その少女が屋上から何かを見下ろしているのが分かった。そして何かを構えてじっと動かない。


 その構えている物が何なのか理解したハヤトは、内心驚きすぎて固まってしまった。何故なら彼女が持っている物が映画か、アニメか、インターネットの画像でしか見たことがない狙撃銃だったからだ。


 M24のようにも思えるが、そうでもないようにも思える。どうにも洗練されていないそれは、3Dプリンタのセキュリティを掻い潜った部品の数々から構成された手作りに見える。簡単に言ってしまえば不格好。


 銃に関してはあまり詳しくないからよくわからないけれど。


 数瞬後、彼女は何も言わず発砲。続けて3発打ち放ち、計4発が放たれた。


「「……」」


 それにどう反応したらよいのか分からないハヤトとエレナは立ち竦むことしか出来なかった。


「救急車も呼びましたし、 死にはしないでしょう」


 その後、少女はハヤトの前までやって来て自らの名を名乗った。


「私はソフィアです。長女で、あなたの姉でもありますよ」


「姉さんっ!?」


 ハヤトの目の前に現れた少女、ソフィアの第一印象にハヤトは衝撃を受けていた。


 美少女が狙撃銃を担いで自己紹介とか、昔から続くジャンルのゲームか何かを思い出しそうではあったが、残念ながら全く知らない。但しあまりにも奇抜過ぎた。


 それに加え、先程から薄い笑みを彼女は浮かべているが、どこか人を食ったような笑みに思えてそれも彼女の印象を色濃くしている。というか綺麗だからか妖艶さも醸し出していた。


 一体どんな姉なのだろう?

 というか、少し怖いからライフルを早く仕舞ってほしい。


 まさかここで待っていたのが、また知らない姉だったとは思わず、かなり驚愕してしまった。しかしそれと同時にハヤトは変な予感じみたものを感じていた。たぶんそれは間違いではない気がする。


「なあ、エレナ」


「ん? なに?」


(うち)は、何人家族なんだ?」


「9人家族だよ?」


 その人数にハヤトは思わず天を仰いでしまった。


 今まで、記憶がないにしても4人家族とばかり思っていたところにエレナという姉が現れた時点で驚嘆すべきことだった。なのに、ソフィアが現れたばかりか未だ3人も家族がいるとは。


 たぶん、ソフィアも後の3人も父の生み出した人工実存(AE)なのだろう。そこは気にしていないのだが、やっぱり常識が崩れ去るのは何とも形容し難い複雑な気持ちになる。


「あとの3人は?」


「ハルカは今こっちに向かってるはずですし、()()()仕事で全国行っているのと、行方知れずですね」


 ソフィアの回答に色々と突っ込みたいことがあったが、それを聞く前にエレナが思い出したように彼女に疑問をぶつけた。


「そう言えば、ソフィア姉さん。いつ帰ったの? ハルカ姉さんと一緒で当分帰って来ないかと思ったんだけど?」


 そう言えば確かに父の葬儀にも来なかったのは妙だ。何か理由があるのだろうか?


「ああ、そりゃ急いで帰ってきましたよ。まともに端末を使えないですし、大変でした。でも、向こうで知り合ったアマチュア無線家の無線に爆破事件のニュースが入ってですね、父さんの死を知ったのも父さんが死んで一日後だったんです」


 一体どこに行ってたんだ?


 ソフィアは続けて。


「そこで偶然クルーズ船に乗れまして、ほんと辺境から帰るのは大変だったんですから。しかも帰ってきたらあなたが攫われたと≪アサヒ≫に聞いて船旅で疲れている時に駆けつけてあげたんですよ? 感謝してくださいね?」


「あ、うん。ありがとうね。それと……なんかごめん」


 ちょっと上から目線の発言にエレナは苦笑いを浮かべながら、感謝と謝意の言葉を返した。どうやら話の流れからしてエレナ救助のために今まで手助けしてくれたようだ。


 そこでやっとハヤトは気づいた。


「あっ、じゃあ、あの音響閃光弾(スタングレネード)は――」


「そうですよ。まあ、私が投げ込んだわけじゃないんですが……。私がやったのはこれでリアハッチの鍵を破壊しただけです」


 トントン、とソフィアは担いだ銃を軽く叩く。


「そうなんですか。助けてくれてありがとうございます」


「当然です。それと敬語は癖なので常語(じょうご)で構いませんよ。あの時はもっと人が少なかったら、対物ライフルを使って吹っ飛ばしたかったんですけどねぇ。ほんと、武器を隠し持つのって大変なんです」


 最後の言い回しはそれはもう楽しそうだった。それに若干引いてしまう。


 銃刀法違反にもほどがあるだろ……。

 一体いくつ持ってるんだ?

 というか、そもそもそんなものをなんで持ってるんだ?


 こういった発言はあまり突っ込まない方が良い。父もそうだったが、よく分からないことを突然言われて突っ込んでしまうと色々と話が肥大化、かつ話題があらぬ方向にどんどん進行していくのだ。


 例えば、この対物ライフルの例で言うときっと話題は、『本当に対物ライフルで車が吹っ飛ぶのか?』、『そもそも何が吹っ飛ぶのか?』、『ライフルの設計は?』、『更に発展させるには?』と検証が進んでいって、気づいたら元々何の話をしていたのか分からなくなってしまうのである。しかも軽く一時間は時間を費やしたことも珍しくなかった。


 その時の父は物凄く楽しそうに語っていたが、付き合わされる方は根気と理解するための前提知識が必要になる。だからこそ蘊蓄(うんちく)をハヤト達は身に着けているわけだが、毎回疲弊したのは言うまでもない。


 そして、ソフィアにも同じ空気を感じた。やはり親子なのだろう。


 だから話題を変えることにする。時間をとられるのも嫌だったし、先程疑問に思ったソフィアが葬式に出られなかった理由をもう少し詳しく聞こうと思ったからだ。ただ敬語相手にタメ口で話すのは違和感しかない。


「そう言えばさ、今までどこに行ってた、んだ?」


「南鳥島です」


 質問したらとんでもない答えが返ってきた。南鳥島と言えば、日本最東端に位置し、昔アメリカ人が最初に発見してマーカス島、もしくはマルカス島とかいう名称だったとか。そしてその後日本人が入植したらしい。


 つい最近までは一般人の立ち入りが殆ど出来なかったが、最近になって港湾工事が完了して一週間に二本だけだが小さめの船が行くようになったとニュースで聞いた気がする。しかもインターネットは繋がるが少し使っただけで何十万もかかり、雨量は富士山と同じくアメダスに反映されない、正しく辺境である。


 ただその近海には世界最高水準の濃度のレアアースが眠っているらしいのだが、コストの関係上未だに開発されていないそうだ。まあ、あともう少しという報道もあったりするのでそこのところは定かではない。

まあ、そういう価値もなければ港湾を作らないとも言えそうだが。


 そこになぜソフィアが?

 単なる観光だったのか?

 でも、夏休み前のこの時期に?


 そんな顔をしていたのか、エレナがその疑問に答えた。


「ソフィア姉さんは知識欲が旺盛で色々な場所に行ったり、色々やらかしてるんだよ。学校とかも行ってないから一年中お金が許す限り何かしらをずっとやってるみたい。でもうちの姉弟の中じゃ一番頭いいよ」


「やらかす?」


「アメリカ国防省にハッキング未遂を働いたとか……だったかな?」


「いえ、クラッキングしましたよ? それでどうにかできました」


「「……」」


 思わずハヤトとエレナは閉口してしまった。


 そんなのプロのハッカー集団がセキュリティを突破して自慢げに公開したというニュースしか知らない。そもそも個人でどうこうできる相手ではないのだ。個人で挑むということは、一人でビルの解体をしろと言っているようなものなのである。爆弾さえあればできそうだが、解体後の処理も含めればそれが途方のないものだと分かるだろう。複数人いてやっと出来る事なのである。


 なのに人類が培ってきた世界最高水準のセキュリティが施されている最高レベルの鉄壁を個人でクラッキングしたと? しかも突破した?


 滅茶苦茶だ。

 良い言い方をすれば天才か?


 ちなみにこの話を浜崎代表が聞いた時、心底吃驚(びっくり)して放心状態になり、対処のために一月CONEDsに篭ったとか言われている。それでなんとかなったのだからそちらも凄い。


「なんでわざわざ……」


「ほら、数年前にクルド人国家独立戦争にアメリカが介入しましたよね? あの時色々と腑に落ちなかったので、衝動的に。もちろん私がやったとはバレてはないと思いますが」


 もう何も言わない。ただ一つ分かったことはソフィアは色々とヤバいということだ。今まで何もなかったのが不思議なくらいである。下手すれば父にも影響を及ぼしてCONEDsが倒産するなんてことが起きたかもしれないのに。恐らく大なり小なりやってはいけないことを多々やっていることだろう。父もきっとソフィアの衝動的な行動に東奔西走して大変だったに違いない。というか止めなかったのだろうか?


「それでさ、これからどうするの?それに、ここ……暑くない?」


 エレナは本当に暑そうにセーラー襟を抓んでパタパタと服の中に風を送り込んでいる。ハヤトも先程から汗だらだらで死にそうだ。今はだらしなくワイシャツの第二ボタンまで開けている。ただソフィアが全然暑くなさそうだったから無視していたのだが、流石にそろそろ限界だった。バドミントン部所属でも超人になったわけではないのである。


「そうですね。まずは――」


 ソフィアの言葉はそれ以上続かなかった。いや、続けることが出来なかった。


 ハヤトとエレナからすれば一瞬でソフィアがその場から消えたように思えた。近くにいたせいもあるが、気づいたら視界の中から消えていたのである。そして次の瞬間には軽くビル風とは違う風が吹いた。


「お姉ちゃんのバカァァァァッッ!!!!」


 その声と共にソフィアが吹き飛ばされたのだった。

 一体なにが――?


 いやあ、この伏線、悲しい……。


 ちょっと疑問なのが狙撃銃でリアハッチの鍵を壊したとソフィアは言っていたことです。本当にできるんでしょうか?できない可能性の方が大きい気がします。対物ライフルを使えば壊れない方がおかしいですが、街中では流石に……。


 クラッキングに関してですが、個人で出来るようなセキュリティではないです。それこそハッカー集団が協力してなんとかするくらいには硬いです。それに中枢にクラッキングしたわけではない可能性もあります。例えば職員の個人端末を精査して状況を推察したりとか。小さなドローンを使ったとか、まあ、可能性は色々あるけど、何やらかしているの?


 感想、評価、質問お待ちしております。ブックマークもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ