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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 第四章 宿命を背負う少女 ~Outrageous ~
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人工実存

「人間じゃないの」


「人間じゃない?なら――」


 人工知能(AI)、と言いかけてハヤトはその答えに疑問を抱いた。


本当にそうだろうか? 進化しすぎた人工知能(AI)は見ただけでは確かに人間とは区別できないであろう。しかしそれならばわざわざ諜報機関が誘拐という形を取ってまですることだろうか?


 ハッキリ言って日本の人工知能(AI)技術は大国に遅れを取っている。様々な要因があるが、大きな要因として日本はソフトウェアが弱いからだ。


ハードウェアに関しては世界最高峰の技術を手にしているが、人工知能(AI)も含めたソフトウェアはいつの時代も遅れているのである。


人工知能(AI)が強いことで有名なのは中国とアメリカで、それにロシアやイギリス、インド、中東諸国などが続いているといった感じだ。


 そんな大国の諜報機関が遅れた人工知能(AI)技術しかない日本の一中小企業が生み出した人工知能(AI)を狙うだろうか? 例えどんなに父やその仲間たちが天才だったとしてもあり得ない。自分たちで作れば良いはずなのだから。


「私は確かにお父さんに生み出されたよ。けど、人間でも人工知能(AI)でもない。……人工実存(AE)なの」


人工、実存(AE)……」


 それは虚無回廊という空想科学(SF)小説によって初めて使われた言葉だ。英語ではArtificial Existence 。日本語では人工実存となる。


人工知能(AI)のように論理的に、または感情を演じて答えを返す存在ではなく、人間と同じく自分という存在について考え、心を兼ね備えた魂ある創られた存在。

それが彼女だというのか。


「ハヤトは知ってるかもしれないけど、人工実存(AE)っていうのは魂は持っていても全部人工物なんだよ。だから人間の紛い物でしかない。それに私は常時稼働する制御不能の緊急停止も出来ない、ある意味危険な存在なんだよ」


 今の人工知能(AI)でさえごく一部を除いて常時稼働はあり得ない。必要な時に使われ、いざとなれば電源を切ることが可能なように出来ている。これは人工知能(AI)が人間を超えた理解が出来ない存在であるためだ。


何を考え、何を実行するのか分からない。下手すれば人類を滅ぼすように人間を誘導してしまうかもしれない。そんな監視なしには運用できない危険で、且つ便利な道具なのだと一般的には認識されているのだ。事実であるかは関係ない。


 ハッキリ言ってしまうと人工知能(AI)が間違う理由はほとんど人間側に問題があるのだが、それを世の中の人たちは理解していない。人工知能(AI)は自分の存在意義が全てなのである。


 ただ≪アサヒ≫はもしかしたらそのごく一部なのかもしれない。常時勝手に稼働しているし。彼女の本体がどこにあって、どのように管理されているのか分からないから確かめようもないが。


「人間からすればただの怪物でしょ?」


 エレナの最後の言葉はどこか自嘲を含んだ笑みと共に吐き出された。まるで仕方ないように話していながらも、それが嫌だと叫んでいるようにさえ見える。


 だが、ハヤトには関係なかった。


「それだけか?」


「え?」


 ハヤトの答えが予想外だったのか、エレナは困惑したようにハヤトの目を見つめ返した。


「そんなことでお前を拒絶するわけないだろ?」


 思わず開いた口が塞がらなかった。それだけエレナは驚いていた。


 普通はこんなことを言えば誰しもが嫌な顔をするものだ。人工知能(AI)ですら得体の知れない人間よりも賢い存在であるにも関わらず。


恐怖や気持ち悪い感覚を感じさせる彼らですら受け入れがたいのに、唯一の専売特許の、人間の矜持とも言える感情さえも持つ作り物の人工実存(AE)を受け入れられる人間は遥かに少ないだろう。


正しく人間の上位互換であり、完全に人間に取って代われる存在。全てに置いて人間を超える存在。人間の形をした紛い物。代替品。何を考えているかわからない存在。人間以上の能力を有し、生物ではないから生物の制限もない。


 そんなもの、人間が受け入れられはずがない。少なくともエレナはそう父に教えられていた。だからこそ隠さなければならないと。人種や僅かな身体の違い、そして僅かな考え方の違いだけで人間は忌み嫌うのだ。それは歴史が証明している。


 それにこんなことを告白したら、裏切られたと思われる可能性すらあったのに。今までの自分は騙されて良いように使われていたのではないかと思われてもおかしくなかった。


 受け入れられる人間は幾らいるだろうか。きっと僅かな気にしない人間か、何も理解していない人間だけかもしれない。そして間違いなく父の価値観の許で様々な事柄を学んだハヤトは前者だった。


「エレナは僕の姉さんだ。人間かどうかなんて些事に過ぎないよ」


「ハヤト……」


 不安が大きかったが故にエレナの中では嬉しさが溢れていた。嬉しすぎて目元に涙すら浮かぶほどに。ハヤトの顔を見ていたいのに、涙で情景が歪んでよく見えない。


「ありがとぅ……」


「ううん。じゃあ、エレナが狙われている理由って、やっぱりその魂の設計図?」


「……うん。そうだと思う。お父さんが世界で初めて魂を作ったからそれをどこかで知って……軍事目的か何かに使おうとしてるんだと思う」


 世界は醜い。生前に父が語った言葉だ。ある程度小さな社会ですら不安定だと言うのに、世界の人々が一人の感情を尊重するわけがない、と。


世の中は綺麗事だけじゃない。最小単位の社会である家族ですらネグレクトが蔓延っていると言うのに、人間全員が互いを尊重できるわけがない。

まさにこれはその状態だった。


 今狙ってきている奴らはエレナの気持ちなんて少しも考えちゃいない。己の欲望だけに囚われて、誰かを蹴落とすためだけに力をつけて。全部自分のことだけしか考えちゃいない。


裏でそれを支持した人間も合法的な奴隷を量産したいだけかもしれない。


 そんなの、間違っている!

 エレナは人間じゃなくても、ヒトだ。

 ただの道具のように使って良い存在じゃない!


「エレナ。僕が絶対お前を守る。絶対、約束する!」


「ハヤト。それはお姉ちゃんの私が言うことだよ?でも、ありがとう」


 ハヤトが力強く優しげな眼差しを向ければ、エレナも嬉しそうに見つめ返した。

相手のことを知れたことが、受け入れてくれたことが嬉しくて、二人は無言の中でも互いの気持ちが伝わるような温かい感覚を覚えていた。


 どれくらい時間が経ったか。不意に《アサヒ》の声が響いた。


『相変わらず仲が良いですね?よくこんな時にまでイチャイチャ出来ますよ』


「「ッ!」」


 《アサヒ》に言われて初めてずっと互いに見つめ合っていたことに二人は(ようや)く気づいた。ほぼ同時に恥ずかしくなって目を逸らす。どちらも明後日の方を見て反対側に顔を向けるのだが、お約束なのかチラチラと相手を見て、目が合うと逸らすということを繰り返している。そして少しでも目が合うと心臓が跳ねてすぐさま目を逸らした。でも相手が気になって仕方ない。自分たちでは気づいていないようだが、顔が少し紅潮しているようだった。


 それに対して《アサヒ》はこれみよがしに嘆息を吐く。理由としてはまだ安全とは言えない状況で二人の連携に支障があると後々問題になると判断し、しっかりしろ落ち着け、と暗に伝えたのだ。さっきの言葉だって早くここから立ち去らせたいと言うだけの発言である。ただそれも上手く伝わらなかったようなので、話題を逸らすことにした。


『エレナさん。その結束バンドを外しといて下さい。忙しくなった時に外せないと大変ですよ』


「え、ああ、そうだった。……ハ、ハヤト。その、靴紐貸してくれる?」


「お、おお。良いぞ」


 今エレナの靴は学校指定の革靴で靴紐がない。対してハヤトの学校はそこのところは自由なのか、彼は運動靴を履いている。


 実は靴紐で結束バンドは容易に外せるのだ。靴紐でどうやって結束バンドを外すのか。それは結構簡単だったりする。普通は一人でやることなのだが、紐をハヤトしか持っていないので、変則的な共同作業になる。


 まずハヤトが両足の靴紐を解き、その片方の紐を結束バンドと腕でできる輪の中に通す。そしたら両足の靴紐を結んで、靴紐がピンッと張るように二人で引っ張る。この時エレナの手首に少々痛みが走るが少しの辛抱だ。


 最後にハヤトが足踏みのように足を動かせば、靴紐と結束バンドは擦れ合って摩擦熱によって結束バンドの方が先に切れる。まあ、熱に対策されても先に結束バンドの方が摩耗するだろう。

こうして外れるのだ。

一生使うことがないと思っていた父の薀蓄も馬鹿に出来ないらしい。


 次に、靴紐を解いてエレナの足を縛っている結束バンドも同じように解こうとする。しかし予想外なことが起きてしまった。ハヤトとエレナは互いの足を引っ張って切ろうとした。その時、エレナは制服を着ていた。そう。着ていたのだ。

何も考えずに座ったまま足を上げればどうなるか。言わなくても分かるだろう。


 そしてそれに最初に気づいたのはハヤトだった。


『ッ!!??』


 突然のハヤトの狼狽にやっとエレナは何が起きたのか理解して顔を真っ赤にさせた。


「ふぇ?あ……。きゃ――――っ!!」


「僕は何も見てない!!僕は何も見てない!僕は何も――っ」


 捲れたスカートを押さえるエレナに、必死に手で顔を覆って明後日の方を向くハヤトという逃亡中とは思えないカオスが生まれてしまった。


 二人の羞恥を紛らわそうとしたのに更に大変なことになってしまったと、《アサヒ》は必死に打開策を模索したのだが、結局静観することにした。下手に口出しして更なるカオスな状態を作るよりマシだと判断したらしい。


 その後、二人が落ち着いたのはずっと後のことだった。



            †



 ハヤト達が駐車場の影に隠れている時、音響閃光弾(スタングレネード)を喰らった四人はどうにか万全とは言えないものの回復し、逃げ出した取引材料を探していた。ただ全員耳は殆ど聞こえていない。仲間の叫ぶ声が僅かに認識できる程度にしか回復できていないのだ。


 ついでに取引材料がどこに行ったのかも分かっていない彼らは見当違いの方向に足を伸ばしていた。だが、それは彼らの知らないことである。


 また、彼らはエレナのことを最近出回ってきた高性能なアンドロイドだと思い込んでいた。だから一切の躊躇も、同情すら感じていない。彼女はただのモノだと。そして中には敵視する者もいる。彼は人工知能(AI)の所為で人生を壊されたと思っているのだから。


「くそっ!どこ行きやがった!?」


「おいっ!見つけたか!?」


「これじゃあ、間に合わねぇ!」


「グダグダ言ったないで探すんだよっ!」


 彼らは血眼になって路地という路地を駆けずり回っている。生きる金が全くない人間が目の前に金のなる木があるというのに手を出さない人間がいるだろうか。


 これで指示通りに成功すれば一生遊んで暮らせる大金と今までの借金も前科もチャラにされるという。しかし失敗すればこのまま窃盗罪で囚われかねない。

その焦りによって彼らは必至になっていた。


 ここは手分けして探した方が良いと思い始めた時、四人の内一人が倒れた。何が起きたのか理解が及ぶ一瞬前に銃声がそこに鳴り響く。その一音と太ももから(おびただ)しく流れ続けれる血を見ただけで彼らは恐慌状態に陥った。

直ぐに気づいたのだろう。撃たれたのだと。


「ぐぁっ!!?」


「や、やめろぉ!?」


 倒れてのた打ち回っている男は動けなかったが、仲間でもない彼らは互いのことなどお構いなしに、自分が生き残るために脱兎の如く逃げ出した。しかし混乱と恐怖で心が支配されていたのか物陰に隠れようともしない。次の瞬間には一人が悲鳴を上げて倒れ伏せ、再び銃声が響いた。そしてまた……。

こうして全員が倒れて痛みに苦しむことになった。


「な、何が……っ!?」


「痛てぇ……痛てぇよ……!」


「誰か……!!」


「助け……て……っ」


 昼間の路地裏ということもあって他に誰の姿もない。彼らの泣き叫ぶ声が聞こえることもない。虚しく響き渡るばかりだ。


 その間、彼らの太ももからは大量の血がダラダラと流れて失われ続け、希望さえも彼方に消えていった。



            †



「救急車も呼びましたし、死にはしないでしょう」


 少女はスコープから目を放すと狙撃銃を肩に担いでそう呟いた。そして徐に振り向くと、そこにはハヤトとエレナの姿があった。

先程合流したばかりだ。彼らが昇って来ただけではあるが、合流したことには違いない。


「君は?」


 ハヤトの質問に少女は直ぐに答えなかった。ビル風に(なび)く透き通った海を彷彿とさせる天色の、癖毛のウェーブがかかった髪を押えて微笑を浮かべた。女性なら誰でも羨みそうな銀世界を思わせる白い肌が太陽光を浴びてとても眩しい。桃色のノースリーブに真っ白な、ふわりと風を受けるロングスカ―トを着ていて、とても清楚で優雅な雰囲気を醸し出している。しかし肩に担いだ狙撃銃が彼女の美しさをぶち壊しにしていた。


 端的に言ってしまえば、似合ってない。それでも全く意に介していないようであったが。


「久しぶりですね。ハヤト」


 彼女が歩み寄ってくる。そんな彼女に、いや狙撃銃を持つその姿にハヤトは少しばかり(おのの)くもなぜか懐かしさを覚えていた。エレナに感じた既視感をこの少女にも感じられる。それが不思議でならなかった。


 その目の前にいるハヤトを知っているらしき少女は≪アサヒ≫と共にエレナ救出のために協力した仲間なのである。先ほどの狙撃は彼女曰く報復であった。


 そして少女はハヤトにとって驚きを隠せない言葉を、どこか楽し気に放った。


「私はソフィアです。長女で、あなたの姉でもありますよ」

 少年は少女の存在を受け入れ、再び家族に邂逅する――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 さて、今回エレナが人工実存であるということが分かりました。これは前にも紹介した『日本沈没』や『地には平和を』を描いた作家である小松左京さんの未完の小説である『虚無回廊』に出てくる言葉です。使って良いのか分かりませんでしたが、これ以上の言葉を見つけられなかったので使わせていただきました。人工実存は人工物でありながら我々人間と同じく魂を持っています。人工知能とは全く違うものです。人間と人工実存と人工知能の違いは今後語っていく予定ですので、ここでは省かせていただきます。

しかし実際こんな発明が生まれたのなら、それを知ったのなら人間はどのような反応を示すのでしょうか?人間について想像でしか書いていないのでよく分かりませんが、大抵の場合偏見などで差別されることになると思われます。皆さんは人工実存がこの社会にあったらどのように思われるでしょうか?


 そしてこの人工実存。魂を持っていますが、この社会のルールは社会を構成する者が人間であるということを前提に造られています。人権も同じです。人間であるから皆守ろうとするのです。しかし人工実存は違います。作り物故に人工知能と同じく物として扱っても全く処罰はありません。合法的に奴隷として使っても許されてしまうのです。

例えば、この星の歴史上、国も企業も使い捨ての労働力を欲していました。しかし最近は人権問題で労働者にも配慮しないといけません。それは労働者に企業の利益を流してしまうようなものですが、もし人工実存を労働力として使った場合労働者にあてがわれたはずの給料や保証は全て利益として営業者の手に渡ります。

法律上許されてしまいます。しかもこれに加えて人間とは違って大量生産できる人工実存が労働力となればどんなに使い潰しても永続的に労働力を得られて何の問題も発生しません。


 これは人工知能にも出来ます。しかし人工知能にはない感情というものが売り物になる可能性もあるのです。詐欺とか、夜の店とか、絶対の忠誠を誓う兵士とか。

嫌な想像ですが、ありえます。なのでハヤトの父の会社であるCONEDsは人工実存の存在を公表していません。社会どころか世界が変わりかねないからです。変わったら面倒臭いことに巻き込まれていくので。


人工知能の技術で日本が遅れていると書きましたが、この時代であればどちらかと言うと戦略的に使うことに関して遅れているのかもしれません。車や端末にはそれなりのものがあるとは思いますが、国家規模になると本当に遅れている気がします。


 まあ、長話はこれくらいにしましょう。新しい登場人物が現れましたが、新しい家族のようです。まあ、出てこない方がおかしいですよね。理系ならエレナが人工実存で作り物だと聞いた時点で気づいたと思います(ですよね?特に実験屋さんの人)。次回は未来の魔法編のエピローグにして、その次から新しいところに入っていきます。単行本で言えば次回で一冊終わる感じです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人工実存……恥ずかしながらこの単語を初めて知りました(´・ω・) 作品内のエレナちゃんの説明、そしてあとがきの説明……読めば読むほど、この存在をどう捉えたらいいのか分からなくなってしまいま…
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