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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
極東動乱編 第二章 さらなる生存戦略 〜I must live for my family〜 
239/263

誘導

 たくさんの一気読み、ありがとうございます!!

 正直に思えばルナにとってここに来たことはかなり面倒臭いことだと思っている。本当ならこんなところには来たくもなかったし、日本がどうなろうが関係ない。そしてこういう目の前の人物たちのような国家や国民に忠誠を誓った存在はとにかく面倒臭い集団であることも理解していた。


 彼らに関わったら最後、常に敵か味方かという視線で見られることになる。そして敵と判断されれば即座にあらゆる形で攻撃してくるだろう。


 それは金魚の糞どころではない。追いかけてくる猟犬のようである。


 まあ、日本大嫌い集団かつ犯罪者を普通に政治家として祭り上げる集団よりかはマシではあるが。


 そして礼儀がなっていないアサヒの頭を叩いたルナはまず軽く挨拶することにした。隣でアサヒが睨んでくるが無視する。まだ彼女は感情を手にして制御ができていない。どれだけ頭が良くても適応するにはそれなりの時間を要する。


 その点で考えれば一人で来るのが無難だったかもしれない。第一印象はとにかく大事だから。


「突然押しかけてしまい申し訳ありません。本日は重大なお話があるので、このような手段で脚を踏み入れさせていただきました」


「侵入者だっ!」


 だが完全に無視された。そしてこの部屋の外で警備していたであろう国防軍人が部屋に入ってきて拳銃を向けてくる。


 ちょっとだけ余裕そうに肩を竦めてみる。すぐに取り押さえに来ないのは、未知の存在への警戒故か。


「大変失礼なことは承知の上。それでも私達は話し合いに来たのです。正規の方法ではこの国が終わった後の会談になってしまうので、お話だけでも聴いてはいただけないでしょうか?」


 低頭に語りかけるが、彼らの敵意は変わらない。それどころか最初よりも敵愾心が増した気がした。


「どうやって入ってきたかは知らないが、何者だ!」


人工実存(AE)、そういえば分かりますか?」


 正確には違うが、情報撹乱は大事な目くらましとなる。


「貴様たちは噂の被造物(インヴェイダー)か?」


 どうやら人工実存(AE)の情報は少なからず入手しているようだ。

まあ、あれだけ騒がれていたのだから知らない方がおかしいだろう。


 やはり人間から見てこちらは侵略者に見えている。それもそのはず。あれだけマスメディアが大々的に一部事実を捻じ曲げて報道し、そういう印象を植え付けたのだから。そしてその奇抜な容姿も相まって深く印象付けられているに違いない。敵視するのはヒトとして当然のことであろう。


 だからまずその敵視を取り除く必要がある。そして目立つことを逆手に取る。


「その言葉は適切ではありません。確かに人間ではないことは認めましょう。しかし私達は昔からこの国に住んでおり、人間とは敵対していませんでした。喧嘩を売ってきたり、こちらの命が危ぶまれた時にだけ反撃はしましたが……それは生物として当然でしょう? 反撃と言っても信頼を失わない程度です。例えばちょっと不自然に何度も転んでもらうとか」


「……」


 見定めるようにこちらを見据える彼らにルナは続けた。


「あと、あなた方なら報道の自由を掲げ、報道しない自由を当然のことだと認識するマスコミを知っているはず。例え間違っている内容を報道してもそれが記録されないことから責任を取らなかったり、社会的に問題になってもただの謝罪だけで責任を取らない組織をご存知のはず。有名なところで言えばワイワイでしたか?」


 まあ、最近は信頼回復のためにかなりまともな報道もされるようにはなったのは事実だ。だが、昔を知っているルナは今でも報道内容を疑問に思い自分でもいろいろ調べている。多極的に事象を捉え、関連する概念と事項を結びつけて想定するということまでやる。単なる癖であるからもしかすると時代遅れになっているかもしれない。


 そしてそんな話を持ち出したのだが、それでも警戒して沈黙する彼らに、ルナは嫌気が刺して煽ってみることにした。なぜなら、言葉のキャッチボールすらできないのに話し合いはできないから。


「それともなんですか? そんな報道の内容だけを信じて、多極的に物を見れない人間が集まるのが愚かな軍人ですか? 終わってますね?」


「お前ッ! 俺達を愚かだと!」


 傍にいた男がわなわなと拳銃を握った手を震わせて今にも発砲しそうな形相をしている。容態をちらっと見ただけでも必要な栄養素を取れていない。おそらく肉や魚類を食べていないために、ビタミンBが足りていないらしい。


 どうりでイライラして爆発寸前なわけだ。

 だからって、命令無視で撃とうとするか?。

 こんな状況じゃなかったら普通に逮捕だろうに。

 そこの階級の高い人、ちゃんとその拳銃は回収しなさいな。


 このままこういうことが続いたら、回り回って銃器が日本中に広まり、アメリカの銃関連の事件とか、戦前の事件みたいなことが多発して……なんてね。


 ……。


 また現実逃避してしまった。本当に嫌なことがあると別の思考に移る悪い癖があるのはどうにかした方が良いと流石にルナは反省する。


 銃弾に関しては対策はしているので仮に撃たれても死ぬことはない。逆に力の差を見せつけるには絶好の機会だ。やってもさらに敵愾心を煽りそうだけど。


 分かっていたつもりだったが、やはり数値が違えば想定も異なるようである。

 論理的思考ばかりを重視するのも改めた方が良いかもしれない。

 まだその時ではないが。


「やめろ西園寺」


 そこで今にも発砲しそうになっている男を止めたのはどうやらここの中心的人物らしき男だった。階級的に方面軍をも動かせるだろう。名前は榊拓磨だったか?


「ですが!」


「冷静になれ。お前が撃てば我々が愚か者だと認めることになるぞ?」


「ッ!?」


 そこで漸く西園寺というらしい男は拳銃を降ろした。どうやら司令はいざという時は冷静になれるようである。先程の乱暴な言動は追い込まれた状況に押し潰されそうになったからなのかもしれない。


 実にヒトらしい。


 そして榊がこちらに視線を向けてくる。


「それで、お前たちがここまで来た目的は何だ? 話し合いと言っていたが、あいにくこちらはお前たちに構ってられるほど暇ではないんでね。率直に聴かせてもらおうか」


 追い出さないのは先程の現象を見ているからだろう。幻覚であったとはいえ彼らにそれを見破る手段はない。追い出そうともまた勝手に入られると思っている。


 うん。

 狙い通り。


 そしてこちらを殺すという手段は、彼らのプライドが許さない。


 やっと話し合いができると一安心し、話したそうにしているアサヒを牽制しながらルナは言葉を紡いだ。


「では単刀直入に言いましょう。私達はあなた方に戦える人的資源を提供できる準備があります」


「なに?」


 軍人たちが訝しげに目を細める。言葉の真意を確かめようとしているのは分かる。疑うのも仕方ない。彼らの言いたいことも理解できる。そんな都合の良い人的資源があるのならもう既に投入している、と。


 だが、現実的に出来ないわけではないのだ。


「この時代、まだ人間は戦力になるが一般人には専門過ぎて徴兵すらできない。それどころか無人化もこの国の陸軍は先進国に比べて遅れている。今現在闘っている敵は単純な歩兵装備では通用もしない。だからこそ我々が軍人と肩を並べて戦える兵士を提供しましょう」


 世の中は不思議なもので、自衛隊が国防軍に昇格した際に、徴兵制が復活するなんて勘違いしている人間が日本に溢れたことがあった。煽った報道機関や売国的国会議員の存在が大きかったのが原因ではあったものの、実際にはそんなことは行われなかった。


 今現在もこんな事態になってなお国防軍は徴兵など一切していない。それどころかその動きさえも後方支援以外では全くない。


 新たに武器を手に取った事例と言えば、精々地方に自警団が生まれた程度で、その中にはコンコルディアのような組織が関与していたりする。彼らの主な仕事は治安の維持で、軍は戦闘に忙しく関与できていない。警察も彼らに頼ってしまうほどには忙しいのが現状である。


 また軍人として訓練された者でしか戦場には立てていないのがこの時代だ。これは数十年前からある傾向であり、第二次世界大戦の時のような徴兵などすれば足手まといを戦場に連れて行くだけで逆に戦線が崩壊しかねない。


 わかりやすく言えば医師であろう。医師が足りないために一般人から病院に医師として雇い始めればどうなるか。それでまともに病院が動いている未来は全く想像できない。信用すらもない。


 数十年前までは戦車を徴兵された歩兵が返り討ち覚悟で対戦車兵器で撃破するなんてことは起こり得た。軍事ヘリや敵歩兵さえも撃破できた。だが、指向性エネルギー兵器や強化外骨格装備(パワードスーツ)などの登場によりその戦闘力も防御力も一般人では全く敵わなくなっていった。


 それこそ様々な材料に対応した立体印刷機(3Dプリンター)の登場により、普通なら補給が届かないような戦場でもある程度現地調達が可能になったがために補給線を破壊してもなかなかに敵が弱体化しなくなったことも大きい。


 さらに歩兵や兵器の無人化により、その補給に関しても食料や水が要らないという特性や、人間では到底辿り着けない戦闘力の前に訓練された兵士でも負ける時代になった。


 特に近年は顕著な傾向があり、最早軍事職は職人などのような専門家の分野だ。一般人が小銃を撃って突撃するような時代は終わったのである。なんなら対戦車兵器を構えてゲリラ戦をしようにも敵を倒せる保証がなくなってしまった。撃ち出した兵器は空中で全て撃墜されてしまう。


 仮に一般人が戦場に立ちたいと思うのなら、全ての訓練と信頼関係構築を機械のように取得する必要があるだろう。そして精鋭と呼ばれるような兵士にならなければならない。


 つまり、全てを数日で終わらせろと言うわけだ。


 絶対に無理な話なのはよく分かる。受験勉強を全くしないで数分でどうにかしろといっているようなもの。もちろんたまに例外的に出来てしまう存在がいるが、それはあまりにも稀であろう。


 しかしここまでは人間の話。


「我々の持つ技術は僅かな情報を許に短期間で学習する能力を再現できます。国防軍の情報を開示していただければ資源が許す限り無限に軍人を生み出してみせましょう。そしてそれらはヒトではない。使い潰してもらって構いません。そして局所的にはなりますが、それに伴う兵器も提供しましょう。この分断されようとしている天下を一つにまとめ上げ、安定した国家を再建に寄与いたします」


 恐らく今は戦闘を本格化させて現実に打ちのめされていた頃であろう。それならばこのルナたちの提案が如何に魅力的か分かるに違いない。


 だがやはりこんなうまい話はなかなかにないわけで、彼らは罠を疑うかのように否定的な表情を崩さない。


「では、このアサヒが造り出した戦闘プログラムを搭載した兵士を前線へ投入いたしましょう。そうですね。東京のテロ活動をしている組織にぶつけてみます。それを見て判断してください」


 そう言うと、彼らは無言で了承した雰囲気を醸し出した。どんなに警戒していても、藁にも縋る思いなのは変わらないのだ。


「お前たちは何を求める? 偽善でそのようなことはしまい」


 来た。

 どうにか食いついてくれた。


 思わず笑みが浮かびそうなのをルナは堪える。

 誘導によって未来を手繰り寄せる――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます!

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