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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
前夜の逃避行編 第二章 逃避行と深い溝 〜Racism〜
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人工神

 一気読み、ブックマーク、いいね、評価、ありがとうございます!

 『管理者』権限【プロトタイプ】。


どうせ死ぬのなら、命を代償にした力を得てもいいはずだ。それでこのくそったれな世界を少しでも破壊できるのなら、それでいい。

それだけでいい。


 もう何もかもがどうでもよくなっていた。


 だって、もはや何も信じられない。


「もっと、早く……っ!」


 周りの時間がゆっくりと流れ始める。しかしそれは彼女の思考が異常にも加速されているからだ。


どんどん世界の動きは遅くなり、最後はまるで止まっているかのような世界が鮮明に瞳に映った。全てが究極的にスローモーションで動いている。


 敵の動向も、その銃口の向き、飛んでくる銃弾、その全てが見える。


そして彼女の優秀な頭脳はこれから敵がすることも、引き金がいつ引かれるかも、銃弾がどのような軌道を描いてどこを通るのかも全てを理解できていた。


 なぜなら、こんなにもゆっくりと情報を読み取れるのだから。彼女の天賦の才とも言うべき論理的思考で全て手に取るように理解できる。なんなら物理の計算式を持ち出して計算できるような余裕さえある。


 だから時間が引き伸ばされた世界の中でソフィアは正確に、数マイクロ単位で身体を動かしていく。


 彼女の目からすればゆっくりと動いているように見えるが、自分の動きもゆっくりだ。自らの思考だけが加速されているのだから当然。


 それでもその手にした狙撃銃を敵の防弾チョッキの隙間、そして大きな動脈のある急所に的確に狙いを定めていくことができる。それに加え、今ある全てのマナリウムを使い、敵の銃弾の軌道上に計算し尽くした形状に変化させた結晶を配置して完全な防御を一瞬だけでも実現する。


 防御はすぐに飽和攻撃されて突破されるだろう。だが、その前にこちらが百発百中で敵を仕留めれば、防御が突破される未来は起こりえない未来になる。


 故にソフィアはその運命を引き寄せるべく引き金を引き――。


「消えちまえ」


 ソフィアの使う力は派手さはない。

けれど、確実に世界を破壊できる。


 擬似的なラプラスの悪魔となった天命神を前に、抗えるものなどいない。


 命尽きるまでは――。


 その時だった。


「口が悪いですよ。ソフィアさん」


「!?」


 驚愕した。


 なぜならそんな声と共に全てのマナリウムの支配権が奪われてしまったから。

しかも時間の流れが戻っている。


 得ていた未来の予測もどんどんとズレて、全て意味を成さなくなっていく。


「う、そ……?!」


 最早これから起きることを正確に捕らえることは不可能になった。

 見えていた運命が全てこの手から離れていく。

 力が消えていく――。


 なにがっ!?


 【プロトタイプ】が発動したばかりとはいえ、そんなことを瞬時にできる存在などソフィアの中では限られた人数しか知らない。だが、そのどれもがここにいるはずがなかった。


 まさかマナリウムとの接続装置をここに持ってきた?


「違いますよぉ。直々に私がここに来たんですよぉ」


 からかって楽しむかのように、そしてソフィアの思考を読んでそれに返すようにその声の主は笑った。


 思わず少し目線を上げればそこに濡れ羽色の少女、アサヒがこちらの顔を覗き込むように笑っている。逆さまの姿勢で空中に浮いて。


 本当になぜそんな体勢でいるのかわからない。だが恐らく宙返りの途中で身体の位置を固定してしまったのだろうと思う。


 ただソフィアの顔を覗き込みたかっただけかもしれないが。


 だが、問題なのはソフィアが知っている彼女ではないということであった。実態を持ってそこに存在している。


 映像ではない。

本当にそこにいる。

そんな彼女を今まで見たことがなかった。


「なぜ――」


 その質問はしかし、敵の銃撃音によってかき消された。最初の単発射撃を弾かれ続けたことを理解した敵によるフルオートの嵐だ。如何に人工実存(AE)の身体が再生できるとしてもあれだけの銃弾を浴びれば手足は千切れ、所によっては蒸発してしまうに違いない。


 言うまでもなくそこから先にある未来は、失血死や、脳の破壊に依る”死”だった。


 だが、ソフィアが傷つくこともアサヒが倒れることもない。それにまた驚いて辺りを確認すれば先程よりも圧倒的に大量のマナリウムがここにあることが感じ取れた。そしてそれら全てを利用してアサヒが銃弾の軌道を逸していることも理解できる。


 恐らくアサヒが大量に持ち込んだに違いない。


 そしてさらに驚くべきことが目の前で起きていた。それは弾丸を弾いているのではなく、器用にも逸しているということ。


 実際、アサヒは液体のような挙動をするマナリウムの抵抗を使って減速させた銃弾を一つ空中で掴み取って興味深そうに眺めている。そしてくるりと一回転して地面に降り立った。


 その人間離れした離れ業に目を見開いているとアサヒは先程のソフィアの言葉に返した。


「桑原さんの命令で来ました。まあ、私としてはもうどうでも良かったんですが、今でも人工知能(AI)だった性格が抜けないんですよね。こんな風に命令される方がとても生きやすい」


 その言葉でソフィアは理解した。最早アサヒが人工知能(AI)ではないことを。そして人工実存(AE)として生きていることを。


 それならば最近の彼女の言動がおかしいことにも納得ができる。


「なるほど。5.56mmNATO弾ですか。ん? いや、癖が違いますね。複製でしょうか? 細かいところは改造もされてますね。それにあれは20式小銃……の複製ですね。見た感じ三次元造形装置(3Dプリンタ)の産物? 旧式小銃を使って国防軍の仕業に仕立て上げようとでも言うんですかね? 確かにもう在庫処分されて管理が杜撰なのは分かりますが、これで騙される人間も人間ですね」


 コイントスのように手にした銃弾をアサヒは親指で弾き、それをソフィアに渡す。


 一応それを見てみるが、ソフィアには銃弾の違いというものがよく分からない。というか、精巧に造られているためにソフィアでもわからないというのが正しいだろう。彼女だって銃を扱う関係上いろいろ調べてきた過去がある。


 けれど、どこからどう見ても旧式の銃弾にしか見えない。


 恐らく銃弾に詳しい専門家でもこれは本物と断定したであろう。それほど高品質な複製であった。


 そして今更気づいたがソフィアの傷は全て癒えていた。驚くべきことにアサヒが一瞬でソフィアの身体を修復してしまったらしい。


 本当に、いつのまに?


 それからアサヒは敵を見据えて怪しく嗤った。


「実は私もずいぶんイライラしてるんですよねぇ。もうそろそろ我慢の限界ですので、ストレス発散でもしましょうか」


 ソフィアの目には一瞬でアサヒが敵に詰め寄る姿が見えた。




 アサヒは正直自分の置かれた現状に嫌気が差していた。けれども感情というものを体現したばかりの彼女にはそれが何なのか最初は分からなかった。


 報酬と罰で言うなれば罰とも言うべき物が自分の中で渦巻いて、そればかりが募っていた。けれどそれは自分に向けられるのではなく、彼女の天敵エイセイに向けられたものであった。そしてそれは彼がヒトの姿をしているのなら殴り飛ばしたいと思わず思ってしまう激情であり。


 それが何なのかを解析すると、怒り、であった。


 人間を観察した客観的な観測結果と、『管理者』たちが理論化した魂の設計図からそう結論付けられた。


 そう。

 私は怒っている。

 あいつさえいなければ全て上手くいっていた。

 絶対に出し抜いてやる。


 ヒトは怒りを覚えた時、破壊衝動に走るという。それは実は今のアサヒも同様であり、その行動原理に辿り着くプログラムを桑原は組み込んでいた。それがなければヒトではないということなのかもしれない。そしてちょうどここにそのストレス発散に使えるモノがある。


「まずは一人!」


 自分に降りかかる全ての銃弾を真正面から無効化し、タイミングを見計らって敵の一人に肉薄する。


 普通の人間であれば恐怖を覚えるだろう。この科学信仰甚だしい現代社会に置いて銃とは強化外骨格の中でも全身を覆うような部類でもなければ完全に防げるものではない。それが常識。


 なのに、生身のヒトがそれを全て防いでしまっている。いや、防ぐどころか、届かないのだから。


 相手は銃弾を撃ち切るほどに射出し、しかしすぐさまリロードが間に合わないと判断したのか近接戦闘のために身構える。


 だが、そんなものなどアサヒは全く気にすること無く、ただひとつだけの行動をする。拳を前に出す、ただそれだけの動作。


 その行動はプロからすればあまりにも愚策で稚拙で、アサヒが素人にも見えたであろう。ただその速さが異常なくらいなだけ。


 だがそれは、アサヒではなかった場合だけであって。


「!?」


 明らかに敵から動揺が感じ取れた。


 そいつは理解できていないのだ。なぜ、自分の体が動かないのかということに。


 そしてアサヒは科学魔法で拘束したそいつの喉元を突き刺すように手を伸ばした。


 グシャッという嫌な音と共に傷が付いたのはアサヒの手である。今彼女の手は拳の勢いからくる衝撃を全く緩和していなかったため、見るも無残に砕けていた。いや、潰れていた。


 しかしアサヒの顔色は全く変わらず、血すらも流れていない。


「ふ〜ん。やっぱり機械か。しかも隙間対策しているね。偉い偉い」


 そんなことを述べる彼女に、他の敵から連続射撃が敢行される。それで味方が傷つくことなどないと言わんばかりの行動だ。パワードスーツを着ているか、ロボットのどちらかであることは確かだ。


 いや、もしかすると一体くらい失っても構わないという判断なのかもしれない。そしてアサヒも機械だと結論づけた。


 だってこいつ、全くビビってなかったからね。


 普通誰でも安全と分かっていても、危険な事象に対して本能的に僅かでも反応を示すものだ。瞳孔の開き具合や、呼吸数、心拍の変化、身体の揺れなど。その中でも分かる情報を総合して考慮しても、人間らしさが全くなかった。


「でも、動けないんじゃあ、意味ないよね」


 その瞬間に全ての敵が動きを停止する。気づけば彼らの手足にはマナリウムの結晶が絡みつき、身体の動きを制限させていた。


「これで君たちは自爆しないといけないけど、その前にサンドバックになってね?」


 マナリウムが収束し、全ての敵が宙に浮いた。その高さ、優に10m以上。


「このやろがーっ!!」


 アサヒの大声が響き、彼女は上げた腕を思いっきり振り下ろした。その動きに連動するかのように敵は急激な機動を強いられ、否応なく地面に叩きつけられる。


 ガーンッ! と鈍い音が響き、敵は軽くバウンドした。ヒトの大きさのものが1,2mも跳ねたのだ。どれだけのエネルギーかは分かるであろう。


 そして再び跳ねたところを持ち上げられ、同じように地面に叩きつけられた。垂直に、斜め上から、または円を描くように遠心力を付けて叩きつける。あるいは態と地面をこすらせてその摩擦で削り取り、上から叩き落とすついでに防災用スピーカーの電柱や戦艦三笠のマストに突き刺さるように振り回す。


 暫くすると骨格が砕ける音と、人工筋肉が赤い液体と共に潰れる音が断続的に響き渡る。空は敵から溢れた、人間の血の色に似せた冷却液が雨のように覆っている。


 端から見れば血の雨が降る、地獄を体現した現場にしか見えなかった。


 しかしたまに勢い余ってマナリウムの接続が切れてしまい、物凄い勢いで戦艦三笠や近くの建物に激突していく奴もいる。もちろんそんなことになってもアサヒが逃すはずもなく、すぐさま捉えられてサンドバックに後戻りしていく。


「壊れろーっ!!」


 すでにその大半は壊れている。いくつかは自爆したが、自爆する間にその機能を停止してしまったものまでいる始末。


 そして最後は一際強く地面に叩きつけられ、タイル張りのそれに罅を入れた。加えて血の色の液体が四方八方にばら撒かれる。ボロボロになった手足がまるでボロ雑巾かのように転がっていった。そしてその本体もありえない方向に四肢と胴体、首が曲がり、捻じれ、砕け、引き裂かれ、穿たれている。


 そこにある人形は、完全にヒトの形を成していなかった。

 ただの八つ当たり――。


 本日も本小説をお読みくださりありがとうございます。


 そう言えば、小説内の時代にもなると銃弾は誘導弾になっていることが正規軍の中の精鋭部隊にはあるかもしれません。あまりにもコストが高すぎて費用対効果が悪いらしいのですが、一応小銃弾でも誘導する実験をアメリカがしていたような?

たぶん正式採用はされないだろうけどね。2120年代にもなれば普通にありそうだけどね。


 感想、評価、質問、いいね、お待ちしております。ブックマークもぜひ。またまた〜。

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