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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 第三章 残された家族 〜Reconciliation 〜
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お出かけ

 ところ変わって、ハヤトは治療のために白井研究室に出向いていた。そして治療を受けたはずのなのだが、どうにも納得できなかった。というのも今までは細かく検査をして長い時間を取られたのだが、今日は少し検査して首筋に注射をして終わっただけなのである。神経の治療だからそれなりに時間が掛かるだろうと思っていたのに拍子抜けだった。


 白井の言によればマナリウムを利用して治療するため、ハヤトの細胞から作った幹細胞を培養したものを首に注射しただけらしい。その細胞をマナリウムで誘導しながら神経や他の諸々の細胞に変えて組み立てるとか。


 ハヤトの細胞をいつ取ったのかは分からないが、これからは毎日細かく経過観察をしなければならないそうだ。マナリウムを細胞に置き換えるといった、世界で初めての治療だからか物凄く慎重にやっている、らしい。


 因みに動物実験もしていないと聞いた時にハヤトの背筋が凍ったのは言うまでもない。どういったことで失敗するかも分からないからだ。もしかすればほんの些細なことで異常が起きてしてしまうかもしれない。

まあ、逆の工程は実験済みだったらしいので問題ないだろうということだそうだ。

兎に角治せるのは彼女しかおらず、急いで治療しなければならないため、仕方なくハヤトは身を任せることにした。


 そして治療が済んで外に出ると、エレナがマンション近くの花壇に腰を下ろしながら本を読んでいた。

ライトノベルだろうか?小さめの本で、そこそこの厚みがある。集中しているところ話しかけるのは(はばか)られたが、もうすぐ昼になって暑くなるから声を掛けることにした。


「おまたせ」


「あっ、もう済んだの?」


「ああ。なんか簡単に終わったよ」


「じゃあ、行こっか」


 それからはエレナに先導される形で街の中心街に着くと二人並んで歩くことになった。目的地を聞いてもなぜか教えてもらえない。着いてからのお楽しみ、というセリフばかりだ。


 まだ午前中ということもあって辺りはまあまあ涼しい。今が曇りなのもその理由の一つだろう。そのため人通りも真昼よりは多く、歩道は人で溢れている。人が多すぎて直ぐにエレナと(はぐ)れてしまいそうだ。


 周辺の色んな店も賑わっていた。

モールや百貨店の出入り口は開店前の行列ができ、喫茶店では涼しい今のうちに寄ろうと早めの昼食を採っている人たちが見える。同じような理由でコンビニに昼飯を求める人もたくさんいた。


 やはりこの季節は、涼しくてまだ治安が良い方の午前中が賑わうらしい。それでも犯罪が比較的少ないというだけで、本当に少ないというわけではないので、十分注意すべきではある。


「あ」


 不意にエレナの肩が誰かにぶつけられて姿勢を崩した。それに部活で鍛えられた反射神経でハヤトは彼女を支えてやった。


「大丈夫か?」


「う、うん。ありがと」


 顔が近い。事故とは言え、互いの距離が突然ゼロになったことで二人の頬が朱に染まる。ちゃんと歩道の脇に逸れていたため周りに迷惑は掛かっていないが、妙に視線を浴びている気がした。それも相まって物凄く恥ずかしい。

変に見られているようで今すぐにでもここを離れたい気持ちになったが、このまま歩いたら人混みに本当に揉まれてエレナと逸れてしまいそうだ。


 こういう時は――。


「エレナ」


 エレナは呼ばれてそちらに顔を向けるとハヤトが視線を逸らしながら掌を差し出していた。緊張した、羞恥心が隠しきれていないハヤトの意図を読み取って、エレナは微笑ましく、かつ嬉しさでにっこりと頬を緩ませた。

その優しさが嬉しかった。


「ありがとう」


 エレナはハヤトの手を取る。そして逸れないように再び並んで歩き出した。身体が少し熱くて、比較的涼しいはずなのにそんな気がしない。どうにも落ち着かなかった。

それでも嬉しさで一杯だった。胸が高鳴って、なんだか心地良い。


 ハヤトもエレナが手を取り返してくれて嬉しく思っている。けれどやはり恥ずかしくてエレナを直視できないでいた。


 そんな彼にエレナはニマニマした笑顔を向けて、顔を覗き込んだ。


「ハーヤトッ」


「え?なに?」


「ふふっ。呼んだだけ」


 とても嬉しそうに笑うエレナにハヤトも自然と笑顔を返していた。


 そこに雲から射し込む光が二人に降り注いでいた。



            †



 それからは電車に乗り、桜木町駅に辿り着き、そこで降りたところでハヤトはエレナの目的地がどこなのか(ようや)く思い当たった。

駅前の広場に出て、しばし二人はそれを見上げる。


「エレナが来たかったところって、ここか?」


「そうだよ。気分転換に良いかなって思って」


 それは特徴的な形状をした、日本では超高層ビルに分類される建物で、開業した当時は日本一高いビルであり、世界一速いエレベーターがあったビル。そして半世紀以上に渡って横浜を代表する建造物として名高い。

横浜ランドマークタワーだ。


 それを見上げてどこか感慨深げにハヤトは一息吐いた。実はハヤトは横浜に住んでいるのにも関わらず一度も訪れたことがないのである。それはエレナも同じだったりする。有名なのは知ってはいたが、毎日見ていると行ってみたいとはなかなか思わず、ビルの下にも行ったことがなかったのだ。

だからとても新鮮な気持ちだった。


「昇ろうっ」


「ああ」


 桜木町駅から延びる昔ながらの動く歩道に乗る。休日のためか随分と人が多かった。しかしそれでもガラス張りの天井を見上げているとランドマークタワーの高さを実感できて妙な緊張を感じてしまう。自分より遥かに大きな存在の足元にいると思うとちょっと怖い。


「そう言えばハヤトは知ってる?桜木町って、昔は横浜駅だったんだって」


「ああ。知ってるよ。父さんがそんなこと言ってたっけ」


 現在の桜木町駅は日本で最初に開通した鉄道の横浜駅として開業した歴史があるのだ。その後、現在の横浜駅に名称を譲って今の桜木町駅がある。推測でしかないが人の利用者数が多かった東海道本線の方に横浜の文字を使いたかったのだろう。

それでも百八十年近く存在しているだけでもすごいものだ。


「確かランドマークタワーって最初は三百メートルの高さにする予定だったらしいな。今は296.33m だったような」


「そうだね。でもたまたま羽田空港の標準出発経路だっけ?それと重なったせいで世界基準の超高層ビルになり損ねたとか」


「そうそう。それに昔ここは造船所のドックだったとかな」


 因みに300m あれば世界基準の超高層ビルに分類されるらしい。


 二人はまるでランドマークタワーのガイドか、そういう歴史とかのオタクのように語り合ってはいるが、どちらも来たことがないし調べたこともない。


 ではなぜこんなことを知っているのかと言えば、全て父の蘊蓄(うんちく)の所為だったりする。流石に二人は一度聞いて覚えていられるような天才では断じてないのだが、父がしつこい程何度も語ってくれたおかげで覚えてしまったのである。そしてこうした人生では役に立たなそうな蘊蓄をハヤト達姉弟は受け継いでいたりする。

例を挙げるときりがないので割愛するが、兎に角父の幅広い知識にハヤトは脱帽していた。


 ビルに入るのもチケットを取るのもエレベータに乗るのも物凄い行列で並んでいた。だからそこにいるだけで疲れてしまったのだが、三十分くらいで漸く69階の展望フロア、【スカイガーデン】に入ることができた。エレベータの中には速度計があり、今日は天気が良いからか最高速度の分速750m で昇っていく。時速で言えば、時速45km だ。

そして展望フロアの階で扉が開かれた。


「おおっ!」


「わおっ!」


 フロアを進んで最初に飛び込んできた景色は展望の窓から見える青空の下の真っ青な海だった。窓辺に近寄り、そこから見えるのは北東側の景色。少し遠くには首都高速湾岸線や国道357号が通る横浜ベイブリッジとここ十年で建設された中国の斜張橋に抜かされるまで一面吊りの斜張橋として世界一の長さを誇った鶴見つばさ橋。手前には今でもイベントでよく使われるパシフィコ横浜。左手遠方には空気が運よく澄んでいるから東京、武蔵小杉の高層マンション群や都心のビル群が林立している。


 そこから時計回りに周ると次は南東側の展望窓が見えてきた。そこからは先程までいた桜木町駅が見下ろせる。車も人も豆粒のように小さくてこのビルの高さを実感した。そして真下には日本丸、少し顔を上げれば昔の貨物線の廃線跡を活用した汽車道と呼ばれる歩道。更に顔を上げると赤レンガ倉庫や山下公園、氷川丸が映る景色が目に飛び込んできた。


 南西側には横浜の住宅街が広がり遥か遠方には富士山が望めた。


「喉乾いたからカフェ入らない?」


 そうやって展望窓から見える有名なものを二人で共有しているとエレナがそう提案してきた。それでハヤトも外を長く歩いたのと、ここまで来るのに疲れたのが祟ったのか喉が渇いていることに気づいた。


「そうだな。でも……結構人がいるな」


「せっかく来たんだから入ろうよっ」


 カフェも人で溢れていたのだが、とても楽しそうに手を引くエレナを見たら断る理由はなかった。初めてここに来たこともあってハヤトも少しテンションが上がっていたのだろう。少々軽快な足取りで、人混みを掻き分けて二人はカフェに飛び込んだ。

 横浜の街を臨む二人――。


 さて、今回はランドマークタワーが出てきました。横浜と言えばこの建物ですよね。そう思う人も少なくないと思います。ですから30年後も形は残そうという社会的な力はあるのではないでしょうか?

それに300mとかの高層ビルはほぼ永久構造となっていますし、問題はないでしょう。

ビルが建て替えられるのは長く保たないとなぜか思い込まれているからであり、生活様式が時代に合わなかったり、壁紙が汚いからです。

ずっと使えるのに、なぜこんなことに?


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