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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
不思議の少女編 第二章 もう一人の家族 〜Reunion〜
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叔母

ブックマーク、いいね、感想、評価、一気読み、ありがとうございます!

「誰か来るんだっけ?」


「さあ?」


 配達か何かだったら事前に家族の誰かが教えてくれることだろう。それに家族の誰かならインターフォンを押す必要なんてない。なら誰だろうか?


 警察とかは絶対止めてくれよ?


 浜崎家は主に科学魔法関連で色々巻き込まれている。どんなに《アサヒ》が隠そうとも間接的な証拠を集めることで自分たちと事件を結びつけてくる可能性も捨てきれない。


 ハヤトは内心心配になったが、出ないわけにもいかないので応答することにした。ソファーから立ち上がってインターフォンの応答ボタンを押す。


「はい」


 するとインターフォンの向こうからは明るい声が聞こえてきた。ただそれはハヤトの知らないヒトの声なのは確かで。


『あ、こんにちは。もしかしてハヤト君かな?』


「え?はい。そうですけど?」


 声を聞いて直ぐにハヤトと分かるということはそれなりに浜崎家のことを把握している人物だ。だから少し警戒してしまう。


 もしまた家族に危害を加えられたら、CONEDs『第一』の事件以上の被害に遭ったら。そう思うと不安で仕方ない。しかしそんなハヤトの気持ちとは裏腹にインターフォン越しの彼女は話を続けた。


『私、君の叔母に当たる大林カズサだよ。お母さんいるかな?』


「今買い物ですけど?」


『ああ、そうなんだ。ううん。どうしようかなぁ?実は渡したいものがあってね。日和ちゃんもいたら一番良かったんだけど……』


 困ったようなその声に今度はエレナがハヤトの傍に立って言った。


「じゃあ、上がって待ってて下さい」


「え?」


 その言葉に少しハヤトはすこしだけびっくりする。ハヤトはインターフォンの向こうの彼女を知らない。だから、そんなヒトを家に入れるのは躊躇われたのだ。


 しかしエレナはハヤトの目を見て柔和に目を細める。まるで安心させるように。


「大丈夫だよ。私。あの人に会ったことあるから」


「そうなのか?}


「うん。お父さんの妹で、本当に私達の叔母さんだよ」


『おばさん呼びはやめてよエレナちゃーんっ!まあ、そんな年だけどさぁ……っ!』


 不平を呈する叔母はどこかふざけているようで、なぜか楽しそうだった。むしろずっとそんな雰囲気を纏っている気がする。


 妹。ふとそこで思い出したことがあった。

確か父には妹がいるらしいことを昔父から聞いたことがある気がする。随分前のことだし、父は彼の両親と絶縁状態だったから親戚関係についてはあまり教えてくれなかったが、ほんの少しだけ話してくれた時に妹の話をしていた。


 彼によれば、その妹は父とは正反対に明るくおしゃべりで、場をよく盛り上げていたとか。目の前の彼女を見ていると、なるほど。基本的に秘密主義で無口な父とはまるで正反対であるようだ。


 妹とも絶縁状態だったのかな?

 でも祖父母たちは通夜に来てたし……。

 実はどっかで会ってる?


 もう父が死んでから半年が経つ。その時の通夜で自己紹介とかせずに挨拶だけしてスルーしていたのかもしれない。それなら記憶に残っていないのも頷ける。


『なら、上がらせてもらうねぇ』


 エレナの言葉を聞いて叔母はあっけらかんと言い、数瞬後玄関からガチャリという扉を開ける音がした。


「お邪魔しまーす」


 ハヤトたちが出迎えると叔母はマフラーを外して人懐っこい笑みを浮かべた。

黒のぶち眼鏡が似合ってる。


「久しぶり。こうやって落ち着いて話すのは何年ぶりかな?」


 叔母がエレナに話しかける。


「ええっと、6年ぶり?」


「そっかぁ、それならハヤトくんは私を憶えてないのかな?」


「はい。すみません」


 思わずハヤトは謝っていた。しかし目の前の叔母は頭を振って。


「気にしなくていいよ。記憶がないんじゃ仕方ないからね。あ、これお土産。どうぞ」


「「ありがとうございます」」


 受け取った紙袋の中身を覗き見ると、何かのお菓子だろうか?そういう何かの箱を綺麗で鮮やかな包み紙で包んである。ただとても高級そうで、ハヤトはこんなものを買ったことがなかった。


「いいんですか?こんな高級そうなもの……」


「いいのいいの!それにこういうのって大事でしょ?そういうのはしっかりやりたいから」


 叔母は結構その辺りは律儀であるらしい。けれどそういうところが好印象を抱かせる。


 そうして3人がリビングに赴いて叔母にはソファーで休んでもらうことにした。エレナが飲み物の準備のために台所に行ったが、ハヤトは特に何もすることがなく、ただ立ちすくんでいる。そんなハヤトに叔母が話しかけた。


「ハヤトくんってさ」


「はい」


「今学校ってどう?」


 その質問に少し考えてからハヤトは言う。


「楽しいです。友達もいますし、勉強もなんとか理解できてますから」


「おおっ!すごいじゃん。最近やたらと難しいって聞いてたからさ、叔母さん尊敬しちゃうなぁ。私って高校の時は勉強に身が入らなかったから」


 そういえば父の薀蓄で昔より今生徒たちが学ぶ内容は難しいとか言っていた気がする。


 昔は習ったことを実践できればよかった。だが、今ではそこに独創性や誰かに理解させるというスキルが必要とされる。つまり、勉学以外にも塾の講師並みにわかりやすく説明する力が必要とされているのだ。


 あとは、英会話もそう。昔の人たちは話せなくても成績が良かったらしいが、今の生徒は話せないと絶対成績が悪くなってしまう。むしろ話せなければ大学受験は絶望的だろう。英会話の配点は近年では上がり続けているのだから。


 そう言えば美枝の英語力はすごかったな。

 僕でも自然に話せないのに、あいつはネイティブみたいだった。

 きっと今もその英語力を生かしてアメリカで頑張っているのかな?

 そう言えば、年末くらい帰ってくるのだろうか?

 会えるならその時に会いたい。


 そんなことを考えていると再び叔母が問うてくる。しかしそれはハヤトにとって唐突なものだった。


「あと、今どれくらい魔法が使えるの?」


「え?」


 魔法という言葉が出てきて少々びっくりしてしまった。初めて話した人に、絶対知られてはならない魔法の話題を出されたのである。驚くなという方が無理な話でだった。


 しかしよくよく考えてみれば彼女はハヤトの叔母であり、父の妹。知っている可能性は十二分に考えられる。恐らく父が信頼するくらいには口が固いのだろう。


 それでなぜ絶縁だったのかはよくわからないが。


 そもそも本当に絶縁だったのか?


 そしてハヤトは返答する。


「えっと、基本的なことはできますし、自分でもプログラムするんで大抵のことはできると思いますよ?あと、少しの戦闘くらいなら」


「へえ、頑張ってるんだね。ならさ、魂の創造は?」


「魂の、創造?」


 またまた予想外な言葉にハヤトは首を傾げた。それはあれだろうか。人工実存(AE)みたく、ヒトを生み出すという、あれ。しかしまだ――というかやる気もないのだが――やったことはなかった。人工知能(AI)はなんだか違う気がするし。


「ないですけど……」


「そっかそっか。まあ、あれは責任が伴いうからね。それに難しいし」


 その言い回しにハヤトは疑問符を浮かべる。言い回しが経験者のそれに思われたから。


「やったことあるんですか?」


「うぅん。途中まではね。けど、やろうとしたらお兄ちゃん……ああ、ハヤトくんのお父さんに止められてね。やっぱり命を生み出すんだから責任がやっぱりあって、私にはできなかったんだ。ちょっと仕事が忙しくて時間も取れないし」


「へえ」


 まあ、確かに命を創るということはその命が独り立ち、若しくは幸せになるように育てなければならない。それはきっと普通の人間の親が子供を幸せにすることと同じだろう。父だって人工実存(AE)を生み出し、自分の子供として育て上げた。父はしっかり責任を取っていた。


 しかしそれは言うよりとてつもなく難しく、実際子供たちのために教育費、生活費、医療費が尋常でない程掛かっているはず。そしてそのお金を稼ぎつつ愛情を注ぐとなると、今のハヤトには自信がない。そもそも独り立ちすらしていないのだから、経済的にも問題があるだろう。


「カズサさん。どうぞ」


「あっ、ありがとう、エレナちゃん。わお、コーヒーか」


 そこでエレナが戻ってきて、叔母の前にコーヒーの入ったカップとソーサーをコトリと置く。そして叔母はそのカップを持ち、一口啜った。


「はぁ……。こんなに寒いとやっぱり沁みるねぇ」


「そう言えば、カズサさんはなんでここに来たんですか?」


 エレナがそう問うと、叔母はカップを降ろしてまた人懐っこい笑みを浮かべて言った。


「それは日和ちゃんが帰ってからのお楽しみかな?いやぁ、ほんと、楽しみだなぁ」


 一人楽しそうに笑う叔母にハヤトもエレナも疑問符を浮かべざるを得ない。妙にはぐらかされたが、なんか悪戯でも企んでそうで少し不安になった。まあ、悪意のようなものは感じられないから心配するほどではないかもしれないが。


 でも、本当に何を考えているのだろう?


 どこかとらえどころのない叔母の印象にハヤトは困惑し続けるのだった。


 ほっと叔母が息を吐いた時だった。玄関の方からガチャリと扉が開く音が室内に響く。


「ただいまぁ」


 声からして母だった。明日から母も休暇を取っていたはずだから、もっと遅く返ってくるものだと思っていたが、午前中だけだったらしい。


「「おかえりー」」


 そして買い物袋をたくさん持った母がリビングまで来ると、彼女は驚いたように目を見開いた。その視線の先には叔母の姿がある。


「へ?え?ええっ!??カズサさん!?なんでここに!?どうしたんですか!?」


 叔母も母を認めて立ち上がると楽しそうに笑顔を咲かせた。そのままハグをするところを見るに二人はかなり親しい間柄らしい。


「わあ、日和ちゃん!久しぶり!ごめんね。突然押しかけちゃって」


「いえいえ、大丈夫ですよ。でもどうしたんですか?」


「ああ、実は大事な話があって」


 そこで叔母は手元にあったポシェットからあるものを取り出した。それはなんと新幹線のチケットだった。それも、なんか物凄く沢山の。恐らく、家族全員分はあるのではなかろうか?


「実は来てほしいところがあるんだ。そこにこの家族の未来が決まるとも言えるくらい大事な事柄があるの」


「え?」


 家族の未来が決まるとは、普通に聞いたらあまりにも大げさなことに閉口するだろう。だが、色々あった後に聞くと、本当にとんでもないことがあるのだろうと想像できてしまう。


 それが大袈裟に誇張したものなのか、本当のことなのかは分からないが、兎に角叔母は家族全員分の新幹線のチケットを揃えてやって来た。その事実だけで大事なことだと理解できる。


 そして母がそのチケットを受け取る。それを左右からハヤトとエレナは覗き込んだ。そこに記載されているのは東京福岡間の切符だ。その往復分が叔母も含めた家族全員分ある。


 その時の彼らは知らなかったが、そのチケットの値段の総計を聞けば卒倒していただろう。往復分、合計金額約45万円。高校生からすれば最早金銭感覚がおかしくなる金額である。


「九州?なんでまたそんなところに?」


 それがハヤトの正直な感想だった。沖縄には旅行に行って、修学旅行でもう一度そこに行きはしたが九州――築紫島のこと――など行くことはなかった。確かハヤトのルーツの一つが長崎だったのは知っているが、親戚がいるわけでもなかったから行く機会もなかった。


 訝しんでいると本当に楽しそうに叔母は笑みを浮かべて、予想だにしない言葉を紡いだ。


「ま、墓参りだと思って付き合ってよ。これって実はお兄ちゃんの遺言だし」


「「「え?」」」


 まさか父の遺言なんてあったなんて信じられなかった。だって、父は唐突に死んでしまって、それまでずっと健康だったのだ。それに、そんな父が死を予期して何か言葉を残すなんて考えがたかった。


 しかし叔母が嘘を吐いているようには見えない。それに父が残した手帳の言葉もある。もしかしたら同じような手段で叔母にも何かを伝えたのかもしれない。


 だが、それを認めるとなると父は近い将来死ぬことを知っていて、もしくは死ぬことを前提に生きていたのかもしれない。


 余りそれは考えたくないな。


「それって、どんな?」


 母がそう訊ねる。すると叔母は困ったような顔をして。


「えっと……なんて言ったら良いんだろ。うぅん……」


 首を捻って考える叔母を見てハヤトたちは再び訝しむように眉を寄せた。だって、遺言なら普通にそのまま言えばいい話だ。なのになぜそのまま言わないのだろうか。それに忘れているようにも思えない。何か言い難いことでもあるのだろうか。


 暫くして叔母は閃いたとばかりにハヤトたちに真っ直ぐ顔を向けた。


「逢えば分かる。そんな感じかな?」


「それが遺言?」


「うぅん。まあ、本当に逢えば分かると思うからお楽しみってことで」


 叔母はポシェットを肩に掛けるとリビングを後にしようとする。


「じゃあ、それ次の土曜日の切符だから。それまでには返事頂戴。私はこれからすぐに新幹線乗って仕事だからごめんね」


 そう言ってリビングを後にする叔母に母がその後を追った。


「あ、じゃあ送るよ」


「ありがと」


 そうして母と叔母が去ったリビングでハヤトはポツリと呟いた。


「なんでだろう。なんかあのヒト読めないな」


 それを聞いて隣のエレナも同意するようにコクリと頷くのだった。

 そして彼らは九州へ――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます!


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