この男、生まれつきのコメディにつき。 ~お買い物編~
Mr.ビーンが好きです。
炎天下の下、中古で買ったセグウェイに乗り一人の男がやって来た。
男は猛暑にも拘わらず黒のスーツを着ており見るからに暑苦しい。
ショッピングモールの駐車場。一時停止の看板の下にセグウェイを止め、ポールにヒモで結びつける。そして蝶結びの真ん中に南京錠を取り付けた。
「♪」
ショッピングモールの中はエアコンの風で快適な温度になっており、男はホッと一息。そして店内にあるクリーニング屋へと向かった。
店員の前で黒のスーツを脱ぎ、クリーニングを注文。ついでにネクタイも外しついでに注文する。上着のポケットからヒヨコのぬいぐるみを取り出し、ヒヨコもクリーニングへ。
「おかーさんアイスアイスー!」
子どもの声が耳に入り男が振り向くと、店内にあるアイス屋の前で小さな子どもが駄々をこねていた。地面に転がり泣け叫び、奮闘の末ストロベリーアイスを買ってもらう子ども。直ぐさまベンチに座りアイスをペロペロと舐め始めた。
それを見ているうちに男もアイスが欲しくなり、店員にストロベリーとブルーベリーとチョコミントを指差した。三段重ねの豪華なアイスを受け取ると、子どもに見せびらかす様に目の前を通り過ぎ隣へと座る。子どもは再び駄々をこね、母親に三段重ねを強請り始めた……が母親に引き摺られ店外へと連れ去られた。
初めて食べる三段重ねのアイス。頼んだは良いが一番上のチョコミントが口に合わない。仕方なく二段目のブルーベリーと交互に舐める。
──ペロ……
「…………」
歯磨き粉を彷彿とさせる味に顔が渋くなる男。
──ペロペロ
「♪」
ブルーベリーの爽やかな味が口の中いっぱいに広がる。
──ペロ……
「…………」
歯磨き粉
──ペロペロ
「♪」
ブルーベリー
──ペロ……
「…………」
歯磨き粉
──ペロペロ
「♪」
ブルーベリー
──ペロペロペロペロ
「♪」
ブルーベリー
──ベロベロベロベロ!!
ブルーベリー
──ベチャッ!!
ブルーベリーが減り、チョコミントが減らずのアンバランスは儚くも見事に崩れ、男のシャツにベットリとチョコミントがへばり付いた。
男は慌てて口でシャツに付いたアイスを吸い取る。歯磨き粉の味が口いっぱいに襲い掛かり苦虫をかみ潰した顔へと変貌した。
男は仕方なくさっきのクリーニング屋へと向かい合、店員の前でシャツを脱ぎクリーニングを依頼。よく見ると下着にもアイスが染みており、慌てて下着も脱ぎクリーニングを注文。そしてスッキリした顔でストロベリーだけになったアイスを舐めて御満悦。
上半身裸の男がベンチに戻ると、ベンチではお金持ちそうなマダム達が小さなワンコをカートへ入れ談笑に興じていた。
男はワンコの傍に座りペロペロとアイスを舐める。
「へっ……クシュッ!!!!」
男が盛大なクシャミを放つと、ストロベリーのアイスがワンコの頭の上に飛んだ。男は慌ててアイスをワンコごとベロベロと舐め始めた!
──ベロベロベロベロ……!!
「キャーッ!!」
男に気付いたマダム達が悲鳴を上げた。男は誤解だと手を振るが上半身裸の男が愛犬を舐め回すその姿は紛れもなく黒であり、男は警備員に事務所へと連れ去られた。
一週間後、男は再びショッピングモールへと来ていた。……上半身裸で。
クリーニング屋へと赴き、出来た下着を受け取ると直ぐさまに袖を通した。シャツとネクタイも着けて御満悦な男。スーツを小脇に抱え、店員にお礼を言うと「サービスです」と歯磨き粉をくれる。男は暫し沈黙し苦虫をかみ潰した顔でそれを受け取った。
ベンチに目をやると先週のマダム達がまたもやワンコをカートに入れ談笑に興じていた。
男はこっそりとベンチに座り、ワンコの頭に歯磨き粉をグルグルと搾った。
「♪」
男が満足して立ち上がると警備員が犯行の一部始終を見ており、男は再び事務所へと連れ去られた…………