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6◇東から来た七人の小人

(* ̄∇ ̄)ノ エインセイラ姫、七人の小人の家で雨宿り。


 エインセイラ姫は手にする水色の水晶柱を見ます。キラキラして向こうが透けて見えます。澄んだ湖を掬い固めたような綺麗な水晶です。


「この中に魔法の力が入っているなんて、不思議ね」


「その魔力蓄積に溜められるキャパも増やしたいし、伝導性も良くしたいし、まだまだ研究しないといけないこと、いっぱいさ」


 椅子の上に立つ女の小人がエヘンと。


「この七人で担当が違ってるんだけど、皆がスペシャリストなのよ」


「みんなが魔法の冷蔵庫の研究者なの?」


「冷蔵庫以外にも、簡単に使える魔法の道具を開発してるのよ。というか、まだまだこれからなんだけど。風力変換器の効率も良くしたいし。あ、話を戻すとね、この家についてる風車が魔力を作ってるの」


「魔法の力って風車でできるの?」


「自然の力を魔力にするのはいくつかやり方があるの。私たちは風の力を魔力に変える方法を研究してるの。簡単に説明すると、風が風車を回すとその風の力を風力変換器が魔力に変えるの。そしてできた魔力をその水晶、魔力蓄石の中に詰め込むの」


「風の力が魔法の力になるんだ」


「そして魔力の詰まった魔力蓄積を使うと」


 小人がエインセイラ姫の手の水晶を摘まんで、部屋の隅の黒い大きな箱にテテテと近づいて、その箱の隅に水晶を差し込みます。黒い箱をチョンチョンと触り何やら操作すると、黒い箱から歌が流れてきました。踊り出したくなるような、可愛らしい女性の声のポップな歌です。


「これは蓄音機。魔力蓄石の力で動く、音楽を奏でる箱よ」


「ステキね。パルーの家にあったのに似てるわ」


「うん、魔女の魔法の道具を真似したものだからね。魔法の道具を魔女のように細かく操作したりはできないけれど、簡単な魔法の道具なら魔力蓄石さえあれば、誰でもこうして使えるようになるのよ」


「ステキ。私でも自由に魔法の冷蔵庫や魔法のオーブンが使えるなんて」


「まだまだ研究中だけどね」


「風の力が風車で魔法の力になるなんて、不思議ね」


 エインセイラ姫が何気に言った一言が、七人の小人達に響きました。何処からか、ガーン、という音が聞こえた気がして、エインセイラ姫はキョロキョロと辺りを見回します。

 七人の小人達はダウーンと項垂れます。


「私たちがいた国では、自然の力から魔法の力に変換する技術はいろいろ研究されていたんだけど……」

「うん、これからみんなの暮らしを変えていくって、期待されているんだけど……」


 突然に暗くなった小人達にエインセイラ姫は訊ねます。


「なにか問題があるの? 実験してみたらたいへんなことが起きたとか?」


「無いよ。風力は環境に優しいクリーンエネルギーなのさ。安全で安心なのが風力変換器なんだよ」


 他の小人達も口々に言います。


「風頼りになるから、季節と天候に左右されるけれど」

「偏西風を捕まえられたら、風車を置く場所次第でいくらでも」

「だけどね、風力は」


 七人の小人達は声を揃えて悲しげに呟きます。


「「風力はイジメられるんだ」」


 エインセイラ姫はタンポポコーヒーを一口飲みます。タンポポの風味が生きています。


「……イジメられるの?」


「東の国では、風力変換器はイジメられるんだ」


 七人の小人達は静かに語ります。


「正確には、風力だけじゃなくて、水力も地熱も、東の国ではイジメられるんだ」


「どうして?」


「東の国では、原子力を主力にしようって、国が決めたから。原子力以外はイジメられる」


「げんしりょく? ってなに?」


「なんて説明すればいいかな? パワーはすごいんだ。ウランがあれば原子力はすごいパワーを出せる。おいら達の風力変換器と違って気候にも左右されない」


「風力は負けちゃったの?」


「パワーと安定性では負けてるけどさー。原子力は繊細で扱いが難しいんだよ。ちょっと間違うと爆発しちゃう」


「爆発しちゃうんだ」


「その上、ものすごく身体に悪いんだ。毒をバラ撒くようなものでさ。おいら達は原子力が危ないからって、ずっと反対してたんだ」


 小人達は口々に言います。いろいろ溜め込んでいたようです。


「この前も爆発して放射線をバラ撒いてさ」

「うん、それで動物に甲状腺の肥大とか白血病の感染拡大が確認されてるのに」

「だけど東の国じゃ、原子力の爆発事故は、健康被害とは関係無いって発表してるし」

「それじゃ、いったい原因ってなんなの?」

「不明で、因果関係は調査中だってさ」

「因果関係が不明なのに関係無いって、よく言えるよな」

「他に原因があるなら教えて欲しいよ」

「それなのに、みんな、原子力がいいって言うし」

「あんなに危ないものも無いのにね」

「私たちの風力変換器の方がよっぽど安全よ」

「だけど、風力ってだけで、バカにされるし、石を投げられるし」

「風車の回転で、身体に悪い電磁波が出るって叩かれるし」

「風車の回転で身体に悪い電磁波が出るならさー。水車でも馬車でも石臼でも、回転して軋むものからは何でもかんでも身体に悪い電磁波が出ることになっちゃうじゃないかー」

「なのに国は原子力推進に躍起になるし」

「大学でも、原子力推進派なら教授になれても、おいら達みたいに原子力に反対したら、助教授止まりで教授になれないし」

「なんで大学の中で、知力と実績以外のカースト制度があるんだよう」

「私たち、教授になれなくて、ずっとバカにされ続けて、」

「原子力は危ないっていう、私たちの話を聞いてくれる人もいなかったわね」

「スポンサーもつかないから、あの東の国から逃げて来たんじゃないか」

「公安の嫌がらせも酷かったわよね」

「もうダメだよ、あの国、終わってるよ」

「風力の方がずっと安全なのに……」


 七人の小人達がズーンと暗くなりました。東の国でイジメられたことを思い出して、涙ぐんでしまいます。

 エインセイラ姫はうつむく小人達にきいてみます。


「げんしりょく? が身体に悪いの? それなのになんで東の国は、げんしりょくを庇うの?」


「そりゃまあ、企業から見たら環境にいいものよりも、環境に悪いものの方がお金になるから」


「そんな理由で?」


「これまで注ぎ込んだコストのこともあるんだろうけれど、国は一度こうと決めたことは変えないものだし。原子力を推進するって決まりになったから」


 エインセイラ姫はカチンと来ます。また決まりです。


「毒をバラまいて病気になるようなものがいい、なんてバカみたいな決まりを皆が守ってるの?」

「うん、それがイヤで、おいら達、東の国から亡命してきたんだ」


 エインセイラ姫には、原子力も東の国の事情もよくわかりませんが、暗くてジメジメしてるのはあんまり好きじゃありません。

 エインセイラ姫が両手をパン! と打ち鳴らせると七人の小人達が顔を上げます。


「あなた達もう東の国から逃げてここに来たんでしょ? だったらもとの国のイヤなことなんてスッパリ忘れて、研究に打ち込めばいいじゃない。それとも、あなた達の研究してる、その風力変換器に自信が無いの?」 


 エインセイラ姫の挑発に七人の小人達はムッとします。


「風力は安全なクリーンエネルギーさ!」 

「風任せだけど風車が回れば」

「環境にも優しいし、白血病が増えたりしないし」

「もっと変換効率を良くして、地域の季節風による変化もデータにして」

「安定した年間供給を実現するのが難しいけど、そこがクリアできれば」

「風力はこれからの未来を支える力になるんだ!」


 七人の小人達が活気づくのを見て、エインセイラ姫はウンウンと。


「風の力をもとにして、私でも使える魔法の冷蔵庫や魔法のオーブンができるなんて、ステキよ。私、小人さん達を応援するわ」

「応援?って、スポンサーになってくれるの? お姫様?」

「あ、私、お姫様だけど、今は家出中で、国のお金を使える立場じゃないし」

「そっか、旅の途中だっけ」

「スポンサー、いないの?」

「うん、まだ亡命してこっちに来たばかりでさ。こっちには風力変換器のことも知らない人が多いし」


 エインセイラ姫はアリスパックの中から財布を出します。いざというときの為に持ってきた、ルビーの指輪と真珠のネックレスをテーブルの上に置きます。


「これで、私専用の魔法の冷蔵庫と魔法のオーブンを作って欲しいわ」

「わお! お姫様、気前いい!」

「あなた達の作った冷蔵庫とオーブンを見せてくれない? あと風力変換器というのも」

「いいよ。こっち、ついて来て」


 小人に案内されてエインセイラ姫は家の中をあちこち見ます。風車に繋がるヘンテコな装置。風力変換器が水晶に魔法の力を注ぎ込む装置を見て、小人の説明を聞いたり。

 七人の小人が研究する装置をあれこれ見たり。専門的な用語が多くて解らないところを質問したり。

 台所では試験使用中の冷蔵庫にオーブン、魔法のコンロを見て触ります。


「このオーブン、ちょっと使ってみたいわ」


「お料理好きって魔女からは聞いてるけど、変わったお姫様だね」


「これで夕食を作るのでしょう? 手伝うわよ」


 食事当番だという二人の小人と料理をします。残りの五人は自分達の研究の続きへと。エインセイラ姫にステキと褒められたのが嬉しいようで、小人達の顔はやる気に満ちています。

 食事当番の台所の二人の小人も楽しげに。


「じゃ、今晩は豪勢にいくとしましょう」

「冷蔵庫の中身、全部使っちゃう?」

「お姫様、野菜の皮剥きできる?」


「できるわよ、任せて」


「お料理ができるなんて、ほんとに変わったお姫様」


「だから家出することになったのよ」


 エインセイラ姫は、小人の作った魔法のコンロで小人がお料理するのをじっくり見ます。興味津々です。魔女パルットネビアーの家のコンロと、似てはいますが少し形が違います。スイッチで火力が調整できる魔法のコンロは、エインセイラ姫が欲しいもののひとつでした。

 お城のかまどは薪で火を起こすので、細かい火力の調整が難しいのです。


 魔女の家でお料理するのが好きなエインセイラ姫。だけど魔女の家の冷蔵庫もコンロもオーブンも、魔女パルットネビアーの言うことしか聞きません。なのでエインセイラ姫が魔女の家で料理をするには、側で魔女に手伝ってもらわないとできません。

 エインセイラ姫はジャガイモの皮を剥きながら楽しそうです。


「七人の小人が作った魔法のお料理道具、それも私専用のものができたら、とってもステキね」


 エインセイラ姫と二人の小人はお料理します。小人は魔法のオーブンを見せる為に、グラタンにピザ、ローストターキーと作って見せて、オーブンの火力をアピールします。

 エインセイラ姫は食後のデザートにレアチーズケーキを作りました。


 七人の小人とエインセイラ姫は賑やかに夕食を。

 東の国から亡命してきて、いろいろ不安もあった七人の小人達は、エインセイラ姫にステキと褒められ、応援されて、すっかり元気です。


(* ̄∇ ̄)ノ 風力はイジメられっ子でした。だけど、今では風力がイジメられない国で大活躍しています。

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