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5◇丘の上の風車がいっぱいの家

(* ̄∇ ̄)ノ 黒い鎧と別れてエインセイラ姫は旅を続けます。


 エインセイラ姫が道を進んでいくと、雨がしとしとと降ってきました。


「傘を鎧さんにあげてから雨が降るなんてね。鎧さんは錆びるから困るけれど、私は濡れても錆びないから、これはこれでいいのかしら」


 アリスパックから敷き物を取り出して頭に被りエインセイラ姫は雨の中を進みます。

 雨にうたれてエインセイラ姫の靴と青いドレスのスカートはずぶ濡れになりました。


「雨も暖かければシャワーになるのにね。だけどこうして雨に濡れながら歩くのも、初めてでおもしろいわ」


 雨で視界が悪くなると、まるで雨が世界を消していこうとして、そこにいるのは自分一人だけのように。被ったシートに叩く雨音が音楽のように聞こえます。エインセイラ姫はそんな灰色の風景と音を楽しみながら、雨の中を歩いていきます。


「雨宿りできるところはないかしら? なんだか寒くなってきたわ」


 エインセイラ姫がピチャピチャと足音鳴らして進んでいくと、丘の上に一軒の家を見つけました。


「あそこで雨宿りさせてもらえないかしら?」


 丘の上の一軒屋に近づいていくと、家の形が見えて来ます。屋根から風車がいくつも生えています。数えてみると十本。ひとつひとつ形が違います。風車だらけの一軒屋です。


「なんでこんなに風車が? 変わった家ね」


 エインセイラ姫は丘の上の風車の家の扉をノックします。コンコンコン。


「ごめんくださーい」


「こ、公安か?」


「コウアン? えぇと、旅の者です。雨がやむまで雨宿りさせてもらえませんか?」


「こ、公安じゃないのか?」


 おそるおそるといった感じで扉が開きます。薄く開いた扉の隙間から外を覗くのは、帽子の先までが身長1メートルくらいの可愛らしい小人です。

 小人はずぶ濡れのエインセイラ姫を頭の先から足の先までジロジロと見て、安心したようにホッと息を吐きます。


「なんだ、公安じゃなくてお姫様か。うん、お姫様ならいいか。入りなよ、びしょ濡れじゃないか」


 エインセイラ姫が扉をくぐって小人の家の玄関に入ります。


「おいみんなー、公安じゃなくてお姫様だ。タオル持ってきておくれー」


 小人が家の奥に大きな声で呼び掛けるとパタパタと家の奥から小人が現れます。


「公安じゃない?」

「青いドレスのお姫様だ」

「お姫様が一人だけ? 家来は?」

「おい、公安が変装してるんじゃ?」

「お姫様に変装するのか?」


 全部で七人の小人がキャワキャワと話します。色とりどりの帽子を被った子供のようにも見えます。

 エインセイラ姫は玄関を見渡してみます。小人の住む家のわりには人が住むような大きさで作られています。

 エインセイラ姫は騒ぐ七人の小人達を見下ろして、


「こんにちわ、可愛い小人さん達。雨が止むまで雨宿りさせてくれない?」


 と、聞いてみます。小人達が応えます。


「いいんじゃない? でもずぶ濡れだね、お姫様」

「家の中に入る前に拭かないと」

「早く着替えないと風邪ひいちゃうわ」

「でもうちにはお姫様が着れる服なんてないぞ?」


 エインセイラ姫は背中のアリスパックを玄関に下ろします。


「着替えはこの中に入ってるわ。身体を拭くものを貸してくれない?」


 小人の一人が言います。


「じゃ、男は奥に行って。コーヒーでも淹れて待ってて」

「「ほーい」」


 三人の小人が残り、四人の小人が家の奥に引っ込みます。どうやら残った三人が女性で奥に行く四人が男性のようです。


「濡れスケ?」

「肌色サービス回?」

「お姫様のお着替えかー」

「なんだかワクワクしてきたぞ」


 なんだかちょっとエッチな話をしながら、四人の小人が奥へと去りました。見送る三人の小人がやれやれと。


「男はスケベねー」

「魔女が来たときも鼻の下が伸びてたわ」

「お姫様、座って、髪を拭いてあげるから」


 エインセイラ姫は手早くドレスを脱ぐと、言われた通りに玄関に座ります。三人の小人がチョコマカとエインセイラ姫の髪と身体をタオルで拭きます。


「お姫様、たった一人でどうしてこんなところへ?」


「ドラゴンの住む山に一人旅の途中なの」


「あれ? お姫様がドラゴンに拐われるのならわかるけど、自分から行くの?」


「ええ、そうなの」


「家来も無しで? 一人ぼっちで?」


「ええ、家来もメイドも護衛の騎士もいないのよ。初めての一人旅なの」


「なんだかワケあり?」


「うーん、ワケも無く旅をする人はいないんじゃないかな?」


「それもそうね」


 エインセイラ姫は髪と身体を拭いてもらいスッキリと。アリスパックの中から替えの下着と替えのドレスを出して着替えます。小人がエインセイラ姫の濡れたドレスと下着をかごに入れます。


「濡れたドレスと下着は干しておくわ」


「ありがとう、親切な小人さん」


「さ、中に入って。温かいコーヒーでも飲んで身体を暖めて」


 案内されてエインセイラ姫は風車の家の中の応接間へと。ソファに並んで座る四人の小人が待っていました。

 エインセイラ姫の座る椅子が用意されて、その椅子に座ると目の前のテーブルにコーヒーが置かれます。


「はい、タンポポコーヒー。砂糖はいくつ?」


「ふたつ。ありがとう」


 小さじ二杯の黒砂糖の入ったタンポポコーヒーを一口飲むと、お腹の中からあったまります。雨で身体が冷えていました。

 向かい合わせのソファ、右に四人の小人、左に三人の小人。みんながエインセイラ姫に注目します。


「なんでドラゴンの山にたった一人で?」


「えっと」


 エインセイラ姫は親切な小人へのお礼になるかと、一人旅になったワケをなるべくおもしろくなるように七人の小人達に語りました。

 一通り話終えると小人達は、うんうんわかるー、と頷きます。


「周りの人と話が合わないのは辛いよね」

「思想が対立してもちゃんと話し合えればいいんだけど」

「それはなかなか無理ってものだろうさ」

「そうそう。理解を拒んで空気を読めとか言うんだよ」

「知的な会話を楽しめるウィットが無いと」

「いやー、それには小学校からレトリックの授業を入れるべきでは」

「教育と洗脳を区別できない大人が教育委員会でいいんかい?」

「お姫様もたいへんなのね。家族と話が通じないなんて」

「それで一人で旅に出るかあ」

「いや、おいら達も似たようなもんじゃ」

「そうね。私たちも逃げて来たところなんだし」

「あぁ、あの東の国は、ほんとにもう……」


 七人の小人達は嫌なことを思い出したのか、どんよりと暗くなってしまいました。エインセイラ姫は話題を変えようと、気になったこの家の風車のことを訊ねてみます。


「このおうち、いろんな形の風車がいっぱい屋根についてたけれど、あれは何?」


 七人の小人達はガバッと顔を上げます。


「お姫様、あの風車に興味がある?」


「えぇ、何のためにあるのか気になるわ」


「教えてあげる!」


 七人の小人達は一斉に喋りだします。なんだか風車のことを自慢したいようです。だけど、七人がそれぞれ勝手に説明をはじめて、何やら難しい専門的な単語もあってエインセイラ姫にはわかりません。


「あの、ちょっと待って。分かりやすく順番に教えてもらえる?」


「じゃ、私が代表でいい?」


 女の小人が一人、椅子の上にピョコンと立ちます。コホンと咳払いしてから。


「あの風車こそ、私たちの研究の成果。風力変換器よ!」


「ふうりょくへんかんき?」


「そう! お姫様は魔法を使ってみたくない?」


「魔法を使えたらって、調べてみたことはあるけど、魔法って、魔女と魔法使いしか扱えないんじゃないの?」


「他にはドラゴンと精霊、妖精に悪魔かしら? 魔法は誰もが使えない力。だけどそれをなんとか私たちでも使えるように、って研究しているのよ」


 小人はポケットに手を入れて取り出したものをエインセイラ姫に渡します。エインセイラ姫が受け取ったのは、手のひらにのる八角柱の水晶です。水色でキラキラしてます。


「綺麗な水晶ね」


「それが魔力蓄石。その石に魔法の力を溜めておくのよ」


「この水晶の中に魔法の力が?」


「私たちが魔女や魔法使いみたいに魔法は使えない。だけど魔力蓄石を使うことで簡単な魔法の道具なら使えるようになるの。魔法の冷蔵庫に魔法のオーブンとか」


「冷蔵庫にオーブン! ほんとに?」


 エインセイラ姫は目を輝かせて立ち上がります。


「パルーの家の冷蔵庫やオーブンが、魔法の使えない私にも使えるようになるの? パルーが側にいなくても?」


「えっと、うん。そんなに冷蔵庫とオーブンが好き?」


「もちろん! あのパルーの家の冷蔵庫とオーブンが自由に使えたら、お料理もお菓子も作れるものが増えそうだもの」


「お料理好きなんだ。お姫様なのに?」


「お菓子を作るのが好きで得意よ。お姫様だけど」


「それで、パルーっていうのは?」


「魔女パルットネビアーのこと、私の友達よ」


「ええ? それは先に言って欲しかったなー」


 タンポポコーヒーを飲む小人達は口々に言います。


「パルットネビアーの友達なら歓迎しないと」

「だね、お姫様、ここで夕飯食べていきなよ」

「それがいいわ、外の雨もやみそうにないし」

「てことはお姫様があの、エインセイラ姫?」

「パルットネビアーがお姫様らしくないって」

「たまに家出して魔女の家に遊びに来るって」

「お姫様にしては頭が良くて、料理も上手と」

「エインセイラ姫のチーズケーキ最高だって」


 エインセイラ姫は椅子に座り直します。


「あなたたちパルーの知り合いだったの?」


「うん、おいらたちが住むところを探してたとき、この家を紹介してくれたんだ。それからは研究を手伝ってもらうこともあって」


「パルーっていろんなことしてるけれど、ここで小人さん達の研究助手もしてたの?」


「助手というより、共同研究者、かな? 魔女パルットネビアーのおかげで研究も進んだし。パルットネビアーは魔女なのに魔法をもったいぶらずに見せてくれたりとか」


「パルーは魔女らしくない魔女だから」


「うん、それでお姫様らしくないお姫様と友達だって言ってた。それがエインセイラ姫だったのか」


 どうやら魔女パルットネビアーは、この七人の小人達にエインセイラ姫のことをいろいろと話していたようです。

 

「魔女パルットネビアーは、おいらたちを助けてくれたわけで、その友達なら恩人の友達さ。よし、今晩はごちそうだ」


「まあ、うれしいわ。ところでこのおうちにも魔法の冷蔵庫に魔法のオーブンがあるの?」


「あるよ。だけどまだ魔力効率化の研究中なんだ。魔力使用量を減らさないと燃費が悪くてさ」


「ということは、この魔力蓄積? これで魔力をいっぱい補充しないといけないの?」


「そういうこと。お姫様、飲み込みはやいね」

 

(* ̄∇ ̄)ノ 七人の小人は公安が苦手?

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