3◇道に落ちてた黒い騎士鎧
(* ̄∇ ̄)ノ お、ブクマ増えた、ありがとです。
(* ̄∇ ̄)ノ エインセイラ姫、ドラゴンの山に向かって旅立ちます。
エインセイラ姫は魔女の家で夕食を作り、魔女と使い魔猫と一緒に食べて、一晩過ごしました。
ドレスを脱いで魔女パルットネビアーと同じベッドに横になり、魔女パルットネビアーとお喋りします。
エインセイラ姫にとってイライラしないで話ができるのが、魔女パルットネビアーと、その使い魔猫ラナウェイだけでした。お姫様らしくないお姫様と魔女らしくない魔女は気が合うようです。
「ねえパルー、どうしてみんな決まりにうるさいのかしら?」
「どうしてかしらね。決まりを守っていると安心できるからじゃない?」
「みんなが同じ決まりを守っていて、自分もみんなと同じってことで?」
「そうね。例えそれが間違っていても、みんなと一緒なら安心できるでしょ」
「決まりも人が作ったもので、間違うこともあると思うんだけどなあ」
「みんなに逆らって正しいことをするよりも、みんなと一緒に間違ったことをするのが、心地好いのかもね」
「それじゃどうして私はそういうのにイライラしちゃうのかしら?」
「それがエインらしさなのかもね。でもエインみたいなのも必要なのよ」
「どうして?」
「みんなが間違ったまま破滅してもエインはそこから離れて無事になるから。これで全滅しなくてすむでしょ」
「そういうことなのかな?」
お姫様と魔女はお喋りして少し夜更かししました。エインセイラ姫は自分の話に耳を傾けて聞いてくれる魔女のおかげで、少しはスッキリしたようです。その夜はいつもよりグッスリと眠れました。
翌日、エインセイラ姫はドラゴンの住む山へと旅立ちます。魔女パルットネビアーはガーネットベリーの紅茶の葉の瓶をエインセイラ姫に渡します。
「これをドラゴンへのおみやげにしたらいいわ」
「パルーの紅茶は私も好きよ」
「エイン、一人で大丈夫?」
「うん、初めての一人旅で不安もあるけれど、私一人で何ができるか、ちょっと考えてみようと思うから」
「じゃ、これお守り代わりに。エインは剣を使えるよね?」
魔女は銀の短剣をエインセイラ姫に渡します。魔女の魔法のかかった黒い柄のアセィミナイフです。
「使わないのがいいけれど、念の為にね」
「剣を練習してたけど、お姫様らしくないって取り上げられたから、そんなに使えないのだけど」
エインセイラ姫は銀の短剣を鞘から抜いて、ヒュンヒュンと振り回します。けっこう様になってます。
「綺麗な短剣、キラキラしてるわ」
「呪いよけにもなるから。その短剣はたまに満月の光を浴びさせてあげてね。元気になるから」
「ありがと、パルー」
エインセイラ姫はナイフをしまうと魔女と、きゅ、と抱き合います。仲良しです。
エインセイラ姫はアリスパックを背中に背負い、黒いドラゴンの住むというヴェイグス牙山へと旅立ちます。
緑の草の繁る丘の続くところを、地図を見ながらエインセイラ姫は歩いていきます。
「周りに誰もいなくて私一人というのは、なかなかいいものね」
エインセイラ姫はお姫様。いつもお付きの誰かが側にいて一人になることはなかなかありませんでした。
「トイレくらい一人で入りたいと思ったものね」
口煩いメイドや侍従のいない初めての一人旅。カラリと晴れた青空の下、エインセイラ姫はテクテクと歩きます。
「こうして一人で歩いていると、お城の中でイライラしていたのがなんだかバカバカしいわ」
魔女と一晩お喋りして、言いたいことを言ってスッキリした顔のエインセイラ姫。
「あのヨーシュ王子と結婚なんてしたら、どんな生活になるのかしら。きっと毎日イライラしっぱなしで頭がおかしくなりそうね。なんとか黒いドラゴンに拐ってもらって、お城に戻らなくてもいいようにしなきゃ」
周りに誰もいないからか、エインセイラ姫は一人で呟きながら歩きます。
「パルーが言ってたけれど、私らしさってなんなのかしら? お姫様らしいお姫様にはなれなくて、なろうっていう気も無くて、じゃあお姫様じゃない私ってなんなのかしら? これまでお城の中でお姫様として暮らしてきたからピンと来ないわね。そうなるとこの一人旅は自分探しの旅、ということかしら? 自分らしさ、私らしさ、うーん。私の思う私らしさがお姫様の中に無くて、それで私はイライラしていて、だけど、改めて私らしさ、エインセイラらしさ、っていうのもよくわからないわ。だいだい自分探しというのは自分が何処かに在る、と仮定するから探しに行くのよね。だけど、私の身体はここにあって、探しに外に出るとなると私らしさとは私の身体の外に在る、ということになるの? でも、その仮定が間違いで、自分が無いとしたら何処を探しても見つからないことになるわね。うーん、私らしさは人の中にあるの? 外にあるの? 人間らしさは人と人の間にあるとすると、いろんな人と話をしてその間にあるものを見てみないと、私らしさとは見つからないものかしら?」
ブツブツと呟きながらエインセイラ姫が歩いていると、道の先に黒い脚甲が落ちています。
「なにかしら? コレ?」
しっかりとした造りの脚甲、グリーブです。黒くて頑丈そうな、足の膝から下を守る鎧の一部。それが片足の分だけ道にポツンと落ちています。
「誰か落としていったのかしら?」
エインセイラ姫が黒い脚甲を持ちあげて中を見ても黒い脚甲の中身は空っぽ。わりと綺麗なので長く置かれていたようではありません。周りを見回しても、脚甲の持ち主らしき人はいません。人は誰もいません。
のどかな平原にはエインセイラ姫が一人だけ。遠くから鳥の鳴く声が聞こえてきます。
「落とした人は困っているかも。持っていってみましょう」
エインセイラ姫は片足だけの黒い脚甲を手にテクテクと歩いていくと、道の上にポツンと黒い脚甲をまた見つけました。
「鎧を商う商人の馬車が壊れて、こぼれ落ちた、とか?」
両足が揃いました。エインセイラ姫がもうひとつの脚甲を持って、右と左と両脇に抱えて歩きます。やがて道の先に黒い鎧の腿の部分を見つけました。
「同じ色合いだから、これはもとはひとつの鎧なのかも。だけどなんでバラバラと落ちてるのかしら?」
腿の部分も拾って更に歩くと、今度は腰の部分が落ちています。黒い金属のミニスカートのようにも見えます。
「これ以上は重くて持ち歩け無いわ。持ち主は何処にいるのかしら?」
呟きながらエインセイラ姫は黒い鎧の足の部分を並べて組み立ててみます。黒い全身鎧の下半身が揃いました。
「やっぱり同じデザインの一揃いみたい。全部揃ったら黒騎士の鎧になりそうね。こうして下半身だけが揃ったけれど、きゃ!?」
黒い鎧の下半身がいきなり動き出しました。下半身だけがむくりと起きて、歩こうとしてバタリと倒れます。ジタジタと黒い鎧の足が動いています。
「ビックリした。あなた動けるのね。これなら持って運ばなくてもいいわね」
エインセイラ姫が黒い鎧の下半身が起きるのを手伝い、腰の部分に手を添えて並んで道を歩きます。
フラフラと歩く黒い鎧の下半身を、右に左にと誘導しながらエインセイラ姫が歩きます。
平原を貫く道を進むと、次々と黒い鎧のパーツが見つかります。エインセイラ姫は黒い鎧のパーツを見つける度に、黒い鎧の下半身に組み立てていきます。
腹、胸、肩、腕と次々と揃い、道を進むほどに黒い全身鎧が出来上がっていきました。黒い両腕のガントレットが揃うとバランスが取れるようになったみたいで、歩き方がしっかりします。
「あとは頭が見つかれば完成ね。綺麗な鎧なのに誰が落としていったのかしら?」
エインセイラ姫と首無しの黒い鎧が並んで歩いていくと、道の脇に木が生えています。その木の根本から、
「おーい、おーい」
と、声が聞こえます。渋いおじさんの声です。エインセイラ姫が近づいてみると、そこに黒い兜が落ちています。
「おぉ、ようやく人が通りかかった。それも麗しき姫ではないか」
エインセイラ姫は首を傾げて落ちている黒い兜を見ます。
「黒い兜が喋っているわ」
喋る兜を見るのは初めてでした。生首が喋っているようで不気味です。その黒い兜が横向きに転がったまま話します。
「あぁ、麗しき美しき姫よ、我輩の身体が何処にあるかご存じだろうか?」
「コレかしら?」
エインセイラ姫が指で首無し鎧を示すと、黒い兜が喜びの声を上げます。
「おおお、我輩の身体。姫が集めてくださったのか? これはかたじけない」
首無しの黒い鎧がガシャンガシャンと歩き、落ちてる黒い兜を拾ってカシャンと首の上に乗っけます。ついに黒い全身甲冑が完成しました。
黒い全身甲冑は礼儀正しい騎士のように片膝をつき頭を垂れます。
「麗しき姫よ、我輩の身体を集めていただき感謝の極み。いかにしてこの礼を麗しき姫に捧げたらよいのか、まことに、まことにありがとうございます」
「自分で勝手に動いて喋る全身鎧なんて、初めて見たわ。あなたはどうしてあちこちバラバラになって落ちていたの?」
「むう、それは話すと長くなりますれば」
「そうなの? ちょっと待って」
エインセイラ姫は木の根本に、背中に背負っていたアリスパックを下ろします。空を見上げると日は真上に上がり、繁る木の葉が影になっています。
「そろそろお昼にしようと考えていたから、お弁当を食べながらお話しましょう」
そろそろお昼の時間です。
(* ̄∇ ̄)ノ 次回、黒い鎧とお喋りします。