1◇プロローグ
(* ̄∇ ̄)ノ ナンセンスファンタジーに挑戦。よろしくドゾ。
「私、あなたとは結婚しないわ」
そう言ったのはエインセイラ姫。大きな声でハッキリと。
エインセイラ姫のいきなり言ったことに周りの人達、王様も王妃様も貴族達もみんなポカーンとしてます。
エインセイラ姫に面と向かって、結婚しないと言われたヨーシュ王子様は不思議そうにコテンと首を傾げます。
「なんで?」
と、ヨーシュ王子様は訊ねてみました。それを聞いたエインセイラ姫は頬をぷうっと膨らませて、不満が爆発しそうです。
「そうやって聞き返してくる頭カラッポなところにイライラするからよ!」
爆発しました。
「ヨーシュ王子様、だいたいなんで私があなたと結婚しなきゃならないの?」
「僕とエインセイラ姫が結婚するようにって、パパとママが決めたから」
「じゃあなに? パパとママが決めたことならヨーシュ王子様はなんでもその通りにするの?」
「うん、だってそれが王族というものだから」
「私はもう誰かに決められた通りにするのって、ウンザリ」
「それはダメだよエインセイラ姫。お姫様はお姫様らしくしないと」
「なんで私がお姫様らしくしないといけないの?」
「だってエインセイラ姫はお姫様だから。お姫様はお姫様らしくしないといけないんだ。そう決まってるし、それが伝統だし、法律にもそう書いてあるもの」
「そのくっだらない伝統の通りにするのがもうウンザリだって言ってるのよ。なんで決まりを守らないといけないの?」
「それは決まりだから。決まりを守るのが決まりなんだから」
「そういう無意味な同語反復を聞かせないで! イライラするわ!」
「とおとろじい?」
ヨーシュ王子様は側に控える侍従に尋ねます。
「じい、とおとろじいって何?」
「ヨーシュ王子様。それは王子が知らなくても良い言葉でございます」
「そっか、うん、わかった」
ヨーシュ王子様は天使のようにあどけない顔でエインセイラ姫に微笑みます。見ている貴族の令嬢達が麗しき王子様の微笑みに、キャアと歓声を上げます。
「エインセイラ姫、決まりは決まりなんだから。昔から皆が決まりを守ってきたんだから。だからエインセイラ姫もお姫様なら、決まりをちゃんと守らないと」
「決まり決まり決まり決まりってえ!」
イライラが頂点に達したのか、エインセイラ姫は青いドレスのスカートを握り締めてぷるぷると震えます。
「そんなに決まりが好きなら決まりと結婚したらいいでしょっ!」
エインセイラ姫は呆然としている人達に背中を向けて、お姫様らしく無く、ズンズンと床を踏みつけながら去っていきます。
お姫様が城の大階段を下りるときには、履いている靴を片方、大階段に置いてこなければならない決まりがあるのですが、そんなことも忘れてエインセイラ姫は走ってお城を出て行きます。
「誰も彼も頭の中はカラッポで、中には決まりしか入ってないんだから!」
プライムローズという名前の国。その国には三人のお姫様がおりました。
三人の姉妹の姫は、長女は呑気で美しいお姫様。
三女は可愛らしく元気なお姫様。
どちらも麗しのお姫様検定で一級を取るような、お姫様らしいお姫様です。いろんな国の王子様がこの二人のお姫様と結婚したいと人気があって、近隣の国の中でも結婚したいお姫様ランキングでは常に上位に入っています。
だけど真ん中にいるエインセイラ姫は、ちょっとだけ違いました。
プライムローズ王国のお姫様にはあるまじき、お姫様らしくないお姫様でした。
人と話をするときはいつもイライラとしていて、ツリ目気味の鋭い眼差しで、目を合わせると睨まれたような気分になるお姫様です。お城の中で誰かと話をするときは、いつもイライラとしています。
エインセイラ姫は王国の姫とはいかにあるべきか? なんてことにはまるで興味がありません。
エインセイラ姫は姉や妹がお姫様らしく、ダンスの練習をしたり刺繍をしてるのを横目に見ては、
「バッカバカしい!」
と、口に出してしまうような女の子だったのです。姉や妹が王族の姫として振る舞う礼儀作法を学んでいるところから逃げていました。
昔はマジメにやってたんですけどね。反抗期なのでしょうか。
エインセイラ姫は独自に哲学の本を読んだり、お料理をしたり、剣を振り回したり、魔法の実験をしたりしていました。興味があるものを気が向くままにしていました。
王様や王妃様が注意をしても聞きません。皆が望むおしとやかなお姫様にはなれそうにもありません。お菓子作りにお料理が好きです。そんなことは姫のすることではありません、家来にさせなさい、と言われると頬を膨らませて不満そうです。
どういうわけかエインセイラ姫はプライムローズ王国の姫とは思えないくらい、ワガママで自分勝手なお姫様なのです。
王様も王妃様も教育係も皆がエインセイラ姫に困っていました。
このお話はプライムローズ王国のお姫様、エインセイラ姫が、
「もー、頭カラッポな人達の相手なんてウンザリ! 私は私のしたいようにするわ!」
と、言ってお城を抜け出すところから始まります。
エインセイラ姫は14歳になりました。気難しいお年頃です。