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第1章「夏休みの憂鬱」3


「教師しながら、探偵すれば?」

「……出来る訳ないだろ」

 美凪は、又がっくりと肩を落とした。




 はっきり言って、僕は父の仕事に全くと言っていいほど興味がない。

 それは別に最近の話ではない。もっと子供の頃からだ。

 それよりも、教師になりたかった。

 父は、特に後を継がせたいとか、言って来た事はない。まあ、少しは継がせたいという

気持ちもあるのだろうが―――。

 だが、父は何も言わないので、僕は継がずに教師になる為、勉強している。

「秋緒。気が変わったら、教えてよね」

 美凪がまだ言っていたが、僕は無視した。

 気なんか変わるか!

 と、その時だった。

 事務所のドアが、微かに閉まる音がして、僕は驚いて振り返った。

 するとそこに、見知らぬ女性がひっそりと立っていた。

 父も美凪も、今気付いたのだろう。慌てて立ち上がる。

「あ、あの。ここって遊佐探偵事務所さんですよね?」

 ぼそぼそとした、小さな声だった。

「はい。そうですよ」

 父がそう言い、訪問者の女性に笑いかけた。

 そして、事務所の中央に置いてある、ソファに座るよう勧める。

「ああ、秋緒。悪いんだけど、お茶を……」

「あ、あたしがやります!」

 美凪が急いで、事務所に備え付けてある、小さな流しで湯を沸かし、二人分のお茶を

盆にのせて来た。

 僕はというと、なぜかこの女性に興味を持ち、ソファの後ろにあるパイプイスに座った。

美凪も何も言わず、僕の横に腰掛けた。





 いつの間にかひっそりと事務所に現れた女性は、岡 江里子といった。

 父が、美凪が運んできたお茶を勧めると、どうも。と、蚊の泣くような小さな声で返事を

して、俯いてしまった。

 ウェーヴのかかった栗色の髪を肩まで垂らし、悲しそうな顔――眉と眼が下がり気味

なので、悲しそうに見えるのだ――が、更に悲しげになる。

「どこからお話して下さってもいいんですよ。ゆっくりでいいので肩の力を抜いて下さいね」

 父はそう言いながら、美凪が言う所の「癒し系の笑顔」でにこりと笑った。

 美凪が言うには、父の笑顔は何でもしゃべってしまいたくなるような気持ちになるのだ

という……。

 僕には理解できないが。

 しかし江里子は、大きく息を吸った後、ふうっとゆっくり息を吐いて、漸く顔を上げた。

「あの……私、鎌倉にある東郷さんというお宅で、家庭教師をしているんですが…」

 おどおどとして家庭教師など出来るのだろうか? と思ったが、江里子はゆっくりだが、

要領よく話し始めた。




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