華祭
あるゲームセンターの一角。
スマッシャーとパックが接触し、けたたましい音をあげるとと共に、試合を決める一打が決まる。
すると、いつの間にか周囲を囲っていた野次馬から『おおっ』といった声がこぼれる。
「か、勝てねぇ・・・」
「二条さん強すぎない?」
今までに計3回真木・麗奈ペアと来斗・鑑ペアで試合をしたが、来斗達が得点出来たのは2点。
麗奈自身が強いと言ってたものの、ここまでとは誰も思っていなかっただろう。
「勝負事には負けるなという教育方針なので・・・」
二条父はどんな教育をしてるだと、乱れた息を整えながら考える来斗だった。
その後はプリクラを撮り、フードコートでゆっくりすることになった。
それぞれが間食として食べる物を買いに行き、来斗はトレーを持って席に戻ってくると、既に真木がアイスクリームを持って席に戻ってきていた。
「あれは犯罪級の威力だったねー」
席に着くと真木が不意に話し掛けてくる。
恐らく先程やっていたエアホッケーでの話だろう。
「俺もあれ程強いとは思わなかった」
「エアホッケーもそうだけどさぁ、もっとあったじゃん」
「・・・何が言いたい?」
「ほら、二つのたわわな・・・」
背後に気配を感じた来斗はこれから真木の口から紡がれる言葉を察知し止めようと、自分が食べていたハンバーガーを真木の口の中に突っ込んだ。
「二条さんも買ってきたか?横矢の隣が空いてるぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
麗奈は来斗達の様子を見ると訝しげな表情して席に着く。
もごもごとこちらに何かを訴えかけてきている真木に『反省しろ』と耳元に囁くと、咀嚼しながらあっかんべーとしていたから反省していないようだった。
鑑も席に着き、たわいのない会話をしていると話題は間近に迫る春華祭についてとなる。
桜華台では学校を挙げてのイベント事が多く、春には春華祭、夏には夏華祭、また秋には秋華祭がある。冬には名称が変わりクリスマス祭があるが、それは学校主催ではなく有志を募っての開催となっている。
春華祭では新たなクラスでの友好を深める意味を込め、クラス対抗で劇をやることになっている。
「休み明けの月曜日に役員と演目を決めるらしいな」
「私シンデレラやりたい!意地悪な継母役やりたい!」
「性格悪いなお前」
真木は『ふっふっふ』と不気味な笑みを浮かべた後に、
「だってシンデレラやるとしたら主役は二条さんになるでしょ?あんな手やこんな手で二条さんを・・・へへへ」
「わ、私を!?」
手を揉み揉みしながら近付いてくる真木から退く麗奈。
「おっさんかお前は」
「あいたっ」
来斗が真木の頭にチョップを入れて静止をかける。
「けど主役は二条さんだろうな、満場一致で」
「わ、私なんかが主役なんて務まりませんよ・・・」
「いい機会じゃないか?皆の前で演技が出来たとなれば自分の自信に繋がるだろうし」
「そーだそーだ」
『うぅ・・・』と唸る麗奈。
こうして親しい間柄でやっと話せるようになった麗奈にはきつい話だろう。
「まぁまだシンデレラって決まった訳じゃないし、今から悩む必要はないさ」
と言って、鑑が席を立つ。
「おっと、いい時間だな」
「帰ろ帰ろ」
続いて来斗と真木もトレーを持って席を立つ。
麗奈はまだ混乱した様子で、俺達の後ろをついてくるので手一杯だった。
そして、休み明けの月曜日。
決まった演目はあまりに予想外で。
「私達のクラスは男女逆転シンデレラをやることに決まりました」
それは波乱の幕開けである。