ある日の放課後
次の日のお昼休み。
鑑は部活の集会に、真木は情報収集といって校内を駆け巡りに行った為、お昼ご飯は麗奈と二人で食べることにした。
二人きりになると、話題は自然と『麗奈の人見知りについて』になる。
「二条さんが人見知りを改善したいという気持ちは大いに伝わってくるんだが・・・。自分自身で気づいてないかもしれないけど自分の発言を思い出してくれ」
「は、はい」
「『ありがとうございます』とか『はい』とか、そんな発言しかしてないんだ。これじゃ会話する気が伝わってこない」
「・・・はい」
「・・・まあ、今は返事をするだけでも手一杯かもしれないけど、当面の目標は自分から話を振れるようになることだな」
「そ、そんな私なんかが・・・」
「まずはそういうネガティブな思考をやめよう。二条さんは可愛いから話しかけられて嫌な人なんていないから」
『えっ』と、二条さんの顔がみるみる赤くなっていく。
来斗は自分で言ったことを思い返し、やってしまったと後悔する。
「あくまで客観的視点から見てってことだから。ほら、二条さんが昨日初めて教室に入った時の男子達の反応的にそうだろ?」
「え、いや・・・初めて言われたので分かりません」
これはどう弁解したものか。
と、屋上への扉が少し開いてることに気付き目を凝らすと、真木がにたぁとした笑みを浮かべ覗いてるのが見えた。
「やーい、へたれ」
「自分でも性にあわないことを言ったのは自覚してるわ。・・・後は頼んだ横矢。」
来斗は真っ赤な顔をした二条さんと、笑みを浮かべる真木を置いて屋上を後にした。
☆
それから少し経ったある日の放課後。
麗奈と帰ろうとしたところを鑑に呼び止められる。
「ライに二条さん。暇なら今日どこかに行かないか?」
「あ、私も行きたーい」
こちらの様子を窺っていた横矢もそこに加わる。
「俺はいいけど。二条さんはこれから予定あるか?」
「特には・・・私も行きたいです」
「じゃあ駅前に新しく出来たショッピングセンターに行こうぜ」
「いいねー、賛成」
真木と鑑は先行して教室を出ていく。
その後をついていく来斗の隣に麗奈が並ぶ。
「無理、してないか?」
「だ、大丈夫です。お二人がお力になってくれているのなら私も頑張ろうと思います」
「そうか」
麗奈は授業と授業の合間の休憩時間に、真木に自分から話しかけるなどの努力をしている。
鑑と真木以外に話せる人はまだ出来ていないが、初期よりは大分進歩しただろう。
このまま行けばクラスメイトと普通に喋れるようになるのも時間の問題だ。
「ねえ、あっちに着いたらゲームセンターでタッグ組んでホッケーしよ!」
「ちょうど4人だしな、いいのか?俺は強いぞ?」
「わ、私も強いですから」
「・・・ほう、なら相手になろうじゃねぇか」
予想にしてない人物が張り合ってきて、鑑も一瞬驚いた表情を浮かべる。
彼もまた麗奈の成長を感じているのだろう。
「じゃあ二条さんと私でタッグ組むから男子諸君でかかってきなさいよ」
「横矢、ならお前を集中狙いしてやるよ」
「だな、横矢狙えば勝てそう」
「あ、ずるーい!」
こうして来斗達はたわいのない話をしながら、目的地のショッピングモールに向かった。
。。。
都心の大通りを走るタクシーの中、スーツ姿の二人は並んで乗車していた。
「麗奈の様子はどうだね、宮地くん」
二条父は隣に座る宮地父に問いかける。
「はい、高校生とはとても思えないくらい行儀良く過ごしていられますよ。社長の教育の賜物でしょうね」
その言葉に少し悲しげな表情をする。
「私はなにもしとらんよ。現にこうして君に娘を任せてしまっている」
「いえ、社長は娘を十分に愛し育てられたと思います。」
二条父は口を大きく開けて『はっはっは』と笑う。
「私自身、妻を亡くしてから麗奈をどう育てていくか苦悩したからな。私に似なくてほんとに良かった」
「あとは来斗に任せて少しでもお休みください」
「ああ、来斗くんに任せれば安心できる。一目見た直感だがな」
二人を乗せたタクシーは高層ビルの地下駐車場へと入っていった。