初めての友達
『ねー、二条さんは元どこの学校にいたの?』
『どうしてこの時期に転校なんてしたの?差し支えが無ければ教えて欲しいな』
休み時間、案の定麗奈はクラスメイトから囲まれていた。
廊下には噂の美少女転校生を一目見ようと軽い人集りが出来ている。
恐るべき二条麗奈。
「彼女が困ってるぞ、いいのか?」
「からかい方のバリエーションが少な過ぎないか?」
「にしても困ってるのはマジだけどな。見たところ彼女はいわゆるコミュ障ってやつだろ?」
「まあそうなんだけどな」
さっきから質問攻めにされてる麗奈を見てると、戸惑っているばかりで会話になっていない。
周りが盛り上がるばかりで、誰もその事に気付いていない。
「自然消火するのを待っていたかったがここまでになるとはな・・・。あまり目立ちたくないんだが」
「俺は先に売店でパン買ってから屋上行ってる。いつものでいいよな?」
「ああ、二条さんの分もついでに頼む」
『へーい』と手をぶらぶらさせながら鑑は教室を出ていく。
来斗はどう収拾をつけるか思案し、人集りへと体を滑り込ませる。
「二条さん。先生が入学手続きの資料に不備があったから職員室に来て欲しいそうだ」
「へっ?あ・・・わかりました」
二条さんはみんなに会釈し、職員室へ向かう。
教室が普段の雰囲気を取り戻すのを見届け、職員室へ向かった麗奈を追いかける。
「二条さん」
「はっ・・・はい!」
廊下で麗奈を呼び止める。
後ろから声を掛けるだけでこんな緊張するのだから、先程の状況は彼女にとって居心地が悪かっただろう。
「さっきのはブラフなんだ。二条さんが困っているみたいだったから」
「助かりました・・・」
ホッと麗奈は胸を撫で下ろす。
「良かったらこのままお昼にしよう。俺の友人も一緒でよければだけど」
「だ、大丈夫ですよ!構いません」
麗奈の返答を聞いて安心する。
ざっくり教室の説明をしつつ、二人は屋上へと向かう。
鍵の壊れた屋上への扉を開けると、そこには鑑と真木がいた。
「横矢がいるのは聞いてないんだが」
「まあまあ、友達でしょ?ケチなこと言うなよー」
「ごめんなライ、気付いたら一緒にいた」
幽霊かこいつは。
どうすればよいか分からなくなっている麗奈を救う為にも挨拶から始めることにする。
「こっちの長身が冴木鑑、こっちのポニーテールが横矢真木だ。どっちもクラスメイトだから仲良くなる第一歩としては申し分ないと思う」
「おいこら、宮地の私への認識ってポニテだけなの?もうちょっと新聞部部長とかあるじゃない」
「知らん」
うがーっ、と襲いかかってくる横矢を片手でいなしつつ、麗奈にも自己紹介を促す。
「えっと・・・改めて二条麗奈です。よろしくお願いします」
「か、可愛い」
「え?」
来斗の腕から抜け出し、麗奈に抱きつく真木。
抱きつかれた麗奈は困惑している。
「えっ、えっ、えっ!?」
「こんな彼女を独り占めなんて憎いぞ宮地ぃ!」
「あのなぁ・・・」
「まあまあ、とりあえずお昼にしようぜ?」
そういいながら鑑は先程から暴れ馬のような状態の真木を麗奈から剥がし、お昼にすることにする。
「ねぇ、二条さんと宮地の関係ってなに?やっぱり恋人?」
「容赦なくズバズバ切り込んでくるなお前」
「だって気になるもーん」
「お前に言ったらろくな事にならないから言わん」
「えー」
『ぶーぶー』と言ってる横矢の口にパンをねじ込み、静かにさせておく。
「この通り横矢は事情を知らないが、俺は大体把握してるつもりだ。二条さんが解決しなきゃいけない問題もな。協力できることがあれば是非させてくれ」
察しのいい鑑は二条さんに安心させるような声色で告げる。
「よ、よろしくお願いします!」
「横矢、ちょうどいいからお前も二条さんの友達になってくれ。顔も広いから女子の間を取り持ってやって欲しい」
「もごもごもご」
詰め込まれたパンがまだ口に残っているのか声になっていないが、多分いいよって言ってるのだろう。
「基盤は整えたから後は二条さんの努力次第だな。頑張ろう」
「・・・はい」
それから放課後まで麗奈が困惑しっぱなしだったのは言うまでもないだろう。