冒頭
ここは悠久の世界樹から最も近い場所のある屋敷。その場所に住むのは精霊の母とも呼べる自然の大元、世界樹の管理者とも呼べるエルフと、その契約精霊達であった。
「そう、そしてそのエルフ、つまりは僕の名前だけど、ティルネアリナっていうんだ。よろしくね。自己紹介をすると、年齢は704万8986歳で、好きな食べ物はガトーショコラ、やってる仕事といえば、魔法の研究、世界樹の管理や、今みたいに新しく生まれた重要な精霊達への教育ってとこかな。」
こう話すのは、黄緑の少しかかった白い髪をした、中性的な男性である。
そして両隣には女性の姿をした二人の精霊がいる。
「…………よろしく。」
「この無口な子はイーニア、僕の契約精霊の一人だよ。無愛想だけど優しい精霊だから仲良くしてやってね。」
長身で群青の長い髪をしたグラマラスな女性、イーニアはほとんど表情を変えず口数も少ない。しかしティルネアリナにとっては不都合はないようだ。
「えーっと、ティアの契約精霊のもう一人、ハクです!私もティアみたいに研究みたいなことしてるんだけど、私の専門分野は法術だからあんまり力にはなれないかな~。法術に興味があったらいつでも言ってね、ビシバシ鍛えちゃうよ♪」
軽く答えるのは黒のかかった赤い髪をしている少女、ハクだ。とても法術を専門としているとは思えないほど細くスレンダーだが、体の動き一つ一つは手本のように思えてしまうくらい繊細だ。
「とまあ、これが我が家に住む家族達の紹介だ。それじゃあ君の自己紹介をお願いできるかい?」
ティルネアリナはテーブルを跨いで目の前に座っている一人の精霊に質問する。対する少女の外見をした精霊は、目の前の大きな存在のせいか随分と緊張しているようだ。
「は、はい!私はリリールカレナリスといいます。4日前に[賢智]の名前を与えられて来ました!この度はかの精霊の父と呼ばれるティルネアリナ様にご招待頂きありがとうございます!」
面接にあるような決まりセリフじみた言い方だ。始めからこう言うと決めていたんだろう。
リリールカレナリスは遠慮がちな目を向けながら口をゆっくり開く。
「えっと…、呼ばれたのは私が[賢智]の名前を与えられたからですよね?」
「そうだよ。これから君は僕の生徒のようなものになるから、そこまで丁寧にしなくてもいい。そして精霊は名前を誰かに与えられるんじゃなくてね、自分の力で得た個性のようなものだよ。突然降って湧くものだからそう勘違いするのも無理はないけどね。」
ティルネアリナは坦々と要点を話していく。何度も何度も違う精霊に同じことを話しているので言い口は流暢だ。
「まず君の置かれた状況から話すよ。永く生きて力を得た精霊は個性に基づいて名前を得るってのは知ってると思うんだけど、君の得た名前は少し強大でね、大抵の精霊なら名前を得ても[月光]とか[氷結]みたいにその性質も分かりやすくて単純なんだけど、[賢智]の名は複雑で厄介な性質を持っているみたいなんだ。」
「厄介…ですか。」
リリールカレナリスはピンと来ないような顔だ。
「そう、君のような強大な力を持った精霊を僕は野放しにしたくないんだ。…というか[賢智]の名を持っておきながらただの人間にも知識が劣るなんて嫌だろう?よってこれから君は生徒、僕は先生として魔法の知識を教えることにしたんだよ。」
「教える…ってことはこれからティルネアリナ様にご教授を願えるってことですか!?」
リリールカレナリスは驚きながらも嬉しそうだった。まあ[賢智]の名を持つのなら当然の反応だろう。
「もちろん、嫌と言っても強制だからね。あとこれからは僕のことはティアでいいよ、長ったらしいし。」
「わかりました!よろしくお願いします、ティア先生!」
(素直だな~この子。めっちゃ可愛いわ、撫でたい。)
このエルフ、ロリコンであった。