浅草の母
ピピピピピピピ
目覚まし時計の音で俺は目を覚ました。今日は月曜日、学校に行く準備をしながらふと鏡を見た。由美の姿が映っている。由美はいつ目を醒ますのか?
まさかこのまま目を醒まさないのだろうか?
俺にできる事は無いのか?俺は自問自答した。が時間がない。
急いで学校に向かった。
教室でカズに会った。だが決して目を合わせようとしない。
しょうがない。しばらくは刺激しないで放っておこう。
麻子が昨日のテレビの番組について話しかけてきた。
「由美昨日の不思議TV見たー?浅草の母ってやつ」
「私昨日は見てないわ。何?浅草の母って?」
麻子は興奮しているようだ。
「めちゃくちゃ当たる占い師らしいよ!霊能力者だって!なんでも浅草のどこかに突然出没するんだって。曜日も時間もまちまちで滅多に出会えないんだってさ」
「ふーん、すごいねー」
その時はほとんど気にしなかったが、授業中にいろいろ考えが浮かんだ。
その浅草の母に会ってみたら由美の事が何か分かりそうな予感がした。
俺は放課後浅草へ向かった。浅草は銀座線の終点だった。浅草の路上には、椅子と机を置いた辻占い師が何人もいた。男性も女性もいたが浅草の母らしき人は見つからなかった。
遊園地の花やしきのうらをとぼとぼ歩いていると、また辻占い師が椅子と机を出してじっとしている。
不意にこちらの方を凝視し始めた。目の力が強い。まるで武道の達人に睨まれているようだ。俺は吸い込まれるようにその占い師の所に近付いた。
自然と口から言葉が出て来た。
「貴女が浅草の母ですか?」
「そうよ。あなたの事を待っていたわ」
「待っていた?」俺は思わず尋ねた。
「私の占いで今日この場所この時刻にあなたが現れる事はわかっていたわ。あなたはもう死んでいる。霊魂がその女の子の身体に入り込み支配している。あなたが支配している限りその女の子の意識はもどらないわ」
俺は慌てて尋ねた。
「じゃぁどうすればいい・・・」言いかけたが途中で止めた。
俺には分かっていた。俺が消えれば由美の意識が戻る。
浅草の母は俺の目を見つめて語り出した。
「明日よ。明日にはその女の子の意識はもどるわ。今日はもう家に帰りなさい」
俺は家に帰った。由美の部屋で考えていた。
明日由美の意識が戻る。という事は明日俺は消えるという事だ。鏡を見た。
由美が悲しそうにこっちを見ている。
急に目から涙が溢れ出てきた。消えて無くなる。もう由美に会えない。
最後に由美と話したかった。俺は一晩中泣いた。