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早くも気分投稿に。
カドクの町を出国してから五日目が過ぎていた。奴隷商の二人はこの数日で働き者へと変わっていた。恐らく初日の夜の件が効いたのだろう。自ら火種を集めに行き火を起こすようになった。食料も狼だけではなく兎や鹿を狩ってきたりと中々に良い働きをしている。
目的地のケルバータまで残り一日。
「そういえばなんでトルラ達は奴隷商なんてやってんだ?」
「違うんすよ。俺たち儲け話があるって黒服の男に誘われたんすよ」
ルークス弁明するようにトルラは経緯を説明し始めた。
「十日前に賭博で大損しちまって、次の日に強盗に遭ってよ。そんで弟と犯人捜ししてる時に知らねぇ男に声かけられたんだよ。儲け話があるって。それが鬼子拉致の依頼だったんすよ。なぁトート」
「うん。鬼子を拉致するだけで一千万用意するって。その時はお金に困ってて遂乗ってしまったけど……」
トルラとトートは何度目かの土下座をルリナにする。しかしルリナはぷいっと反応を見せずに荷台から馬引き部分に移動した。ルリナの反応に二人は再度「「申し訳ない!」」と告げた。ルークスは確認するようにトルラとトートに問う。
「つまりお前らは誰だか知らねぇ男の話を鵜呑みにしたと」
「「は、はい……」」
「馬鹿だな」
「馬鹿ですね」
二人のド正直な返事にルークスと俺は呆れていた。鬼子を拉致するだけで1千万ルンの報酬なんて考えたら詐欺だってわかるだろ、と。
「その黒服の男はなんでそんな依頼をしたんですかね?」
「そりゃ腕に自信がなかったんすよきっと」
俺の問いに平然とそんな事を言ってのけるトルラに「お前が言うか!」とツッコミを入れる者はいない。
「なんでそんな可哀そうな目でこっち見てんだよ!おいトート、お前もだ!」
俺とルークスの憐れみの視線に顔真っ赤に怒りを見せる。トートに助けを求めようとしたがトートさえも俺ら同様の視線を送っていた。自分に仲間はいないと悟りトルラはアトラークの荷台から降り、後ろを付いてくる飛竜の荷台で一人いじけた。
トルラは直ぐに感情を口に出す根っからの嘘を付けないタイプだ。その一方、トートは普段冷静で落ち着いているが戦闘になると感情で動く為、怒らせてはいけないタイプだろう。賭博で大負けしたと言っていたが、トルラの負けた所に呷られてそのまま負けが続いたのか。或いは、トートが依存症で手持ち全てを溶かすまで居座ったのか……。またその両方だろうか。この二人の事を考えれば考える程に今後が心配になっていく。
「今夜はフルーツもあるのか」
トルラの機嫌取りをする為に俺とトートで果物を取ってきたのだ。今夜の食事は兎肉と山菜のスープ、鹿肉の焼肉、謎のフルーツの三品だ。
まず、兎肉と山菜のスープから頂く。うーん……悪くはないかな。兎肉は身の締まった鳥に近い食感、野菜不足で胃もたれ気味だったのを山菜が程良く調和している。スープ自体は塩のみの味付けな為美味とは言えないが、点数を付けるとしたら七十四点。最近肉しか食していなかった事で胃への負担の無い料理と言うだけで中々に高得点だ。だが、このスープを料亭などで出されたら返金を求める客の続出は間違いないだろう。
二品目は鹿の焼肉だ。昨日の晩にも食したが今夜は違う。山菜があるのだ。肉のみとはまた違った食感を味わえるだろう。さて、まずは鹿肉のまま頂こうか……ふむふむ、相変わらず旨い!鹿肉は脂身が少ないにも関わらずパサつきは無く、少量の塩が肉の表面をコーティングしている。口に入れるとしょっぱさが口に広がり噛めば噛むほど肉と塩の味が交互に押し合っている。そこに山菜を口一杯に頬張る。すると、肉と塩の味が控えめになり山菜の風味が鼻から抜けていく。肉と山菜の食感と薄塩のバランスが絶妙だ。これは山菜があると無いとでは明らかに山菜有りの方が旨い。もうこの味を知ってしまった。山菜無しでは鹿肉は食べられない!そう思わさせる程に美味だった。
そして最後に謎のフルーツだ。このリンゴの様な黄色の果物。師匠に確認したがこんな果物は知らんと言われた。そのため、ルリナには皆が大丈夫だったらと注意はしておいた。そこにトルラがフルーツに手を出していた。
「くはぁ、今日も旨かったっす、ルークスの兄貴。あとはこのフルーツだな」
俺は隣にいるルークスに述べた。(弟も旨そうに肉喰ってやがるぜ)反対に座る弟の喰いっぷりに遂笑みを溢す。
「それじゃデザートお先に頂きます」
黄色く熟れた果物にかぶり付く。すっぱい……のか?果汁が口一杯に溢れ出す。ぶよぶよとした果肉があり、噛むと粒の様な固い何かが出てきた。最初の酸味が次第に苦味へと変わっていき……吐いた。
「なんすかこれ?すんげぇまずいんすけど。何か口の中がピリピリし始めるし。大丈夫なんすかね、このフルーツ」
俺は未だフルーツに手を付けていない全員に問う。眼を合わそうと全員を見渡すが、皆視線を逸らしていく。(あれ、ちょっと待て。もしかして俺……)すると、弟のトートが言いにくそうな表情で口を開く。
「兄さんには申し訳ないんだけど、その……ね。必要だったんだ。ごめんなさい」
「おまえらぁぁぁああああ」
俺は毒見役として使われたことに全員を睨みつけた。弟に関しては知っていたにも関わらず、死ぬかもしれない毒見役を承知の上で見ていたのだ。弟はどうしてしまったのだ。あの馬鹿みたいに笑って阿保みたいに賭博をして、いつも優しく俺の弟としてそばにいたお前は何故兄さんにそんな事をする人間になってしまったのだ。兄さん……ショックだよ……。
変わってしまった弟に俺は目で訴えたがいつもの笑顔で弟は一言「ごめん」と。
「なにへらへらわらってんだ!このハクジョウモノォォォォオオオ」
俺は初めて弟の顔面に拳をぶち込んむのだった。
いかんなこれでは。