③
キャラが全然生きてない気が……
俺たち三人は朝食兼昼飯にしていた。
「調味料があれば…‥」
「……美味しくない」
「仕方ねーだろ。塩しか余ってねーんだから。なんだったら砂糖でも付けるか、お前ら!」
俺とルリナの反応に怒鳴るルークス。本来、多種類の調味料を荷台に詰めているが、旅が九日目を突入して醤油や胡椒が切れていた。その中で残っている調味料が塩と砂糖の二つだけだった。今俺たちが食べているのは狼の骨付き肉だ。下味の無い狼肉はやはり美味しくはなかった。獣の独特な風味は塩だけで落とすことは出来ない。そんな美味とは言えない料理を俺たち三人は無理やり胃に押し込み目的地へ向かうことにした。
「この人達どうするんですか、師匠?」
ある二人の男を指さしながらに俺は言った。
「そりゃまだ使えそうだし、次の目的地まで連れていくさ」
ルークスは不気味な笑みを浮かべながらに言う。その二人の男とは、先刻俺とルークスに傷を負わされた奴隷商だ。大槌を持ったトートと呼ばれていた男はそこまで傷は深くない。しかし、二刀流の男は両足を包帯で撒かれる重傷である。トートは先程目を覚ましたが、後者は未だ目を覚まさない。二人はアトラークの荷台に乗せられ、飛竜はその後ろを付いてきている。眼を覚ましているトートにも鬼狭付近での事を聞いたが、これと言って情報は得られなかった。ルリナは「皆と会いたい」の一点張りで鬼狭の出来事を教えてはくれない。鬼狭に行けば何かわかるかもしれないが、そこまで時間を無駄には出来ない。そんなルリナは馬引きの前部分に腰かけている。奴隷商の二人とは少しでも距離を取りたいという事らしい。
「貴方たちは何処に向かっているのですか?」
トートは俺たちの向かう目的地を聞いてくる。
「食料確保のために『ケルバータ』に向かってるよ」
「『ケルバータ』か。良い噂は聞かないなぁ。あそこはよそ者に対して多重に税金掛けたり明らかな詐欺を働いてくるらしいから」
他国について詳しいトートは忠告をしてくる。
「詐欺はどんな事されるんですか?」
詐欺の種類を知っていれば引っかかることはないだろうと、俺は詐欺がどんなものなのかを訪ねる。
「詐欺というより犯罪行為かな。盗みをしたと警官を呼ばれ身体検査をしたら店の商品がポケットから出てきたとか。殺傷事件が有ればよそ者が真っ先に疑われて証拠もなしに牢屋にぶち込まれるとか。酷い話ばかりさ」
思っているよりも治安の悪い国だった。多重税金は何度か他国で遭遇している為「またか」という感覚だが、後者の犯罪行為はあまり耳にしないモノだ。
「それは逆に楽しみだ」
ルークスは商人の血が騒ぐと何故か嬉しそうにしていた。
陽も沈み始めた夕暮れ時。ルークスに怪我を負わされた男が目を覚ました。
「兄さん!」
先に声を上げたのはトートである。ずっと兄を心配そうに近くで見守っていた。
「お前何泣いてんだ。それよりここは……っ!」
トートの兄は辺りを見回すと、俺とルークス、そしてルリナと目が合う。
「お、おおおい!なんでこいつらと一緒にいるんだよ」
トートの兄は瞬時に刃を抜こうとベルトに手を回すが、そこには刃が無いことに気が付く。
「刃なら預かってんぞ。荷台で暴れられたら堪ったもんじゃねーからな」
「ちっ」
トートは兄にここまでの経緯を説明し始めた。説明の終えたトートの兄は申し訳なさそうに口を開く。
「なんつうかその……悪かった。手当までしてもらって。俺はトルラ・ユーグリフ。こいつの兄だ」
「悪かったねぇ……。んならその誠意見せてもらおうじゃんか」
「誠意って何を……」
ルークスは性悪な顔付きで紐を取り出す。
「そりゃあ後からのお楽しみだ」
そういってルークスはトルラを怖がらせていた。
月が見え始め辺りは暗くなり始めた。先が真っ暗でこれ以上の移動は困難な為、現地点で野宿の準備に入る。トルラ達の荷台には武器の他に果物が数個あるだけだった。ルークスは「よし、出番だ。二人とも」と紐で縛り上げられたトートとトルラの二人を荷台から降ろした。
「な、何するんですか」
「てめぇ、俺たちをここに置いていこうなんて考えてないよなぁ」
トートにトルラはルークスに問う。ルークスはそんな事を無視して今朝の残った枯れ木に火を付け焚火をする。
「そんじゃ、お前たちに最初の仕事を与える。食材をおびき寄せろ。それだけだ」
「「ん?」」
ルークスの言葉に二人は、(何を言っているんだこいつは)という反応を見せた。しかし、それは数分後に変わることとなった。
「た、助けてくれ。おい!早くしろ!死ぬ!死ぬ!死んじまう!」
二人は泣きべそ掻いて助けを求めていた。二人は焚火の横に紐で縛られ身動きが取れない。そんな、二人の周囲を複数の狼の群れがよだれを垂らして囲んでいるのだ。ルークスは嘲笑しながらにその光景を見ていた。ルリナは複雑な表情で眺めている。相変わらず性格の悪いルークスに呆れつつ俺は腰に差す刀を抜き荷台から降りた。
「おい、お前。早く早くしてくれ。もう、やば……ぎゃぁぁぁあああ」
一匹の狼がトルラに向かって飛びかかった。それが合図だというかのように他の数匹の狼も縛られた二人に向かって飛び出す。俺は、足にマナを溜め込み一気に駆けた。手前にいる狼二匹を一薙ぎで絶命させ、さらに二人に飛び掛かる狼三匹にポーチから取り出した投擲を投げ込む。頭部に直撃した二匹は絶命し、一匹は腸に突き刺さり態勢を崩して焚火の中へと転がっていく。焚火の中から抜け出そうとしている狼を二人の下に着いた俺は刀で頭部を粉砕する。囲んでいた他の狼たちは同胞が多勢死んだことで逃げ去っていく。
トートとトルラの二人は安堵からか頭部に投擲の突き刺さった狼を横に地べたに寝っ転がる。相当怖かったようで、二人は晩飯が出来上がっても身を震わせていた。
まるで人形のようだ