35話:こんなこともあろうかとってセリフっていつかどこかで使ってみたいよね?
虫達を踏みつけながら空へと駆け上がる。ぶんぶん沢山でっかいのが飛んでるからいい足場だよ!齧られそうになるけど?
『やはり体の中へは簡単に入れませんねぇ。おとなしく内側から喰い破られれば楽に死ねたものを』
えげつないこと言ってるよこの魔王!けれどもそれは正しい選択だよね?硬い敵は内側から弾けさせるのがセオリーなんだよ!俺にやられたら困るから全力ガードだよ?お尻狙ってくる虫はマジやめてください。本当に!!
「後ろの初めては永遠に封印だよ!サクラちゃんにも挙げられないから虫になんて捧げられないって!そういう訳でモクモク?」
『ぬ、殺虫香っ!?』
持っててよかった薬香!火をつけてぽいぽい投げる。夏の風物詩だけど、こっちの世界はまだ春の中頃位だよ!季節外れだな?
『小癪な!こんな小細工など!』
虫達がその日火にたかって食い潰す。火は一瞬で消え去り、その火を消した虫は役目を終えて死に絶えた。けれどもそれで終わりじゃあない。その蟲の死骸を他の虫が食べて死に、また死んでは食べ、食べては死ぬ。食欲とは生命の根幹だからね!いくら魔王とはいえ、食欲旺盛な虫たちを止めることは叶わない。
『な、何が!?』
「うん、向こうの世界ではわざと喰わせて虫を延々と殺すっていう殺虫剤があるんだよ。Gと同じ性質の虫たちはこれでサヨナラ?」
『卑劣な真似を!』
鏡を見ればいいんじゃないかな!そして届いたよ?
『ぬ!?』
霊力と魔力と諸々全部をブッコんだ一撃を思い切り振りかぶる。
無限流/刃/御雷――
うん、全力の一撃なんだよ!
けれどもひらりと躱されて、一帯の虫が塵と消えるにとどまった。素早い――!
『ふん、早さだけなら魔王龍に後れを取りますが、機動力だけならば!私の方が上なのですよ!そして貴方にはこちらをプレゼントでぇす!』
ぶんぶんとバアルが飛び回りながら紫の液体を大量に吐き出してきた。ゲロかな?ゲロだよこれ!しかも飛び回りながらだから辺り四方に飛び散っている!ばっちいな!
『なるほど一筋縄ではいかない、当たればそれでしまいなのですが――』
うん、自分の部下の虫達もまとめてゲロで溶かしてるね!容赦ないな!というかゲロ死とか勘弁してほしいな!
『まぁいいでしょう。それならばっ!当たるまで吐き続けるのみです!』
カァ!と紫の液体が辺りを覆いつくすように吐き出される。うん、匂いも嫌だし見た目も汚い!たまらなく最悪じゃあないかこれ!
『貴方は魔力を弾き吸収し、その攻撃を無力化してしまう!ならば!魔力のない攻撃ならば貴方を倒すに至るというわけなのです!』
なるほど、研究されてるな!だけどその答えがゲロなのは感心しないよ!ほら、見栄え的にもあれだし?
『この、ちょございな!』
それに、ね!昔の人もこう言ってるんだよ?
「当たらなければどうということは――ない!」
空を蹴って空を舞う。飛ぶんじゃなくて走るんだよ!空をね?飛ぶなんて器用な真似は俺にはできやしないから風に乗って、走って、切り抜ける。直線的で直情的な動きだけども、それでも避けて躱せるんだから十分なんだよ!
『逃げてばかりで私に勝てると――』
「思っちゃいないさ。あと、武器をありがとう?』
『何を言って――そんな、馬鹿な!?』
俺の周りにはバアルの吐き出した毒液がまとめて浮かんでいた。うん、液体だから水だよね?水って事は俺が操れないわけが無いんだよ?俺ってば水に愛されてるからね?たぶん?
「そういう訳だ、ここで堕ちろ!」
『断りまぁす!』
毒液を吐き出す魔王の毒液をそっくりそのまま高速で射出し、魔王を攻撃するついでに大地をえぐり、魔蟲共を吹き飛ばしていく。それでも虫共の数は一向に減る気配すらない。どんだけいるんだよ、こんちくしょう!
『我が魔蟲は無限に湧き続けます!無駄無駄無駄!貴様が私に勝つことなど不可能なのでぇす!』
「それは語弊というか違うんじゃないかな?勝てないのは数でお前じゃあないんだよ!」
風を切り裂き、毒液の刃で魔王蟲を捕らえる。が、浅い!
『が、ぐっ!だが!!』
散弾の様に射出した魔王の牙が俺の腕を掠めてジュウと音を立ててえぐれて消えた。うひゅう!痛いな!マジ痛いよ!?
『ちぃ、やはり毒も効きませんか!』
昔沢山盛られたからね!割と耐性ついてるんだ!その前に溶解されたんだけどね!マジ痛い!木札で治療なんてする暇すら与えてくれないから血を操って何とか止血する。リソースをあんまり裂きたくないけど、応急措置なんだよ!
『何故だ、勇者!なぜ、私に聖剣を使わないのです!』
「なんでって?」
網目状に毒液を奔らせ、大地を割く。それすらもバアルは躱し、牙を飛ばす。流石に二度目は効かないんだよ!
「答えは簡単、お前程度に聖剣は必要ないってことさ」
本当は使うタイミングじゃないからだけどね!あれ使うと割としんどいんだよ!使ったあと確実に倒れるからね?さっきとは状況が違うから喚べないの!俺が倒れたときに回収してくれる人がいないし?ライガー未だにダッシュしてるっぽい!まだかな?
『舐めた真似をおおおおおおお!!』
怒り狂った魔王が魔力を放出しながら幾重もの魔力弾を射出し始めた。なりふり構わなくなってきたよ!
残った木札を切ってその魔力弾全てを受け止める。
第壱の秘術/八咫鏡――!
でも、その量と質は低くて少ない。シルヴの魔力砲とはくらべものにならないほど少ない。これじゃあ全然足りやしないよ!
『黙れ!お前ごときに私の魔力を割いてやれますか!ゆけ、我が眷属たちよ!』
ぞわりと虫たちが大量に押し寄せる。ああもう、本当にきりがない!
更に木札を切って風で大半を吹き飛ばす。
ちらりと虫たちの隙間から空を見やるときらきらと天空から光の柱が伸びていた。あともうちょっと――かな?
『ああ、気づいています』
バアルはにやりと何か確信した顔で高速で最短で光の柱へとその翼をはためかせる。
やはり、気づかれていた!というかバレバレだよね!サテラの事を研究して研究し尽くして、そのすべてを奪いかけた男だ。今、彼女が放とうとしている武装の事を知らないわけが無い。
追随して風を切って追いかける。だけど届かない。速いよ魔王!
『だからさせません!その一撃さえしのげば貴様らに勝機などないのですから!かぁああ!』
口から大量の毒を、液体ではなく霧として大量に吐き出す。濃霧より濃いその毒煙は光をすべて遮り、辺りを闇へと変えてしまった。ミラさんとサラさんの魔法が飛び交うが、魔王の甲殻には傷一つすら付けられていない。流石魔王だ、何ともないのね!
『そして、こんなこともあろうかと!!弾けろぉ!!』
ボンっと音が響き、グランブラスティアの砲撃追加武装、ブラスティアカノンが黒煙を上げながら崩れ落ちた。……そのセリフはずるいな!!