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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第二章:古代なロボと勇者な執事。ロマンだっ!
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32話:田舎だとムカデはいつの間にか潜り込んで来るからスリッパを履くときは割とドキドキだよね?

 燃え盛る街並み、押し寄せる魔蟲共、人々は叫びをあげることもなくただそれを当然と受け入れ喰われ、犯され、蹂躙されていく運命――だった。


「ああ、糞ったれだ。マジで糞ったれだ!!こなクソおおおおおおおお!!」


 足を回し、廻しに回して使いなれた形の刀を振るう。すでに幾匹もの魔蟲を屠っているものの、その刃にほころびすら見られない!ああ良い剣だ!マジでもらえないかなこれ!


「動けない人、あそこ!」

「おうさ!」


 あの黒髪の男、オウカ姫様の執事だという男が拠点だと言った所は本当に拠点となった。いつの間にあんな強固で限定的な結界を張ったんだよあの男は!

 人は通すが魔物は通さない。そんな限定的でありながら強固で堅牢な結界をあの男は俺や子供たちに気づかれないうちにしこんでいやがった。本当に本気で食えない男だよ、お前は!


 今になって何故ここをすんなり拠点にすると言ったかがよくわかる。

 廃墟になったとはいえ、この詰め所はまちのほぼ中心に位置している。つまりは、ここからならば他の場所へ救出へ向かいやすいわけだ。


「けど、これじゃあきりがねえ!」


 そう、きりがない。いくら助けてもいくら救おうとしても、ここの領の中心街であるの街の人口全てを救えるほどの容量は詰め所にはないし、この街でただ一人戦えるであろう俺以外で動けるのは詰め所に隠れていた子供たちだけだった。

 いつの間にか俺の気づかないうちに虫たちに町の住民も城の兵も使用人もみな洗脳されていた。恐らく俺も、子供たちも。だから襲われても逃げることがない。逃げ出そうともしない。まるで人形のように人々は固まってしまっている。


 いや、心までは固まっていない。表情は固められても、涙だけは止められなかった。涙を流す人々を虫共は嬉々として食い荒らす。糞ったれが!この人たちはお前らが喰っていいモンじゃあねえ!


 刃を幾重にも煌かせながら駆け抜ける。ドワーフラビットの少女は固められた人を見つけてはその素早さと脚力を生かして喰われかけた人たちを抱えて拠点へと走る。合間合間にあの男に炎が上がっていたら投げ入れろと言っていた煙玉をぶち込みながら彼女も走る。きりがなくともやり抜けるのだ。俺がやらねば誰がやる!俺らがやらねば皆が死ぬ!


 ――ふと、ギチギチと今一番聞きたくなかった……俺の待ち望んていた奴の鳴き声が聞こえた。


「クソったれこの野郎。ああ、逢いたかったぜ――クソ野郎!」

「糞野郎とは言ってくれるな、小僧――ゲゲゲ!鋼の足を付けた所で貴様の力など知れたことよ!」


 長い頭を垂らすその蟲こそ俺の足を喰った魔物――魔王バアル直属の部下であるグランセンチピードだった。

 人々が喰われていく。血が数多流れてしまう。けれどもその魔蟲と戦わざるを得ない。こいつを止めなければ最後の砦の詰め所すら落とされかねない!だからここでこいつは食い止める!


「無駄な事を――貴様一人で何ができる!何が護れる!」


 グランセンチピードの巨躯が高速でうねり、牙が奔る。それを素早くかわし切る切る切る切る!けれども刃は通らない!

 飛び去るのと同時に辺りにいる虫共を蹴散らす。ああ、耳障りな羽音だな、こん畜生が!


「護るさ!護ると決めた!俺はここを護る、たとえここが地獄と言われてもここを護る犬にでもなってやる!ああ、そうさ俺は地獄の番犬――ヴォルフ・サーベラスだ!!」


 声を張り、センチピードと対峙する。牙と剣が幾重もの軌跡を描き、火花を散らせながら町を駆け巡る。ええい、いい加減固いんだよ!


「くかか!何をしても無駄だと言うに!ヴォルフよ!貴様が当てにしている男はこの街にはいない!今頃バアル様に喰われているか蹴散らされている頃だろうよ!」


 高らかに笑いながらセンチピードは巨躯の下半身を振るう。


「はっ!最初から当てになんてしてないさ!だがな!」

「ガッ!?」


 銀の足でその背を蹴り砕き、叩きつけた。ああ、ようやっと通ったぞこんにゃろう!


「あの男はお前が思うほど甘い男じゃあないぞ?そうさ、俺が言うんだから間違いないね。しつこさだけはぴか一だからな!そして俺は諦めねぇ!お前を倒して街を護る!人を護る!護れるだけ守ってやるさ!さぁ、かかって来いよ糞虫共!」

「ギギ、調子に乗り追って――そうか、この煙っ!」


 今更気づいても遅すぎる。その煙は虫よけに焚かれる草を使った煙玉だ。家程に大きなグランセンチピードは兎も角、小さな虫共はひとたまりもないだろう。


「だが、この匂いならばお前の自慢の鼻も当てになるまい!」

「そんなもん最初からつかってねーよ!お前らにはいいハンデだ!」


 ふらふらと飛んできた魔蟲の頭を幾多も砕く。だが、それでもまだ数が減る様子は――ない。糞ったれが!数が多すぎるんだよ!


「ハンデ、ハンデか!一人のお前相手に無量大数ともいえる我らに!」


 息はとうに上がっている。蟲共に噛まれた傷からは血がとめどなくあふれている。だがそれでもまだ走れる、まだ戦える。やっと戦士としての本懐を遂げられるのだ。


 今度こそ、俺はこの街を――


 瞬間、音が鳴り響く。澄み切った、頭の中を総ざらいに吹き飛ばす音だった。


「なにが、一体――」


 ――時が、動き出す。動き出した!固まっていた人々は叫びをあげ、虫共を散らし、走る。血みどろになっているが生きている。蟲共が遊びながらはいずり食い散らかしていた人々がようやっと動きだせたのだ!


「馬鹿な!バアル様の洗脳が解けただと!?」

「そうらしいな!」

「ぐが!」


 センチピードの腹を蹴り砕き、素早く刃を突き入れ、切り裂く!


「お前が言っていた男の仕業だろうよ!もちっと早くても良かった気がするが、たぶんこれが最良だったんだろうよ!」

「ギチチっ!こ、このいぬっころ風情、がっ!!」


 下半身と上半身を断たれたセンチピードはバタバタとのたうちまわり、それでも動きを止めることはない!ああしぶといなこいつは!


 しかし、その体に幾重もの魔法が降り注ぐ。


「――隊長、遅くなりました」

「まったく、一人で護ろうとするなんて無茶しやがりますぜ」

「いいかっこばかりさせませんよ」


 現れたのはかつての部下。同じく奴隷に落とされてしまっていた勇敢な戦士たちだった。


「へっ。遅ぇんだよお前らは」

「が、ぐ、な、何匹、集まろう、がっ!」


 紫の血毒液を散らしながらセンチピードは残りの体で鎌首をもたげる。


「それはこちらのセリフだよ、グランセンチピード。――さぁ、行くぞお前ら!!」


 仲間たちと共に刃を、剣を、拳を構えて虫共を駆逐していく。

 刃が煌き血しぶきが上がり、魔法が銃弾が貫けなかった魔百足の胴の隙間を縫って隙間を駆け巡る。


「こ、の!け、獣、ども、め――」

「その獣にお前は負けたんだよ、糞蟲」


 頭を砕きグランセンチピードは終ぞ息絶えた。それでもうごうごしていやがる!燃やせ燃やせ!埋めながら燃やせ!


「ああ、これは狼煙だ!この街を虫共から取り返してやるぞ!!」


 仲間たちの雄々しい声があがる。……でも救援に来てくれたメイドさんたちがすごく強かった。というか元部下の女性陣がメイドをやっていた!うん、なんだか蟲液にまみれて高笑いするメイドさんって怖すぎる絵面じゃないか……と言う前に口を部下に閉じさせられた。


 おかしい、俺はただ事実を言おうとしただけなのに!言ってはダメらしい。何故だ!?


遅くなりました。

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