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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第二章:古代なロボと勇者な執事。ロマンだっ!
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31話:いらなくなったチリ紙は丸めてごみ箱に捨てちゃうけど大体うまく入らないよね?

 暗くて昏く、闇よりも深い暗黒の中――ただ一人私は眠り続けていた。


 自分が何者なのかも忘れ、自分に与えられたこの地を見守るというその目的すらも記憶の奥底にしまい込み、ただ私と言う存在はそこにいた。


 あの日、あの時私は生まれたのだと思っていた。


 暗闇から光を得たあの日。護るべき人と敵対すると決めたあの日。

 私は自分が自分として、光を得て自らの足で歩きだす代わりに、この世全ての悪の体現ともいえる大魔王の配下に加わった。



 ――けれども、それは全て私の勘違いだったのです。


 私はこの世に出て自分の目ですら見たことがなく、足ですら立ったこともなく、本当の自分が何者かすらも知りませんでした。


 だから本当の私を見つけ出してしまった男に、私の大切にしたかった人もモノも何もかもをおもちゃの様に弄ばれた。弄ばれてしまう所だった。


「――だから真人さん、貴方が来てくれて本当に良かった」


 マスターからそっと唇を離し、私は微笑む。

 目の前の黒髪の少年は危険を顧みず命を賭して助けてくれた。私の事など考えなければ圧倒的なまでの力を振るい、姫や騎士たちをすぐ様にでも助けることができた筈。それなのに、私を助けだそうとしてくれた。それがすごく嬉しかった。


「真人さん、貴方がいなければ私は私ではなくなっていました。まずそのことに最大の謝辞を」


 首筋からコネクタを輩出し、大型機体との接続を遮断する。これであの男からの干渉もこれ以上されることはないでしょう。


「いや、俺は助けたいから助けただけだからお礼を言われる必要はないよ?お礼を言うなら後ろで目から血を流してる玲君かなって?というかグルンガストさんが美人で綺麗な女の子だったことに驚きなんだけど!?」

「それは私自身もです。性別など無いと考えておりましたので。あと、私の事はサテラとお呼びください、マスター」

「ます、ほぁ!?」


 真人さんがびっくりしている。けれどもこればかりは仕方ありません。正式な手順でマスター契約をしたのですから、仮契約状態だった大魔王でも、マスター権限に違法アクセスしていた魔王バアルでもなく、私の主人は目の前の彼、水無瀬真人になったのです。ふふ、こうしてみるとなんだかかわいい気がします。マスターになってもらったせいで二割り増しほどに?


「う、うん、それってひな鳥の刷り込み的なアレじゃないのかな?だから落ち着こう、落ち着こうかグルンガストさん!」

「もう、だからサテラだと言っています」


 マスターの大きな手を握り、私より背の高いマスターの顔を見上げる。なるほど、こうして実感してみればマスターの事を好きになったオウカ姫の気持ちがよくわかる気がします。マスターのやさしさ、不器用さ、強さ、その何もかもが愛おし――


「ま、まーくん?え、なに?美人さんと手を握ってナニ、して……?」


 彼の入ってきた入り口を見るとオウカ姫がこちらをのぞき込んでいました。……心なしか、目からハイライトが消えて……。


「だ、だから違うんだよサクラちゃん!この子はグルンガストさんでサテラさんで、止めるためには中に入って直接ばりばりっしゅしないといけなかったから頑張ってこじ開けて入ったはいいけど、こうぷしゅっと開いてがーってなってぶちゅーだったんだよ!……ハッ!?」

「ぶちゅー?え、なに?その美人さんとき、き、キス、したの?したんですか!?」

「そうだけど!そうだけど違うの!俺が一番好きなのは、サクラちゃんなの!」


 なんだか泣きそうな勢いで頭を下げているマスターが不憫に思えるというか、私が原因ですのでそろそろ助け船を出します。


「オウカ姫様、此度の不敬誠に申し訳ございません。私の油断のせいでオウカ姫様ばかりか、姫騎士の皆様も危険な目にあわせてしまいました」

「ほ、本当にグルンガストさん……なんですか?」

「はい、私が四天王が一人グルンガストの本体であるサテラ・グルンガストです。この度、魔王バアルにマスター権限を不正に奪われていたのですが、真人様にマスター権限を正式に受領していただくことにより危険を回避することができました。キスはそのマスター認証に必要なモノでしたので、真人様の意に反したことになります。ですので、真人様をあまりお攻めにならないでください」


 そう言って私は深々と頭を下げる。本当に自分の不徳の致すところです。あの時、バアルの不躾な下卑た笑みで私に何かをする腹積もりだと言う事に気づいていればよかったのです。

 尤も、気づけていたとしても私は彼程度ならどうとでもナルト考えてしまっていた訳で、今思うにそういう所が機械ではなく人の考えだったのでしょう。


「はぁ……分かりました。というか、わかってます。私と同じくらいきっとまーくんも私の事好きでいてくれてるって思っていますし」

「さ、サクラちゃん……!」


 真人様がすごくうれしそうにサクラ姫の手を握る。――なるほど、この気持ちが嫉妬と言うものですね。

 あの方の行為をあそこまで受けれるなんて、本当にうらやましい……。


「あと、前も言いましたけど!私が一番なら、その、二番目さん三番目さんがいても大丈夫ですからね?……言っておかないとまーくんの場合、いろんな子を不幸にしそうですし」

「え、なんでかな!?大丈夫、俺そんなにモテないよ!だって、サクラちゃんと恋人になるまで恋人がいたことなんて、な、な、ないし……。あれ、なんだろう、自分で言ってて悲しくなってきたぞ……」


 自覚がない!こ、これはとても由々しき事態です。彼の周りは既に女性だらけ。彼女たちがもし、想いを寄せることになれば、気づかれることなく失恋に嘆き悲しむことになってしまいます!


「お任せください、マスターの事を皆さんがどう思われているか、後日数値で提出させていただきますので!」

「「「まって、それは乙女の尊厳にかかわるからダメ!!!」」」


 外からのぞき込んでいた姫騎士の皆さんに止められてしまいました。いいアイディアだと思ったのですが……。


『ふ、ふ、ふざ、ふざけるな!この、糞ったれが!私の、私の偉大なる計画がただの勇者ごときに崩されただと!あ、ありえん、あり得ませんぞ!!』


 マイクで耳障りな魔王の声が響く。

 そういえばまだいましたね、この魔王。確か一番奥の管制室でふんぞり返っているんでした。


「魔王バアル。貴方のたくらみは稚拙でずさんで穴だらけで擁護のしようもないほどに欠陥だらけの計画でした。その計画にまんまと乗せられてしまった私も私なのですが、貴方の悪事もここまでです。おとなしく投降するもよし、私の胎の中でこのまま死ぬのもよいでしょう。さぁ、どうされますか?」


 正直な話、私の産まれたこの場所で死なれてしまうのはとても嫌なのですが、面倒を広げられるよりはましなのでそこはぐっとがまんしましょう。


『誰がここで死ぬか!お前、そう、その黒髪のお前を殺して今一度サテラを取り返しまぁす!』

「ふん、良いぜ。かかって来いよ。魔王バアル!さぁ、決闘だ!お前と俺とでタイマン張らせてもらうぜ!」


 機体から身を乗り出してカメラに向かってマスターが腕を振る。子供っぽいけどそこがまた可愛いと言うか、ふふふ……こほん。オウカ姫様にジトとみられてしまいました。私、変な顔していたでしょうか?


『断る!誰が貴様などと決闘などするか!くくく、既に我が国から虫の軍勢がこの国に迫っておる!アマダムにいた我が軍勢も町人を喰らいつくし、坑道の蟻共ともにここへ押し寄せてくるだろう!』

「なるほどそれは大変だ!ドギーのお兄さんに任せて来たとはいえ、一人じゃ心もとないからね!……だから、こっちの味方を増やすとするよ」


 マスターは息を吐き、パァン!と耳が張り裂けそうなほど大きな音を立てて両の手を鳴らす。


『な、何を!?』

「さぁてね?あとは結果を御覧じろだ!んじゃあ魔王バアル。引きこもりさんはまずここから出て貰わないとね?サテラさん、お願いできるかな?」

「マスターのご命令とあらば」


 ああ、何と胸のすく思いでしょうか。いったい幾年月をこの日、この時、を待ち望んでいたでしょう。


 私は、本当のマスターの命令でこの施設を稼働させる。


『こ、こら!私がマスターだぞ!サテラ!サテラあああああああ!!』

「うるさい。私のマスターは真人様だけです。お前は空の彼方へ飛んで行け!」


 管制室をパージし、緊急脱出装置を作動させる。遺跡から強制排出されたそのブロックは空高くへと舞い上がり、風化したパラシュートが開くはずもなく、地面へと叩きつけられた。


「よし、やったか!」


 真人様が嬉しそうに握りこぶしを掲げていた。

 うん、やっぱり私のマスターは可愛くてカッコいいなって。……変な顔、してませんよね?み、皆さん見ないでぇ……!

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