15話:お肉だらけの謝肉祭ってカロリーに恐怖だよね?
草木も眠る丑三つ時。闇夜を一つの影が走る。その影は四角く、紙でできており、その名は段ボールさんという。
こちら蛇さん!ただいま地下に潜入中!……みたいな?うん、応答する人誰もいないんだよ!サクラちゃんの部屋前で見張りしてくれてるルナエルフ母娘以外は寝てるしね!寂しいな!
階段を降り、固く閉ざされた魔法印で閉じられた扉を適当に開けて中に侵入する。黒い全身タイツ用意しておけばよかったな!もしくは赤いジャケット?もみあげ伸ばさないと!
魔力で動くエレベーター。乗ったらバレそうだから扉を開けてワイヤーを下っていく。下が見えないな!落ちたら死にそうだ!だけど途中で面倒くさくなって壁を蹴りながら降りてったのはここだけの話。手が痛くなったから仕方ないよね!
最下層、地下深くに到着し、最期の扉を開く。
「誰だ!……?誰もいない?」
中にいた白衣の虫顔のおっちゃんが首をかしげている。ふふ、段ボールの隠形は完璧なんだよ!たぶん?
「くそ、故障か?後で技術部に問い合わせてやる」
文句を言いながら男がコンソールをいじる。
「あああああああ!」「が、ぐぎゃ、ら、あ゛っ!!」「ごろし、ごろおおお!」
「あー、あー」「ぎゃああああああああ!!」「やあらあああ、ああああああ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにあった。肉の塊となった勇者たちの成れの果て。女たちの肉で組み上げられた魔石採集装置だ。手足がないばかりか頭以外ほぼ人としての原型をとどめていない。うわーやなの見ちゃったなー。モザイクいるよ!モザイク!
「けけ、いい響きだ。俺を殺そうとした奴が命乞いしながら泣き叫ぶのを聞くのは、何度聞いても気味がいいなぁ」
白衣のおっちゃんがニヤニヤしながらなんだか嬉しそうだ!うん、吐き気がするよ!少女たちの胎には全て魔法紋が刻まれ、魔石が製造されるたびに桃色に光り輝いている。
しかしこの勇者魔石製造装置は完全にオートメーション化されている。排泄物や栄養管理、魔力数値の安定や、勇者の精神状態もバイタルで確認している。
製造のための触手系魔物さんは裏で何かをもぐもぐしている。うん、勇者なお肉かな?お肉だなーげろろ!
ともかくここはハイテクだ!だから俺にはよくわからん!機械は割と苦手なんだよ!
けれどもわかることはある。この装置はとてもろくでもないってことさ!とりあえず壊すのは簡単だ。だけど、その後が面倒くさい。
この子たちを苺ちゃんたちみたいに迎えるのはいいとして、そのためのプロセスをどうするかが問題なわけなんだよ!そこんところどう思う?
「え、お前誰だあぁ……」
「みょんみょんみょんみょん?はーいこんばんは!世界のトミーです?」
「とみーさん、こんばんわ?」
おめめぐるぐるしてる虫のおっちゃん。意識がふわふわ明後日の方向に飛ばしておいたんだよ!あとで忘れてもらうのもお約束なんだよ!
「それで博士なおっちゃん、この装置魔石を作ってどーしてるのさ?」
「作った魔石は、全部ほくせーの遺跡に?運ぶよう?指示されてーおりますですはいな?」
遺跡、というとさっき聞いたグルンガストさんの遺跡だろうか?ほとんど動いてないって聞いたけど、それを動かすのに必要なのかい?
「そこまではわかららないかなぁああ?俺がぁ支持されたのはぁ、ゆーしゃたちのかんりだけけ。けひ、エロいぜ!」
この虫のおっちゃん変態さんだった!種族が完全に違うのにエロいって言ったよ!ううん、相手の胎内に卵を産み付ける生き物って、こんな感じの変態さんなのかな?たぶんそうだ!
そういう訳で目的は果たしたから地上に戻ることにする。勇者の子たちには申し訳ないけど、もう少しこのままでいてもらう。助けたいけど、助けたら、助けられなくなるかもしれない。だから約束をする。
「必ず、絶対に戻ってきて君たちを助け出す。約束だ」
おそらく、きっと、彼女たちには聞こえていない。
自分たちの頭の中をぐちゃぐちゃのぐずぐずのぼろぼろされて、目も耳も隠された彼女たちはもはや人としての尊厳もなく、意義もなく、ただ魂と精神だけは壊されないように調整されながら、恐怖と絶望と哀しみを味あわせせ続けることで、純度のいい魔石を産みだし続けさせられている。
けれども今はそれでいい。
――これは俺の誓いなのだから。
そういう訳で、最終ゴールが見えてきたんだよ!ゴールは婚前旅行の目的地、グルンガストさんの生まれた古代遺跡だ!ひゃっほー!行く理由ができたぜ!
たぶん武装した厄介者が沢山いるけど!たぶん虫だらけのムシムシパラダイスだろうけど!
それでも楽しみが尽きないんだよ!だって遺跡だよ!オーバーテクノロジーの塊だよ!オーパーツさんだよ!男の子ならわくわくが止まらなくなっちゃうって!どんなロボがいるのかな!というか敵になってたら嫌だな!ビームとか撃たれたら肉片も残りそうにないんだよ!こう、ジュってね?ジュテーム?挨拶がわりかな?
とりあえず帰りは登るのが面倒だからエレベーターで帰る。おっちゃんの後ろに隠れればいいからね!らくちんだ!