10話:マスターって言葉を聞くとどうしてもアジアってつけたくなる人は世代を感じるよね?
「らっしゃい。すまねーな。まだこの時間はやってねーんだ。表にもクローズって看板出してたろ?」
酒場に苺ちゃんと中に入ると、帽子をかぶって丸サングラスのおっさんが睨んできた。うん、ガタイがいい!ただ者じゃない感じがするよ!
「ポイント……移行、しに……きました」
「ああ、あんたら勇者か。しかしなんでそっちの奴は仮面付けてるんだ?」
「ふっ……。人はね、誰しも心に仮面を付けているものなんだよ」
「……ああなるほど。呪いの仮面か。まぁ、上手いこと朽ちるまで待てばいつか取れるだろうよ」
うん、実のところ取れるけどね!でも心配してくれるなんて、なんていいマスターなんだ!というか朽ちないと取れない者だったんだ。怖いな!
で、ポイントの移行ってのがセーブポイント変更ってことなのね。
「はい……。細かいことは……やり、ながら……です」
グラサンのマスターに連れられて地下に入ると、なんだか怪しげな魔法陣の上に水晶が置かれていた。なんだかいかに持って感じがするよ!おらワクワクして来たぞ!
「なんだお前さんセーブポイントを変えるのは初めてか?」
「そうなんだよね。人生何事も経験なんだけど、同じところで死に戻りし過ぎてもうその経験はいいかなーって思って。うん。出鼻をくじかれまくりで辛かったから、早い所セーブポイントを変えたいなって。で、まだかな?」
「ま、そう焦るなって。まずはそっちのお嬢ちゃんからだ。陣に祈りを捧げな」
「ん……」
苺ちゃんが陣の中で水晶に向かって膝をつき、祈りをささげる。
ううん、可愛い苺ちゃんがすると絵になるな!かわいいよ!そうこうするうちに陣が発光し、水晶に何やら紋章が浮かび上がった。んー、これで完了なのかな?
「です……。とても……簡単、です。あと、これ……お布施」
「毎度あり。そういう訳だから次はお前さんだ」
おお、なんだかワクワクするんだよ!ついにあの大魔王から解放される!どうせ帰ったら戻さなきゃいけないんだろうけどね!あれ?あそこ水晶なんてあったっけ?ま、まぁいいか!
膝を陣の中でおり、祈りをささげる。セーブポイントを移動して欲しいと、祈り、囁き、詠唱、念じる!あれ、詠唱何だっけ?シャバドゥビかな?ううん、知らないや!
……しかし何も起こらない。あれ、おかしいな?壊れてるんじゃないのかなこれ?
「ん?変だな。お前さん本当に勇者か?」
「勇者だよ?どう見ても勇者だよ?何回も死に戻ってるし?壊れるんじゃないのかなこの水晶?」
「んなわけねーだろ。もう一回やってみてダメなら諦めな」
仕方なくもう一度念じる。マージマジマジか!……しかし何も起こらない。なんでかな!?
「ま、ダメ見てーだな。今回は諦めておきな」
「いやいやいやいや、それはちょっと困るというか、悲しいんだけどだめなの?」
「ああ、ダメだ。というかこんなこと俺も初めてだ。真面目にもう一度聞くが本当に勇者なんだろうな?」
念押しで聞かれちゃったよ!でもね、勇者だよ!聖剣とか使えるし!まぁ、言わないけど。兎も角、俺は勇者なんだよ!
「んー、そっちの子はできたんだから壊れちゃいないんだろうが……。まぁ、お前さんの神が拗ねてるのかもしれねーな。よくは分からんが今回は諦めな」
「そ、そんなぁ……」
がっくりとうなだれ落ち込む。ううん、困ったというか悲しいな!俺勇者じゃなかったのかな?でも何度も死に戻ってるんだよ?大魔王に何回ライダーキックされたか!あれ、大魔王だから大魔王キックなのかな?これでフィナーレだ!と何度も何度も何度も何度も必殺技決められて必殺されてるんだよ!
え、本当に移動できないの?
「無理だな」
無理らしい。
本格的に困った事になった。俺が死ねば大魔王の間。もしもの時、最悪俺だけが大魔王の国という事になる。移動時間はあの魔導列車で三時間。その三時間が致命的すぎる。
つまるところこちらにいる間、俺は死ぬことが許されない。死んだら死んでも後悔しきれないことになるんだよ!あれ?死んじゃダメって普通だ!やばいよ、勇者的常識が本当に常識になってたよ!
死んでもいいや、戻れるし?なんて常識的に考えてあり得ないんだよ!俺常識的だし?うん、苺ちゃんジトありがとう!可愛いな!
まぁ、それが勇者的常識なんだけどね!デスルーラ推奨クエストがある時点でアレだし!
「で、お布施は?」
「……できなかったけど、あげないとダメなの?」
「敬虔なる神の信徒の気持ちを問うているわけだ。こう見えて俺、神父だぜ?」
「嘘だ、嘘だあああああああ!?」
どう見ても悪役だよ!煙を浴びて変身しそうなマスターだよ!ここ喫茶店じゃなくて酒場だけど!
「うるせぇ!なんのことか分かんねーが、俺は神父だっての!そうでなけりゃここで簡易教会なんて開けねーって」
本当に神父さんらしい。人は見かけによらなすぎるよ!
だけど、苺ちゃんがセーブできたんなら他の二人にもしてもらわないといけない。
俺はできなかったけどね!もしもの備えは必要なんだよ!俺はできなかったんだけどね!……ぐすん。