8話:表と裏はどんなことにもあるけど側面も割と大事だよね?
木札で人数分の分身を作り出し、作業をしてる風に見せて城を抜け出す。
催眠術でメイドさん二人にうまくごまかしてくれるようにお願いしてるから大丈夫!たぶん!
「私たちの分身まで作り出せるなんて……」
「し、下着の色まで完璧でしたね……」
「真人様最低です」
苺ちゃんを除いてみんなジトだ!うん、違うからね!あれは木札を作った人そのままを姿映しにする護身用のお札なんだよ?だから、俺がじっくりみんなを観察して作り出してるわけじゃないんだ!だから俺悪くない!というか、サラさんはなんで下着までのぞき込んでるのかな?
「……きょ、興味本位で?」
「えっちだ……」
「ち、違います!どこまで再現されてるか気になるじゃないですか!」
うん、ルナエルフのサラさんはエッチなんだな!
ちなみにルナエルフというのはファンタジーなんかでよく言うダークエルフなんだよ。月の女神を信仰していて、闇夜に紛れる種族らしい。決して闇堕ちとかしてる訳じゃないから、ダークエルフさんなんて言っちゃ怒られちゃうんだよ。でも、エロエルフさんなんだなー。
「だから違います!」
「エロ……フ……?」
「縮めないでください!私は普通のルナエルフなの!」
うんうん、サラさんもいい人で良かったよ。
ああ、段ボールからまだ出ちゃダメだからね?裏通りに出てから出るんだよ?声も小さくね、小さくだよ!ごにょごにょ?
「……すごくシュールな絵面なのになんでバレなんでしょう……。私と同じ獣人の人も普段なら匂いで気づかれるはずなのに」
「わかりません。魔術的な気配は感じないのに……」
クロエさんとサラさんがなんだか頭を抱えているようだ。段ボール被ってるから見えないけど!これは風の精霊さんの力を借りて、気配を極限まで察知されづらくさせている特製の段ボールさんなんだよ!
魔法ってのは魔力を使って発動するから発動痕的な魔力残滓が残ったりするんだけど、精霊さんは力そのものだからそれが残らないらしい。覚えててよかった巫術さん!小さいころからの行いは無駄じゃなかったんだよ!
裏通りに出た所で段ボールを適当に破いて捨ててしまう。証拠隠滅完了!ふふ、帰りは堂々と門から帰るからもう用なしさんなんだよ!
「勝手に出て、警備ができてないから注意するようにって怒るんだ!俺普通に玄関から出たけど気づかなかったの?え、気づかなかったんだ!って?ふふ、完璧な作戦だね!」
「完璧というか最低?」
「警備担当の人が可愛そうですね……」
首が飛んじゃうかな?まぁいいんじゃないかな?今までとっても甘い汁吸ってるみたいだし?城内の警備をしていたのはあのヒゲおっさんの部下がほとんどだったからね!うん、正直別にどうでもいいかなって?
「それにしても、表通りとは様子が全然違いますね」
「まるで……違う、街……」
華やかな表通りとはまるで違う裏道。
ゴミが溢れにあふれあふれ、ネズミやら虫やらがわらわらと徘徊し、その中でボロボロの衣服を着た人たちが倒れこむように眠っていた。
「この人たち覇気というか生気が感じられません。なんでこんなに浮浪者が……」
「違うよクロエさん。この人たちはみんな工場地帯の労働者なんだよ」
「え、この人たちがです?」
そう、彼らはこれからこっそり視察する工場の労働者だ。なんでわかったかって?理由は単純。ロゴの入った首輪を付けているからだ。
彼らは全員、労働者と言う名の労働奴隷。逃げることもできず、倒れることも許されず、まともな賃金なんてある訳もなくただ消費されるだけの消耗品。家もなく、宿も無く、寝る場所はふきっさらしのかろうじて雨がしのげる場所。うん、使い捨てだな!
「……彼らは奴隷契約の魔法で縛られています。下手に解除はできません」
「ああ、できねーよ」
座り込んでいたケモミミの兄ちゃんが頭を起こした。お、生きがいいね!
「けっ、ここにいる限り死んだも同然さ。まぁ、俺も含めてここにいる連中は死ぬ気で来てるから逃げ出そうなんてする奴はいないだろうがな」
「どういう……ことです?」
サラさんが首をかしげている。
うん、彼らは村に売られた人たちなんだよ。だから、帰るところも無く、帰る当てもなく、村のために自分を殺した人たちなんだ。本当なら男手なんかじゃなく女手を出すのがベターなんだろうけど、男じゃないと受けない……なんて言われたんだろうね。
「ああ、その通りだ。村の傍の鉱山に巣食いやがったキラーアントたちが村や作物を荒らすから、収穫がガタガタでな。税を納める代わりに男手を売らされたわけだ。……俺を含めてな」
ケモミミの兄ちゃんの声は震えている。ここにいるのも、ここで倒れているのも、片足がすでにないのも彼の本意じゃあないのだろう。あるわけが無いよね!ふざけるなって話だよ!
「俺はもうほとんど働くことができねぇ。最後は虫共の餌になって終わりだ」
「餌……?まさかとは思うんだけど、工場でも虫が働いてるのかな?」
「お前ら何も知らねーんだな。ここの工場を管理してるのは魔王バアル直属の部下のグランセンチピードって奴だ。でっけー虫でな工場内を徘徊して使えねー奴がいるとつまみ食いしやがるんだ。……俺みたいにな」
乾いた笑いを上げながらケモミミの兄ちゃんは自分の足を眺めている。
「うん、糞ったれだね。死ねばいいと思うよぐらぐらさん?自分に足が百本くらいあるからって誰かの足を食べていいわけじゃないのにねー。あ、とりあえず邪魔だからその首輪取っておいたよ?」
「は?」
「え?」
「あ、ホントです!取れてる!?」
ケモミミの兄ちゃんはびっくりして何もなくなった自分の首をすりすりとしている。うんうん外した首輪は適当な配管にでもつないでおこう。お、割といいオブジェなんだよ!
「な、何なんだアンタ……。契約の精霊で縛られた首輪は主人以外は絶対外せないはずなのに」
「うん、契約の精霊さんに説明しておいた感じ?俺の方がその主人だって?首みたいな配管さんに繋がってれでば大丈夫だよって?」
「あんまり真面目にこの人の話は聞かない方がいいです。頭がおかしくなりますので」
「ええ、私もそう思えてきました。真面目に考えると頭が痛くなります」
「にゃぁ……。そうですね。私も頭が痛いです」
風邪かな!風邪はひき始めが肝心だからお薬出しておきますねー!あ、ジトだ!ありがとうございます!ああでもケモミミの兄ちゃんのジトはいらないかな?ノーサンキューなんだよ!