挿話:憂鬱な大魔王のお姫様とメイド祭りな勇者な執事11
私はいつも一人でした。
お母様がいて、お父様がいて、お姉さまもいました。
けれども私は一人でした。
小さいころに発現した魔眼は辺り構わず力を発し、目が届く人に嫌悪感を与えていたんです。
お母様がいなくなり、私の魔眼の力は強くなりました。
嫌悪感を与える程度だった力が見る範囲の者の意識を刈り取るほどになってしまっていたのです。下手をすれば命を奪うほどに。
支配の魔眼――見るすべての者の精神を摘み取り支配する大魔王である父の魔眼。
父はその力を掌握し、使う時々を選択で来ているみたいですが、未熟な私にはそんな器用なことはできず、ただただ暴走する力を垂れ流してしまっていました。だからそれを重く思った父は私の目を封印し、城のはずれにある塔で私は暮らすようにと命じたのです。
父は本当はそんなことまでするつもりは無かったのだといつも聞かされます。
けれど、大魔王城で働く人々の安全と安心を護るためにはどうしようもなかったのだと。
私も納得して一人で過ごしていました。私のせいで傷ついた人がいたからストンと腑に落ちたのです。
今でも忘れません。恐怖と戦慄の叫び声の木霊するあの惨状を……。
今でも忘れません。侮蔑と怨嗟にあふれた彼らの目を……。
だから私は一人、塔で沢山の本に囲まれてお勉強を沢山しました。
アリス姉様と私の魔眼に対策があるという四天王のグルンガスト様が私の様子をよく見に来てくれて、お勉強やお仕事のお話を持ってきてくれて、有り余る時間を全部つぎ込んでいきました。
けれども、それでも私は一人。
暗い部屋の中、淡く光る母の形見の桜と月達を眺めながら私は布団を抱きしめて眠りにつきます。
ずっとこのままだと考えて涙を流す日もありました。
ですがある日、私は運命の出会いを果たします。
まーくん、真人さんとの出会い。
足を踏み外して桜の木から落ちてしまった所をまーくんは抱き留めてくれました。まるでおとぎ話の勇者様のようにきらめいていて、私の目を綺麗だと母と同じことを言ってくれたんです。
それからの日々は何度も、何度でも言う通り、夢のような日々でした。
けれども彼は人で、私は大魔王の姫。好きになっても決して結ばれることのない恋だと思っていました。
だけどもそれでも彼は私を好きだと、そう言って屈強な魔王達を次々に打ち倒し、ついには母の聖剣をも使いこなしたのです!
その姿は初めて逢ったあの日よりも輝いていて、こんな私でいいのかと聞きたくなるほどに彼が素敵な人に思えたんです。だから彼の好きな私でいたい。私は彼のために何もできていないんです。だから彼の傍にいて何かしてあげたい。もっと、まーくんに喜んでほしかったんです。
だけどもまーくんの周りには次々に女の子が増えてきて私は焦りに焦りました。私がまーくんに忘れられるんじゃないかって、まーくんが他の子を好きになっちゃうんじゃないかって。だから焦って色々やって
、失敗しました。
驚かせようと思ってやった仕掛けはロベリアちゃんを驚かせ、アリス姉さまには小さいころ以来のげんこつを貰いました。とっても痛かったです……。ううん、そんなことよりロベリアちゃんに申し訳なくて、自分の不甲斐なさとバカさ加減で頭がいっぱいになってしまいました。
それでもまーくんもロベリアちゃんも私を許してくれました。それがとてもうれしくて、とても辛くて。何度も何度もごめんなさいって言って。ロベリアちゃんが最後にこう言ってくれたんです。
「お友達です、お友達になりましょう!」って。
私はびっくりして思わず頬をつねりました。お友達になりましょうだなんて初めて言われたんです。本当にびっくりしました。
「それならアタシらもだな。この馬鹿の被害者連盟として」
「うん、被害者として、かな?」
「二人、とも……。素直じゃ、ない……」
「「な、なんのことかな!?」」
そして勇者の三人も私のお友達になってくれたんです!でも、素直じゃないってやっぱり……。
うん、一番は私ですからね!それだけは譲れませんから!
前にまーくんに言ったセリフをもう一度繰り返す。けれども気持ちはなんだか晴れやかでした。
まーくんと、ロベリアちゃんと、林檎ちゃんに夏凛ちゃんに苺ちゃん。みんな一緒にこうして幸せに毎日が過ごせたらどんなに幸せなんだろうって、そう言ったらそうしようってまーくんが言ってくれました!え、本当に良いんですか!?
「もちろんだよ。というか大歓迎かなって」
「私も大歓迎です。この誰かさんの暴走を止める人が必要ですし」
「だな」
「うんだね」
「……正妻さんが、いて……くれないと、側妻にも、なれない……し?」
立候補してます!本気ですよこの子!
だけどもみんなにこにこでした。まーくんの周りはいつでもニコニコです。だから私はまーくんが大好きなんです。
「愛してます、まーくん」
「俺もだよ、サクラちゃん」
そんな言葉を交わして、私は本当にこの人と出逢えてよかったと心の底から思ったのでした。
これにて挿話その2は終わりとなります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回より2章へと突入いたします。