挿話:憂鬱な大魔王のお姫様とメイド祭りな勇者な執事3
山をなんで上るのかと聞かれてとあるアルピニストは言った。そこに山があるからだ、と。
でもね、書類さんの山を登りたい人なんていないと思うんだよ?そこのところどう思いますかアリステラさん!
「ですが、これから真人さんがオウカ姫の執事に、ましてや婚約者となるのでしたらこの書類は必ず目を通し、処理していただかなければならないモノになっています。彼女の持っている領の管理は執事であり、将来婚約する貴方の仕事になるのですから」
眼鏡をクイっとあげてるよ!きらりと光ったよ!美人さんがやると様になるなー。うん、褒めても減らないのね、書類さん。知ってた!
「すでにこちらの世界の文字を習得されていると聞いておりますし、あちらの世界では算術や帝王学なども学ばれているとおっしゃられていましたし、領地経営者としては適任ではないでしょうか?」
「そう言われても急に領地を経営してと言われても困るんだよ!?」
そう、俺はサクラちゃんの治めている領地を見に行ったことが無い。というか、こっちの世界で知ってる場所なんてこの大魔王城と城下の街くらいだしね!俺のお小遣いさんも既にわびしいことだし……。
「そこは追々に考えればいいでしょう。しかしそうですか……貴方がこの仕事をやれることをがわかれば執事として正式に認めることができますので、社宅をご用意することができるのですが……」
「んん?社宅?おうちくれるの?え、え?」
社宅って社宅だよね?お仕事する人が家族と住めるおうちだよね?しかも仕事場でお金出してくれるっていう!
「はい、その社宅です。貴方には下の者が既に四人ほどおりますし、寮に滞在されるよりも社宅に住まわれる方が他の者に気を遣う必要も無いと思いますよ?」
ふふふ、とアリステラさんは笑ってる。
うんん?何か勘違いされては無いでしょうか?私めはまだ純白の真っ新で、新品ですよ!……はい、泣きます。ぐす、ふぇぇ……。
「こほん。ともかく、貴方が頑張れば今の狭い部屋ではなくもっと広いお屋敷に住むことができるというわけです。いかがですか?」
「分身してもいいですか?」
「効率が上がるのならば許可しましょう」
いいらしい!ふふ、分身しても数が増えるわけじゃないんだけどね!俺の作業量が増えるだけだよ!大変だ!でもロベリアちゃんとくっころ三人娘のためだ!頑張ろう!
バリバリとガリガリとサクサクと書類を読んで整理してまとめてサインを書いて、そろばん弾いてもろもろを処理する。うん、並列処理してるだけで一人でやってるだけだよ!文官さん欲しいな!苺ちゃんか林檎ちゃん辺りできないかな!で来てくれたらうれしいな!夏凛ちゃん?夏凛ちゃんも、うん、で、できれば?できたらいいなー。
「そういうわけで今日からここが俺たちのおうちになります」
「即引っ越しなんですか!?と言うか夜で割と真っ暗ですよ!」
ロベリアちゃんがびっくりしてる!うん、思い立ったが吉日って言うじゃない!だから素早く手早く書類の山さんを片付けてきたんだよ!色々な事が色々とアレでちょっと頭を抱えたくなったけどそれはもう後回しだ!ねぇ、ロベリアちゃん……眠ってもいいかな?眠れないけど?
「ふざけてないでそのホコリまみれのソファをさっさと雑巾で拭いてください。というか明日のお洗濯に出さなきゃならなくなりますよ?」
「はーい」
ロベリアちゃんに怒られたので雑巾で備え付けのソファを綺麗に吹き上げる。木札も使って分身してるから効率は割といい。二階建ての庭付き一戸建てでトイレに湯沸機能のある風呂まであって、水道も付いてるよ!魔導冷蔵庫に魔導レンジ……ああ、夢のオール魔導家電がここに!
「壊したら弁償ですから大事に使ってくださいね?」
「リースだからね。うん、異世界で賃貸的なリースなところで済むなんて思わなかったよ!でも大魔王城まで徒歩二分圏内というかほぼ敷地内だし!サクラちゃんの塔も近いし良い物件だよね!」
「おそらく、だからこそあんまり近寄られなかったのだと思いますけどね」
そうなの?と俺は首をひねる。あの桜の巨木の下ではたまに宴会と言う名の花見が開かれていると聞いていたからてっきりこの桜の木が見える場所はすごく人気の物件だと思ったんだけどなー。
「塔の真下を姫様が覗き見ることは少ないですが、塔から少し離れたここはあの場所からもよく見えますから」
「詰まる所、サクラちゃんの魔眼に見られる可能性があるから怖いわけね。強いのに臆病さんだなー。結界もきちんと張ってあるのに」
「それでも万が一があるからのようですね。まぁ私は気にしませんが。ふふ、こういうおうちに住むのちょっとだけ夢だったんです」
だからちょっとご機嫌さんだったのかー!うん、明るいからね、このおうち!魔石どれくらい使ってるんだろ!まぁ、今はこっそりと魔石長者さんだけどね!あの魔王を砕いた魔石はまだまだたっくさんあるし!
「で、なんでアタシらも一緒なんだよ」
「え、だって家族だし?」
「お、お前と結婚はしてねぇ!」
なんでか顔を真っ赤にしてる夏凛ちゃん。うん、してないよ?俺が好きなのはサクラちゃんだからね!でもここすっごくいいとこだよ?明るいし、広いし、何より家具家電付きなんだよ!
「家具家電付き……。異世界に来てそんな言葉を聞くなんて思わなった……」
林檎ちゃんは頭を抱えてる。ふふ、一軒家だよ!俺、一国一城の主だよ!賃貸だけど!社宅だけど!
「ふふ、真人さん……うれし、そう……」
苺ちゃんはキッチンを綺麗にしてくれている。食材も増やしていかないとねー。余った食材はもらってもいいって龍のおっちゃんも言ってたし、そこで食費を浮かしていこう!
「ああもう、話聞けよ真人!なんでアタシらもなんだ!」
「はーい、面倒くさがりな主に代わって私が説明します。夏凛さんたちは一応真人さんの部下、というか失礼ですが奴隷という扱いになっています。ですので、大魔王城としては寮の部屋を与え続けるのはどうかと言われてしまっていたんです」
そうそう、俺の寮で寝泊まりし貰っても良かったんだけど、一応男性寮だったみたいだからね?女の子が通ってくるのは風紀に悪いって言われちゃったんだよ。
「そ、そうなのか……。というか、それならそうと言えよ!まったく、アタシらに何も言わずに話を進めやがって……」
「はいはい、夏凛もそこまで。真人さんは私たちの事も思って頑張ってくれたんだから」
そうそう、お仕事頑張ったんだよ!書類さんの山はとっても度し難かったんだよ!いろんな意味で。何度も言うけど、諸々は後回しなんだよ!とりあえず、片付けたんだよ!
「……なんだか不穏な言葉ですね。後回しって」
「深く今は考えたくないんだよ。不正が不生産で不整脈だったからね。本格的にいずれ視察さんしに行かないとアレだったんだよ」
そう、アレだった。真っ黒だった。帳簿は改ざんされてたし、辻褄は合わないし、諸々がボロボロでガタガタだった。報告書なんかは見た目は綺麗に整えられてるけれども、絶対あるよ裏帳簿!ふふ、だから後回しなんだよ?見に行かないと分かんないからね!あー……サクラちゃんと離れるの嫌だなー。
「また惚気てやがる……」
「まぁまぁ、恋人になったばかりなんだしね?」
ため息をつく夏凛ちゃんを林檎ちゃんがなだめている。本気で嫌なんだよ!恋人になったばかりというか、ラブラブだからね!ラブラブなのに離れ離れなのは辛いんだよ!本当ならあの塔に一緒に住みたいくらいなんだから!お願いしたら怒られたんだよ……アリステラさんに!ぐすん。