挿話:憂鬱な大魔王のお姫様とメイド祭りな勇者な執事1
どうしよう。どうしようというか、どうしたらいいのでしょうか!?
窓の外の三つの月を眺めながら彼を待つ。けれどもなんだかじっとしていられない。
大好きな彼と結ばれたと思ったら、まーくんが助けた勇者たちがメイドさんになったってアリスお姉ちゃんが言っていたんです!
私なんて引きこもりさんで、筋肉もないし、二の腕もお腹もプニプニしてます!うぅ、もう少し運動しないと……。
「んー、俺的にはそのぷにっと感も好きなところだけどな?」
「わひゃう!?」
振り向くと彼がいた!と言うかノックしてくれたの全然気づきませんでしたよ!うぅ、でもこのお肉のぷにっと感が好きとはいえ、彼のまわりに美人の子が増えちゃったのは確か。ロベリアちゃんっていう、可愛い子が部下でもういるって話も聞いているし、うかうかしてられません!ダイエットです!
「今日はお夜食にお団子さんとお餅さん持ってきてるから小腹が空いたら食べてね?この後帰ったら苺ちゃんとロベリアちゃんにもふるまってあげるから遠慮したらダメダメだからね?」
「み、みたらし!これが本で読んだ……あまい!おいひい!」
うん、甘味には勝てなかったんです。とーっても甘くておいしくて!ああ、このあんこさんが私をダメにしてしまう……。うぅ、もう私を太らせちゃう気です?と聞くと彼は笑顔でこういう。
「え、太ってる?ないない。サクラちゃんは健康だからね。このくらい太ってるうちにも入らないって」
とか甘い言葉を言ってくれる。でもぷにっとって言いましたよ?ぷにっとって?
「可愛い……抱きしめていいかな?じゃなくて、うん。筋肉があんまりついて無いからね。程よくお肉がついててギュッてしたとき幸せになれるんだよ」
「じゃあ、ギュッてしてください。まーくんにぎゅって抱きしめて欲しい、です」
私に促されるままに彼は私をぎゅっとしてくれる。お仕事をしてきているせいかちょっとだけ汗のにおいがするけど、このくらいは気にならない。頑張ったんだなと思って、もっとこうしていたくなってしまう所で私がどれだけこの人の事を好きなのかを改めて思ってしまう。うー。ずっとこのままならいいのに……。
「さてと、ごめんねサクラちゃん。今日は約束しちゃってるからもう少ししたら部屋に戻るよ」
そういう彼の顔をぷぅと片頬を膨らませて見上げる。せっかくの二人きりの時間なのに、もう行かなければならないなんていうのはとっても寂しい。昨日は、寝る前までずっと一緒に居てくれましたけど。えへ。
「膨らませてもだーめ。でもすっごくかわいいなって?」
「じゃあ、そんなに可愛いって言ってくれる恋人の私ともうちょっとくらい傍にいてください。そんなに新しく来た勇者でメイドの子が大事なんですか?」
「んー、大事というか責任?があるからね。助けたいって思って助けちゃったし。幸せにしてあげないとって」
そういう所があることを初めて知ったけども、そういう所も好きだなって思う。うん、アリス姉さまに絶対からかわれますね……。
「でも、その子たちって可愛いんですよね?美人さんなんですよね?」
「可愛いし美人だけど、俺はサクラちゃんが一番だよ」
駄目だって!そういうのをさらっと言っちゃうのはダメですってまーくん!
「好きだよ、サクラちゃん」
「私もまーくんの事、大好きです。うー!その!えと……お妾さんはいいですけど!一番は私、ですからね……?」
一番がいい。それなら他の子がいてもそれでいい。そんな覚悟でまーくんの顔を見上げると首をかしげている。あれ?何か私変な事いいました?
「うん、サクラちゃん?結婚もまだなのにお妾さんの話は早いかなって?と言うか俺、今サクラちゃんにぞっこんだからね?自分でぞっこんなんていうのも恥ずかしいけど!」
「それなら、いいんですけど……。男の人はそういうものだってアリスお姉さまが言われてましたし、勇者の子たちとかロベリアちゃんって子ともしもって事もありますし」
特に勇者の子たちは魔術紋を刻まれているからまーくんの言う事をなんでも聞いてしまいます。だから、とっても心配なんです。だってそんなに可愛い子が何でも言う事聞いちゃうんなら、まーくんがもし魔が差しちゃったら……。
「うん、もうちょっと信頼してほしいなー。しないからね!エッチな事とかしないよ!」
「でも、ロベリアちゃんって子とちゅーはしたんですよね?」
「なななななんで知ってるのかな!?というか、それはね、お仕置きというか緊急事態だったし!?しかもアレだよ、恋人さんになる前だからね!」
「でも、チューしてから仲良くなったみたいだって……お父様が」
「大魔王!覗いてたことを報告するんじゃない!するんなら!ちゃんと!全部!説明して!」
話を聞くと、そのロベリアちゃんはまーくんを暗殺しようとして失敗して、奥歯の毒で死のうとしたところをキスで止めたのだそうだ。べろちゅーで。べろちゅーで!
「まだしてもらったことありません……」
そう、してもらったことがない。
本で見たことのある大人な恋人同士でするすごいキス。そんなすごいキスをロベリアちゃんとだけして、私はまだしてもらっていないんです!してもらったのは昨日の夜の軽いキス。……うん、とっても素敵な夜だったし、いいんですけど。やっぱり、好きな人が他の人としたって聞いたらして欲しいって思うものなんです!
「いやいやいや!まだ早いよ!俺とサクラちゃん付き合い始めて二日目だよ!?流石に速いよ!クロックアップだよ!?」
「で、でもロベリアちゃんにはしてあげたんですよね?」
「したけど!したけどさ、するんならもっと落ち着いてゆっくりできるときの方がいいと思うよ?俺はそうしたい」
うぅ確かにその通りです。チューしたあとにまーくんがまた明日ねと言って帰ってしまうときっと切なくなってしまいますから。
はぁ、とため息を吐いてギュウとまーくんを抱きしめます。まーくんは勇者の女の子たちが自分の事を好きになるなんてありえないって思っていそうです。でも私から言ってしまえばそんなことありえません。だってこんなにも素敵で優しくてとっても格好いい人なんですから。
……うん、大好きです。
熱いブラックコーヒーが美味しいれす!