挿話:くっころな勇者さん達と勇者な執事6
苺は人との付き合いがとても苦手だった。
小学校に通い始めても友達は全然できなくて、色々とお話してみても同級生はわかんないって言っていつも別の友達とお話を始めてしまう。
先生とだってそうだった。教科書を読んで予習をすれば大体わかってしまうのに、答えを回りくどく話す先生にどうしてそんなことをするのかって質問をしていたら怒られてしまった。
苺は訳が分からなくて頭をいつも抱えていた。質問しても誰も答えてくれない。教えてくれない。わからないから聞きたいだけなのに誰も教えてくれない。
ママはそのままの苺でいいのよ、と言ってくれてすごくうれしかったのを覚えている。苺がわからなかったら一緒にわかるまで考えてくれる。だから苺はママが大好きだった。
苺が十歳の誕生日の日、春先の始業式が終わって早く帰れた日の事だった。
いつものようにただいまって言って靴を脱いでお昼ご飯の苺が大好きなカレーの香りが溢れる台所で、ママは血を流して動かなくなっていた。理由がわからなかった。朝までいつものように話していたのに、綺麗で美人で優しい自慢のママ。そんなママは悲しそうな顔のまま冷たくなってもう、動かなくなっていた。
「帰って来たのか」
振り返ると笑顔のパパがいた。手には赤い色に染まった包丁。
頭の中がごちゃごちゃになる。なんで?どうして?そう問いかけてもパパは笑顔のままだった。そのまま私の胸に包丁を突き立てていた。
痛みと悲しみと恐怖と哀しみで、頭の中がどうかなりそうで、パパをずっと呼んでいた。
けれどもパパは何度も私の体に包丁を突き立てる。なんども、なんども、なんども、なんども。
いたみをかんじなくなって、私はママの手をにぎっているのにきづいた。
うん、ずっといっしょだよ。
ママが何か答えてくれた気がした。
そして苺は白い部屋にいた。
神様っていう変な奴が能力あげるからファンタジーな世界で勇者になれとか言ってくる。それなら私はずっと魔法が使えるようになりたいってお願いした。
魔法ならあるはずだってあの時の私は信じていたの。ママを生き返らせる奇跡の魔法が――
けれども結局そんなものは無かった。生き返れるのは勇者と魔物だけ。
そもそもが無理な話だったのだ。ママの体はあっちの世界だ。アンデットとして復活させるにしても火葬されてしまえば不可能だったの。だからせめて墓参りをしたかった。けれどもそれも叶わない。循環する無限の魔力で小さなゲートを開いても、腕を通した瞬間に存在が消失した。慌てて取り出すと戻っていた。モノを投げれば普通に通る。けれども苺の体は、勇者の体ではあちらの世界に戻ることはできない。
だからそれからの生活は投げやりだった。魔法を使って勇者の仕事を適当にこなし、読む本も無いこの世界で暇をつぶすこともできず、ただぼうと苺は一日を過ごしていた。
そして、あの魔王のクエストを受けてしまった。
魔王に喰われながらあの日の事を思い出す。
痛み、痛み、痛み、痛み。
喉をつぶされ、声の無い叫びをあげる。声の無い助けを求める。
魔王はただ、ニヤニヤとしながら苺の苦しむ顔を眺め、喰らった。
それからの事はよく覚えていない。ただ、お胎の熱さと痛みとおもちゃのように苺や他の勇者をもてあそぶ魔王の嫌な顔だけを断片的に覚えている。
でも、それだけ。ただお胎の熱さだけ、それだけを求めて苺は意識を閉じていた。もうどうやっても助からない。こっちの世界に来た意味なんて無かった。熱さに媚びて、魔王に媚びた。それでも遊ばれるのはわかっていたけど、少しはそれでマシになったから。助けなんて来ない。来ても食われて餌になる。だからもうずっとこのまま、永遠に、死んでも死ねない。けど、誰か、だれか――
「うん。もう、泣かなくていいよ。大丈夫」
痛みも熱さも消えて、埋もれた苺を掘り出して、黒髪の男はそんなことを言った。ぎゅっと抱きしめて、ぼろぼろのぐずぐずになった苺を、汚れるのも気にせずに頭を撫でてくれた。
それだけの事がとてもうれしくて、なつかしくて、私は久しぶりに眠りについた。
ママが笑顔でほほ笑んでいた。ただ、なんてことのない、懐かしい夢。
だから苺は幸せになってだなんていう私のご主人様。
好きな人のために戦って、絶望と悪夢を振りまく魔王を倒して封じて殺し抜き、伝説の聖剣をも持っている本物の勇者様。
だから彼はこう言った。助けたいから助けたんだって、人を助けるのに理由なんて無いって。そんなこと、普通の人が言えるはずなんてない。彼が彼だから言えた言葉。だから勇者なんだって苺は思った。
だから聖剣は彼を選んで、大魔王のお姫様も彼の事を好きになったんだって。
先輩のロベリアちゃんも彼に惹かれている。うん、きっと苺も……。だからちょっとだけ、意地悪をした。
下着を見られちゃったから、見せつけるように見せちゃうことにした。
こんな体でもきれいだって言ってくれて、少し嬉しく思いながらスカートを上げる。う、うん、いい、かなこのまま見せ――あ。
「おう!餅食いに来てやった……ぜ?なにやってんだ、お前?」
タイミング悪く、夏凛さんと林檎さんが扉を開けちゃった。真人さんは慌てて一生懸命言い訳してるけど、苺が悪いのにちっとも苺を悪く言わない。本当にもう、罪作りだよね?
あと、ロベリアちゃん。最初から目が覚めてるんだから、さっきの事教えてあげて欲しいなって?ダメカナ?……あ、ダメらしい。
ふふ、ごめんねご主人様。