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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:くっころ勇者さん達と勇者な執事
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挿話:くっころな勇者さん達と勇者な執事4

 夜、夜になった。暗くて昏い、夜が来た。

 自分の部屋として二人部屋が宛がわれたのはいいが、林檎と一緒で良かったのか?とあの男に聞くと。


「いいんじゃないの?というか、仲のいい友達なら一緒に居た方が安心でしょ?何なら俺の部屋にあ、いや、違うんだロベリアちゃん?そんなにジトらないで?親睦会とかどうかって思っただけだし!別にね?変なことしようとかこれっぽっちもね?ありがとうございます!」


 とか言ってた。ロリコンなのか、こいつ……。

 まぁ、アタシらの事を下僕というか奴隷にしてやがるのに命令をしてこないのは評価してもいいだろう。自殺するな、とか働くの手伝っては、命令というかお願いだったし。


「ねぇ、夏凛。真人さんの事、どう思う?」

「頭の変なロリコン?」

「ず、ズバッと言うね……」


 ベットに寝転がりながら林檎は頭を抱えてそう言った。

 だってそうとしか思えないだろ?話をしてもいつもへらへら笑ってやがるし、勇者の敵であるはずの魔人や人の国では奴隷として扱われてる亜人の連中とも仲良くしてるしな。

 ……まぁ、奴隷なんてくそくらいだって思ってたから見てて思わず口がほころんじまったのはここだけの話だ。


 今日一日過ごしていて気付いたことと言えば、あいつは誰に対しても同じように接する。えらい奴にも下の奴にも、もちろんアタシらにも。

 けれども一人だけ違うやつがいるという。

 それが大魔王の姫さんだって話だ。アタシらが助け出された武闘会ってので岩石魔王を含む四体の魔王を倒し、婚約者になったのだという。

 そもそも魔王を倒せるのは今の世界にいる一握りの勇者だ。その多くは勇者教会に所属し、アタシらでは目がくらむような金額の武器武装を身に纏い、十数人の勇者にて魔王を討伐する。それが普通。そうでなければ魔王なんて化け物は倒せるはずがない。

 けれどもあの男は違うらしい。単身で魔王を倒し、封じ、殺したというのだ。それも、最後の戦い以外を自作武器で勝ち抜いたというからふざけた話だ。アタシらをもてあそび続けたあの岩石魔王すら傷一つ付けられることなく倒したとの事。本気で頭がおかしい。


 そのことをアラクネの姉御のところでアイツに聞いてみると、


「ああ、あれはね?やったらできた的な?コツコツカリカリの積み重ねっていうアレで?昔取った杵柄のぺったんこだったんだよ!あ、お餅食べたいから夜食に作っておこう。うん」


 とか言ってた。やっぱり頭がおかしいと言うかネジが飛んでる気がする。馬鹿だよな、こいつ。やっぱり馬鹿じゃないかな?


「でも、真人さんが通ってたって言ってた海星高校ってものすごく頭のいい高校じゃなかったっけ?東大合格者がいつもいるっていう」

「そうだったなぁ……。勉強はたぶんできるんだろうが、アイツは馬鹿なんだよ。うん」


 林檎はそうなのかなぁと首をかしげているがアタシだって首をかしげている。

 というか今日一日が濃すぎるんだよ!なんで糞ったれの魔王から助かったら大魔王城でメイドすることになってるんだよ!まぁ、今日一日働いて悪くないって思っちまったんだけどな……。


「平和だったよね。人と亜人があんなに幸せそうに結婚届出してるとこなんて初めて見たよ。というか、結婚届なんて出してるとこ初めてみたけどね?役所……うん、役所だよ。あああ!もう何度突っ込んでもつっこみきれないよ!何あの桜の木!というか何で大魔王の部屋からどっかで聞いたことがある電子音が聞こえるの!?ドラクエだよ!ドラクエやってるよ、大魔王が!というか、そもそも大魔王城なのに街中で和やかなのってどうなの!!!?ねぇ、夏凛どう思う!ねぇ、アタシはもう割といっぱいいっぱいだよ!!」

「心配すんな、アタシもだ」


 今まで知っていた常識が全部非常識にされてしまった。そんな感じなんだからアタシらが混乱してしまうのも仕方がないんだ。そう、アタシらは悪くない!

 魔物、魔人、亜人は人に仇成す神の敵。だからすべからく人の下であり、逆らう彼らは全て抹殺していくべきなのだと。

 逆らわないものは飼い、増やし、資源とし、消費するものなのだと。

 吐き気がするような常識だとわかっていながらアタシらはその常識に慣れてしまっていた。

 それが壊れた。

 いや、今まで持っていた常識に戻せた。


「本当に糞だよな、人間側って……」

「うん、プニカさんもクレオさんも見た目はアレだったけど話してみれば普通の女の人だったしね。ふふ、ブラジャー作ってもらっちゃったしね。しかも採寸完璧で付け心地完璧だし」

「ああ、こいつがあればあの大会も……なんだよ?」


 なんでか林檎に睨まれていた。だって仕方ないじゃないか!防具が盛り上がってるせいで胴が決まりやすいんだぞ!腕も回しづらいし、防具の中の胸は大乱闘なんだぞ!


「はぁ、そうだよね……。こっちの世界でも夏凛の武装って中々見つからなかったし」

「アタシだって好きでこの体形になったんじゃねーっつの。はぁ、分けれるんならわけるわ」


 こんな脂肪の塊の何がいいのかがわからん。あの糞魔王もニヤニヤしながらいつも暇を持て余したときに握りつぶしてきやがったし。……うん、大丈夫。アたシはもう大丈夫だ。もう、胸から何も出やシない。胎になにもいナい。いるはズない。手もアる、足も……ある、ある、あるああルあるrあるアルああrるあぁぁあaaa――




「――夏凛?」


 林檎の言葉にハッとする。危ない。まだ心が不安定みてーだ。

 大きく息を吐いて頭を掻く。いや、アタシだけじゃねー。きっと林檎も同じだ。アタシが不用意にあの魔王のいるエリアのクエストさえ受けなければ林檎も巻き込まれずにすんだんだ。同じパーティーだった同級生の男どもは運よく死ぬことができたから逃げられたようだったが……。


「すまん、大丈夫だ。はは、なんだかまだ現実感が無くってな。まぁ、こっちの世界に転移してからずっとだけどな?」

「だね。私たち、あっちの世界で死んじゃってこっちの世界に来たってのもまだ信じられないし」


 そう、アタシらは死んだ。

 あっちの世界で事故にあって死んだ。バスの運転手の居眠りによる多重事故。歩道にいたアタシらはそれに巻き込まれてあっけなく磨り潰されて死んだ。


「そんで神様が可愛そうだから救ってやった。スキルをやるから向こうの世界で魔王を倒してくれだもんな」

「自分たちじゃ無理なのって聞いたら目をそらされたのも今考えると怪しいよね?」

「いやいや、今考えなくても怪しいだろって!」


 あははと笑いながらベットに寝転がる。


「なぁ、アタシらどうなるんだろうな?」

「……わかんない。アタシらの運命は全部真人さんが握ってるし」

「心も操れるって話なのになー」

「好きにしてくれた方がいっそ楽なのにねー」


 そう好き放題にしてくれた方があいつを憎むことができる。いや、そもそもそんな気持ちすらわかなくされてしまった方が楽なんだ。けど、アイツはそれをしない。


 曰く、「楽して助かる命は無いんだよ?戦わなければ生き残れない!生きることは戦いなんだよ?そんなことしたら林檎ちゃんも夏凛ちゃんも死んじゃうじゃない。俺はそれは嫌だなって?」とかのたまっていた。


「あいつ、どんな修羅場くぐって来たんだろうな……」

「たぶん私らよりずっといろんな苦労してるんだと思う」


 あいつはこっちの世界に転移して一週間だという。つまり、あいつは死ぬ前までにこっちの世界の魔王を討ち果たせるほどの力を得ていたという事だ。


「忍者なのかなー」

「いや、陰陽師とか?」


 水無瀬という名字にどこか既視感を感じるけど思い出せない。有名人なら顔で思い出せるんだがなー。いや、分身したり、影縫っちゃうような有名人は知るわけないな!というかやっぱりニンジャだよ!いたのかよ前の世界に!


 ……くぅ、とお腹が鳴った。そういえば夕食から割と時間が経ってる気がする。


「……真人さんの部屋行ってみる?苺ちゃんが心配だし?」

「んーだな。行ってみるか。ロベリアが一緒だけど確かに心配だしな?」


 うん、餅につられていった苺が心配なだけだ。

 けっしてアタシらも餅につられたわけじゃない。そう、ぱりぱりな海苔と砂糖醤油につられてなんていない!きなこにもつられてない!あんこにもだ!!あ、又腹が鳴りやがった。……ジュルリ?


夜に餅を食べるという体重さんへの挑戦状?

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