挿話:くっころな勇者さん達と勇者な執事3
「だああ!一体どれだけ切ればいいんだよ!」
トンタントンタンとテンポよく夏凛ちゃんは野菜を丁寧にした処理しながら切っていく。うん、本当に上手いよ!即戦力さんだよ!とっても助かるんだよ!あ、あとこれも追加で?
「はぁああ!?お、おま、腕が死ぬぞ!」
「大丈夫!あとでマッサージをじっくりやってあげるから?あ、ロベリアちゃんジトらないで?うん苺ちゃんと皮むき続けてね?」
勇者三人で普段の三倍楽になったよ!ホールバイト経験者の林檎ちゃんはテキパキと配膳してくれるし、苺ちゃんは飾り付けがものすごく丁寧で早くて上手い!実家が料理屋さんでお手伝いしてたんだとか?中学生なのに偉いな!そして何より夏凛ちゃんの調理スキルが高いのよ!うん、マジでこのまま俺の右腕になって欲しいかなって?あ、これもついでにお願いね?アッチは俺の分身がやってるから?
「……分身なんてできる人、初めてみた」しょりしょりしょり。
「やっぱり普通じゃないんですよね?」しょりしょりしょり。
「うん、忍者なんて本だけだし。アレが真人さんのギフト?」しょりしょりしょり。
苺ちゃんが芋の皮をむきむきしながら首をかしげてかわいらしくこっちを見てる。うん、あったら良かったんだけど無かったんだよ?ぎふとっていうの?あれだよ?くれるんなら本気で欲しいんだよ?
「ちなみに苺さんのギフトって何ですか?」
「私は循環魔力。勉強は得意……だったから魔法は頑張って覚えて、このスキルでずっと魔法を撃ち放題?ってしてたの。魔法を撃っても循環して戻るからプラマイゼロだから」
なるほどチートだ!魔力とは一個人で限りがある。大魔法を一発撃てばけだるくなって気絶したり下手すれば命にかかわったりすることもあるわけで、それが無い魔法使いはいわばムテキなダイヤモンドだ!マジか?マジだ!
「けど、魔法を使う前に倒された……。だから、負けたの」
それはまぁ仕方ないね。撃たれる前に撃つのは基本だからね。というか前衛さんいなかったのかなって?普通勇者のパーティーと言えば前衛と後衛っているよね?
「……逃げた。詠唱始めたら、逃げた。たぶん囮にされた」
「え、どんな奴?ちょっとぶん殴ってくるというか大魔王部屋行きにするから教えてくれないかな?きっと魂まで焼き尽くしてくれるんじゃないかなって?」
「珍しく怒ってますね?」
そりゃ怒るよ?人間だもの?というかだよ?こんなかわいい子を囮にして逃げるなんて最低じゃない?というか、頑張り屋さんの苺ちゃんをそんな扱いするなんて最悪だよ?まぁ、ダメコンとしては正しいんだろうけど?うん、正しいのと納得は違うからね?というか、普通ダメコンするべき前衛が守るべき後衛置いて逃げるって馬鹿じゃないの?それなら抱えて逃げろよ!あの魔王馬鹿だから煙幕張ったらたぶん逃げ切れるよ?!
「え、そうなの?」
唖然とした顔でカウンターから林檎ちゃんがのぞき込んできた。どうやらお昼を過ぎて人がまばらになってきたようだ。
「うん、そだよ?あれって目の前の事しか見えてないからね?魔物上がりって話だし頭もあんまりよくなかったんじゃないかな?」
つまり馬鹿だよ?見えてるものを捕まえて殺すことに特化した化け物だけど、躱そうと思えばいくらでも?
「いや、できるのはたぶん真人様だけだと思います。信じちゃダメですよ?お札使わなくても3人くらいにはなれる人ですから」
「三人!?」
「やっぱりニンジャ……」
「というか人間じゃねーんじゃねーの?」
ロベリアちゃん含めて四人がジトだ!そんなこと無いよ!煙幕張って身代わり置いてダッシュで逃げるだけだし?泥にされてもその上を走ればいいんだよ?ほらよく言うじゃない。右足が沈む前に左足を出して、左足が沈む前に右足を出せば水面も走れるって。走れるからイケルイケル。え、いけない?はは、勇者ならたぶん頑張ればできるよ!諦めればそこで終了さんだからね!
「よっしゃ!これで終わり!おら終わったぞ真人!これで夜の仕込みはいいんだろ?」
「お、助かるよ夏凛ちゃん。うんうん、仕事が丁寧だ!いいお嫁さんになるよ?」
「もう、なれねーよ」
ケッと言葉を吐き捨てて休憩室へと下がって行ってしまった。下腹のあたり……魔術紋があるあたりをさすりながら。
アリステラさんの話によると、彼女たちの卵巣はあの魔王により改造されてしまい、人の子を孕むは既にできなくされているとの事。生み出すことができるのは魔物の命、魔石だけ。つまり、魔のモノの子ならば孕むことができる。けれどもこれには一つだけ抜け道があるとの事だ。彼女らの支配者が人や勇者ならば人の子を産むことができるらしい。うん、彼女らが好きになった人がまともな人なら譲渡とか良いんじゃないかな?
まぁ、今は無理だけど?お仕事さんがね、ひと段落できるようになってからじゃないと!明日のパンツとちょっとのお金じゃこの子たちを養えないんだよ?こまったなー。
魔術紋ってどう考えてもいん……あ、何でもないんだよ?