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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:くっころ勇者さん達と勇者な執事
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挿話:くっころな勇者さん達と勇者な執事2

 ――目が覚めたら知らない天井だった。

 白くて清潔なベッドに寝かされ、私は目覚めた。

 手……ある。足も……ある。これは……ゆめ?ああ、そうだ。これはきっと何度も見たことのある夢だ。何百、何千回も見た泡沫の幸せな夢だ。名前――はまだわかる。私は秋風林檎。大丈夫、わたしはまだ、だいじょうぶ。


 夢……。夢と言えば不思議な夢を見た気がする。


 しゃなりと扇を振るい美しく舞を踊る黒いタキシードにマントを羽織った勇者――。そう、彼があの岩の魔王を打倒し、私たちが救われるなんて突拍子もない夢――。


 夢でその勇者に土くれの中から抱き起され、抱きしめられ。涙を流された――。


 ……そんな、あり得るはずもない、幸せな夢だ。


 たとえ助け出されたとしても私たちはあの魔王に屈し、胎に魔術印を刻まれてしまっている。


 だから、ありえない。


 魔術印はたとえ死んだとしても消えることは、無い。つまり私が運よく救われたとしても、その魔術印の支配権を誰かに奪われてしまえば私たちはたちまちにそいつの奴隷に堕ちてしまう。教会で復活したならばすぐに露見し、良くて他の勇者の慰み者、下手をすれば実験動物のように体を開かれ、再びあの地獄と同じ魔石を産むための炉として永遠に暗い闇に落とされるだろう。そんな勇者を私たちはもう何人も見てきた。


 結局のところ勇者とはこの世界にとって都合のいい道具にすぎない。


 死なず、老いず、力を持ち、神の名のもとに正義を振りかざす。

 しかし堕ちたならば、神に贖うためだと永遠に終わらない地獄に落とされるのだ。最後は人の手によって……。


 だからこれは都合のいい夢だ。手足があり、こんなにも寝心地のいいベッドに寝かされているだなんて……あれ?目、覚めない……?んーあれー?


「どうやら目が覚めたようですね」


 部屋の椅子で座っていた眼鏡をかけたきれいな女性が目覚めた私に気づいたのか話しかけてきた。

 タイトなスカートの女性用スーツを身にまとい、黒いストッキングをはいていていかにもできる女って感じだ。というか金髪碧眼ですごい美人さんだった!ううん、私はノーマルの筈なんだけどなー。夢に出て来るってことはそんな趣味が……?いやいや、いやいやいや?


「まず、私が何者かをお話ししましょう。私は大魔王国、魔人将軍アリステラ・ユグドラ・エニシエラと申します。つまるところ、貴女方の倒すべき敵と言ったところでしょう。そしてここは総本山ともいうべき大魔王城の客間です」


 あー……どうやらひどい夢だ。

 大魔王ってあの大魔王だよ?上位の勇者が束になってやっと勝てるかという魔王を赤子の手をひねるかの如く倒すというこの世最凶最悪の絶対悪。勇者教会が血眼で滅ぼそうとしてるあの大魔王の国だよ!というかなんでその将軍さんと私話してるのかな!?あ、夢だった!よかったー。いや良くないけど!あの地獄に戻りたくないけど、夢も地獄だよ!?


「えーコホン。では次に。貴女と残り三人の女性勇者はあの魔王が勇者により倒されたことにより魔石炉として吸収されていた貴女方は開放されました。詰まる所、これは夢ではありません。現実ですよ?」

「現実……?わ、私たち、あの魔王から解放されたんですか?」

「ええ、その通りです」


 思わずぽかんと口を開けてしまう。けど、それではおかしい。それならば私に……私たちに四肢があるのはおかしい。そう、あの魔王に喰われた時、腕も足もいらないと砕かれ、引きちぎられたはずなのだ。そして、再生させられてしまった。大きなけがをしてそこから年月が経ってしまうとその時点で固定される。つまり、死んで生き返ったとしても手足が戻る事が無い。


 なのに私たちには手足がある。だからおかしい。


「手足が戻っているのは岩石王を討ち果たした勇者に対価をいただき万能霊薬(エリクサー)を使用したからです。それ以外に手立てはありませんでしたので」

「え、エリクサー!?そ、そんな伝説級の霊薬をなんで……」


 そんなものを私たちに使う理由がない。いったい何が目的なのかがわからない。まさか私たちを魔王軍として働かせるつもりじゃあ……。


「理由はしりません。それはあなた方を救った勇者に聞いてみればいいでしょう。最もとてもくだらなくも馬鹿らしく、貴女方にとってはとても良いものだとはおもいますが」


 なぜか魔人将軍の彼女は嬉しそうにくすくすと笑っている。いや、うん、そもそもおかしいよ?なんで勇者が私たちを助けたのに大魔王のお城にいるのかって。ま、まさかその勇者って……。


「そのことも踏まえて彼に聞いてしまえばいいでしょう。さて、残り二人も目が覚めたようですね」

「二人……あと一人は?」

「……残念ながら心が戻りませんでした。」


 心が戻らなかった……つまりは勇者として死んだ、と言う事。

 おそらく脳をあの魔王に浸食されてたのだ。だから再生しても心を再生することができなかった……。


「なので地下の勇者の墓標で眠りについていただきました。もう誰にも邪魔されることもなく静かに眠れる場所なので」


 何故か少し寂しそうに彼女はそう言った。


「それでは今目覚めた二人にも同じ説明をしてから彼の元へと向かいましょう。貴方たちの胎に刻まれた魔術印は彼のモノへとなっています。つまりは彼は貴女方のご主人様になる訳なのですから」


 んんん?私たち助けてくれた勇者さんの奴隷になるの!?じゃ、じゃあ助けられたのってそういう事が目的で!?いやいやいや、私はそこまでじゃないし、美人でスタイルのいい夏凛とか隣の可愛い女の子ならともかく私なんて凡夫もいいとこだよ!?ど、奴隷にされて何をさせられちゃうの!?




 ――とか不安に思ってたら料理洗濯家事一般だった!ご主人様な真人さんも一緒に働くって、それご主人様なのかな!?大魔王城で働かされるってもっと、こう、あるんじゃないのかな?ほら、そう、村を襲うとか?え、ここお役所なの?結婚届とか出されてるの?一体どうなってるの大魔王城!!???


超美人が近くにいるから自分が美人だとは気づけないというアレ?

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