23話:猫が虚空を見てるのはこの世ならざるモノを見てるんじゃ無くてホコリらしいけど何だか微妙に納得いかないよね?
テーブルに乗った金銀硬貨がたっぷりと詰まった袋を見て、深く、大きくため息を付く。
思った以上に多い。多すぎると言ってもいい。目立たないようにとか考えていたのが馬鹿になるレベルで稼ぎすぎてしまった。
「兄さん、たった一日でこれって……。あー……うん。兄さんなら仕方ないか」
『「なんで納得できるんです」』
何だか黄昏ている我が妹の言葉にロムネヤスカ姉妹が見事にハモって突っ込みを入れてくれた。ううん、これはもしや逸材では……?
「それ、突っ込みを入れてる子みんなに言ってないか?」
そう言うライガーの視線がなんだか痛い。
俺ってばそんなに言ってるかな?え、言ってる?うーん……そんなことある……あるかな?
ともあれ、これで当面の資金問題は解決したと言ってもいいだろう。貴族だからVIPルーム固定だと聞いたときは背筋が凍る思いだったのはここだけの話だけど!
そういうわけで、魔法学園のすぐそばにある昨日と同じホテルのVIPルーム。
学園から戻って来た真理とカトレアちゃんと合流して今日の成果を夕食を食べながら話し合う。普通は下の食堂に行かなければならないらしいけど、VIPともなれば持ってきてくれるのだ。流石VIPルーム!高いだけはあるよ!
「アイリスちゃんの通っていたラボのビアス先生、ね。……あ、俺ってば犯人分かっちゃいました!」
「いやいや、流石にそれは短絡的過ぎじゃあないかい?」
ライガーの言う通り確かに短絡的だ。しかし、現時点で最有力の容疑者と言っても過言ではあるまい。話によればまだ入って初日の二人をラボに誘ったというではないか!いや、怪しすぎない?
『ビアス先生は悪い人……ではないのですが。何と言いますか、研究に熱中するあまりに周りが見えなくなるところがありまして……。いえ、教育にも熱心で将来伸びる生徒を昔から青田買いすることがかなりあったみたいですし』
アイリスちゃんの話す先生像は、マッドサイエンティストでありながらも熱心な教育者である……という感じだ。
『私の前にも何人も先輩がいたのですが、皆さん就職やら実家での家業やらでラボから離れて行ってしまいまして。今は私とケンプ先輩だけなんです。うちのラボは研究室での実験や解剖なんかも行いますが、基本的には色んなところへ出向いて魔物を捕獲したり観察したりして、魔物の畜産化を目指すというのが大名目な訳なんですが……あまりにも地味過ぎて……』
まぁ、確かに魔法学園に来て魔物の生態科学を研究して畜産化させる研究をしたいか、と言われれば正直微妙なところだろう。うん、青田買いをして何も知らない生徒を引き込まないとラボが成り立ち辛そうだ!
『うぐぅ。まったくもってその通りなので言い返し用もありません……』
ガックリと肩を落として、アイリスちゃんが大きくため息を付いている。どうやらアイリスちゃんもそんな被害者の一人のようだ。うん、ご愁傷様?
「それで、だ。ボクらにはその、真人が虚空に向かって話しかけているようにしか見えないんだが……その、そこにいるんだよな?」
「ん?ああ、そう言えばライガーには見えないんだっけ?」
自分が普通に見えているからすっかりと忘れていた。うん、異世界だしね!みんなも見えてると思っていたんだけど、見えないのかな?
「残念ながら私には見えていません。ビオラ様は見えておられるみたいですが」
「ご、ごめんなさい。その、私、ゆ、幽霊とか、だ、ダメでして……」
プルプルと涙目でビオラちゃんはシレーネさんの服のすそをつまんでいる。ああもうどうしてこう可愛いかなぁ、俺の奥さんは!
「ちなみに私は見えてるわね。……うん、何で見えてるのかな?」
小首をかしげるうちの妹だけど、そりゃそうだ。何と言っても今の真理には神様が憑いている。見えないものまで視えてしまうのだ。正直チートもいいところなんだぞ!と言っても、きっと本人には自覚はないのだろう。
「そこに、いるのですか?」
虚空をキョロキョロと見回すカトレアちゃん。
『うん、ここにいるよ。カトレア、まさか私を探し来るだなんて……』
互いに目の前にいる筈なのに、言葉を交わすことも、見る事すら叶わない。
これほどの悲劇があるだろうか?
どうにかして見えるようにしてあげたいけど、俺にはそんな力は無いし……。
『解決策ならあるぞ?』
そう言ったのはマスコットと化したヒルコ様だった。小さいながらもその力は健在であり、下手すればこの小ささで魔王くらいなら小指で吹っ飛ばせる気がする。規格外すぎると思うんだ!
「本当に?」
『そりゃあ神様だからね!そういう訳でこの本のココにさらりとサインを――』
「いや待て何書かせようとしてる、何を!」
ヒルコ様から取り上げたのは一冊の本。タイトルは――信者名簿だった。……ナニカな、これ?
『し、仕方あるまい。異世界に来たせいか信仰心がほとんど無くての。こう、なんというか力がするすると抜けて行っておるから、信者を一人でも増やす必要があるのだよ』
つまるところ、ヒルコ様がこの世界に居ると言う事を、信仰をしてもらう事で確定する必要がある訳だ。俺や真理はその信者の一員に数えられるのだけど、どうやらそれだけじゃ足りていないらしい。
『今なら幸運のお守りも付けるぞ!お買い得だが……どうする?』
「幸運……。それなら是非いただきます」
キラキラと目を輝かせるカトレアちゃん。ううん、悪い事もなさそうだし、このままヒルコ様が消えるのも困るし……仕方ない、か。
アイリスちゃんにノートを手渡し一緒に手持ちのペンを貸してあげる。
「ありがとうございます。……えと、これでいいですか」
『うむ!それでは、私の作ったありがたーいお守りを受け取るがいい!この世界の一人目のわが信者よ!』
えっへんと無い胸をそらしてヒルコ様がカトレアちゃんにお守りを手渡す。ガワ完全に神社なんかで売ってるお守りそのものである。書いてある文字は家内安全。……うん、家内安全てどうなのさ!?
『これで良いのだ。家内安全、家庭安泰。むふふ、これからの私はその線で行くのだ!』
と、昔親に捨てられてしまった神様が言う。いや、むしろだからこそ家内安全を願いたいのだ。家内安全とはこの神様の願いでもあるのだから。
『それで、どう?カトレア……見える?』
「うん、うん!姉さん!……その、パンツ見えてます」
「わきゃああ!??」
顔を真っ赤にしてワタワタとアイリスちゃんがスカートを抑える。ふわふわ浮いていたせいでカトレアちゃんに思い切り見られてしまったらしい。それでもまぁ、こんな形だけど再会できて本当に良かったと思う。問題は諸々に大量に山積してるけれども!
今日も今日とて遅くなりましt( ˘ω˘)スヤァ




