39話:神速って一体全体どれくらいの速さから言うのかなって誰に質問すれば答えてくれるのかな?
勇者と魔王の戦いは熾烈にして苛烈。特に魔王龍であられるシルヴ様の攻撃は圧倒的で完全に直人様がおされているかに見えました。
しかし父はなぜか嬉しそうに実況を続けられます。テンション高めですむぅ、もう少しピーター……真人様の応援をしてくれてもいいのに。
「燃え盛る森を駆け抜け勇者は駆ける!おおっと魔弾を弾き飛ばしたぞ!しかも高速で飛翔する魔王にぶち当てた!しかし効いてない!効いていないぞ!だか、勇者に魔王の攻撃は一発も当たっていない!当たれば死ぬぞ!ほれほれもっと撃て!納豆ミサイルくらいやらんと彼奴はおとせんぞ!」
ミサイルが何なのかはわかりませんがとんでもないことを言っているような事は確かなようで、四天王のみなさんもアリスお姉様も頭を抱えていました。ちなみに私は納豆は好きですよ?
天空の月と魔王龍が重なった時、大気が大きく震え、雲が散らされていきます。
すっかりと暗くなった空には満点の星に輝く白銀の美しい龍が一層と輝きを放っていました。
「おおっと、これは魔王龍の必殺!!魔龍の咆哮だ!以前はこの技で一個大隊と街を一撃にて屠ったという大技だぁ!!おっと、民のみんなは安全だぞ!四天王と余がきっちりと結界を貼っておるから安心だぞ!お城は演出上わざとブッパさせるために穴を空けたがーーん?アリスなんだ?聞いてない?ははは!そら言ってないからの!……まて、その鉄球はやばい。とげとげがやばいぞ!うん、せめてハリセンでの?え、ダメ?ダメかー」
「ピーターさん!!」
私は思わず叫びました。そんなの人が耐えられるはずもありません!
しかしその声もむなしく、無情で暴虐なる暴風は彼ごと全てを巻き上げてゆきます。舞い上がる砂塵と桜の花びら。――ですが、何か様子が違います。なにか、こう、違和感を……。
「アレを個人の力のみで受け切りますか」
アリスお姉さまの言葉が聞こえた瞬間に砂塵が晴れました。美しく輝く金色の魔法陣が展開され、荒れ狂う魔力と風を彼はすべて受け止めていたのです!
「ああ、二人ともよく見ておくがいい。ただの人間のあいつがあそこまでできるのが愛の力と言うやつだ。人という枠を超えず、それでありながらあ奴はこの世界に来て日が浅いのにアレだ。これからが楽しみだとは思わぬか?……あと。うん、ちょっと格好いいこと言ってるからね?刺さってるもやっとボールてきなとげとげ抜いてくれぬかの?だくだく出ておるぞ?血が?」
「ふむ。愛の力、ですか。出会って数日の間に何があったのですかサクラ」
「それは乙女の秘密です」
うん、秘密だ。とっておきの私だけの場所で彼に告白をしたなんて秘密です。お父様はとげとげが刺さったままニヤニヤしないでください!はっまさか覗いて……。
ゴウと爆音がとどろき、光が線となって解き放たれハッっと目を見張る。
「なるほど術式で威力を上げておるわけか。地上に落ちればあそこの山が消し飛ぶほどの威力はあるのう。あれがあ奴の現状での最大で最高の一撃と言う訳だ。」
美しく光り輝く剣は高速であり神速。すべてを穿つその剣はついに最速の魔王龍をとらえ、撃ち貫いた――!
「ああ、最高の一撃だ。あれ程までの威力を放てる者は魔王の中でもそうはいまい。……だが、足りない」
「えっ?」
そう、足りていなかった。おどろおどろしくも血を吹き出し、ひびの入った魔石すら見えるのに魔王龍は未だ空から落ちるに至ってはいなかった。
一方で、真人さんは満身創痍だった。足元には血だまりができ、左腕は破裂して既に見る影もない。
ああ、ダメだ。ダメ、ダメです。アレでは彼が死んでしまう。それは嫌だ。それだけは見たくありません。
お願い、お母様彼を――
<――応えよ。汝、かの者を勇者とみるか>
どこからか声が聞こえました。
どこかで聞いたことのある、でも知らない。それでも懐かしい声。
その声がいうかの者、それはおそらく彼の事。彼は勇者かと聞いている。意味が分からない。何の意味があるのかもわかりません。
それでも、私は彼に勝って欲しい。彼は間違いなく私の勇者なのだから――
<得たり。我、応えを得たり――>
声が反響した瞬間に、魔竜王があらん限りの暴風を彼へと打ち下ろしました。
私は叫びます!彼の名を彼に勝ってと!私は貴方が大好きだと!
お願い――生きてっ!
「――あいよ」
彼女の声が聞こえた。
ああ、こんな遠くても聞こえるもなんだね。お兄さんビックリだよ?
確かに聞いたその声に答えたからには応えてもらう。だから今こそその名を喚ぼう。
「こいよ、ネボスケ。俺もあの子も応えたぞ?だから喚んでやる。来やがれ――聖剣ジ・アンサー!!!」
あらん限りの魔王の咆哮に、出現した光り輝く何かがすべてを掻き消していく。
――白き剣。
――大魔王を地に伏せし一振り。
それこそが聖剣ジ・アンサー。ただ一つ<その答え>と言う剣だ。
「おはよう、アンサー。俺の答えを気に入ったかい?」
<肯定。汝の答えは吾の答え成り。先代より引き継がれし願い成り>
「だが、あんたはただの剣。力なんてない。よく切れて頑丈な剣だ。そだろ?」
<肯定。吾に力は無い。ただ我はただ全てを受け、全てを絶ち切る剣なり>
「いいね、それなら俺の総てを受けてとめてくれろ?」
空には焼け付くように見つめる白銀。
赤く体を染めたそれはこちらを見下ろし、嫉妬にも似た目で睨んでいる。うん、怖いな!
『なぜ!なぜだ!貴様がなぜそれを持っている!貴様が!貴様があああああああああ!!!』
「なぜだって?それはさっきアンタが言っただろ?」
そう、魔王龍は認めていた。認めてしまっていた。
「なぜなら俺が勇者だからだ。うん、悪いね?」
『まあああああああああああなあああああああああああとおおおおおおおおおおお!!!!!」
あらん限りの風を纏い、治りかけの翼をも砕き、破り去りながら銀翼の魔王龍は疾駆する
ああ、それで俺は死ぬだろう。
俺がただこの剣で切り裂くよりも速く俺を磨り潰してしまえばそれでしまいだ。
魔王龍は速度をあげ、下降するスピードを乗せに乗せ、その速さは音速すら軽く凌駕し、神速へと至る。元気だった時より速いな!?
だが、俺は死ねない。負けられないんだよ。サクラちゃんが待ってるんだからね?
ふぅと息を吐き、剣を腰に据える。
相手が音速ならばそれを超えればいい。
相手が神速ならばその速さを超えてしまえばいい。うん、簡単だな?
壊れてしまうから今まで込めれなかった己全ての霊力と魔力を全てを込める。無い分は当たりから食い潰す。ミシミシと体が鳴って奥歯が割れる。
必殺にして必中――これぞ無限なる技の極致也。
無限流/刃/奥義ノ壱/武御雷――!
神速なる光速をも超える、究極にして、極限なる俺の秘技……なんだよ?
輝く一閃は天空の雲をも二つに分かち、山肌に剣筋を刻深く刻みつける。遅れて瞬く間もなくゴウと俺の両横を風と巨体が通り抜けていき、爆音が後ろで鳴り響いた。
「どうだシルヴ。これが人の……愛の力って奴だ。たぶんね?」
二つに分たれた白銀の魔王龍からの応えはなく、俺はその場に崩れ落ちた。
あー……うん。疲れた、な――
輝け!流星のごとく?