32話:やられる前にやっちゃうってのは基本だけどどのくらいから前ならいいのかなって?
ヴァンパイア、吸血鬼。そう言われる彼らの弱点と言われるものは多くある。
流れる水、太陽の光、十字架に、ニンニク、そして杭である。
太陽の光を苦手とするのは死の国の者であるからという事が理由であり、十字架が苦手であるというのは宗教的理由があったりするんだけどこっちの世界じゃ使えないかなって。ニンニク料理も普通に食べてそうだし?
空を見上げると青空はあれど太陽は無い。つまるところ彼にいま弱点は無いわけだ。心臓を杭で着いたらどうかな?死んじゃうかな?
「残念だが小僧。我が心臓はここにはないぞ?」
「奥さんに預けてるんでしょ?うん、大体知ってる?」
お、眉がピクリと動いたよ!あたりだった!
「なればみっともなく降参することだ。貴様に勝ち目は――ない!」
瞬時に間を詰められたと思た瞬間首元を戦斧が通り抜けていく。危ないなー。会話の途中で攻撃すると舌かんで危ないよ?再生するんだろうけど?
「はは、流石!今のを躱すか!だが、これならばどうだ!」
影が走り、槍と成す。おお!なんだかかっこいいぞ!躱しに避けて走って逃れる。ううん、しつこいな! 走りに走って合間合間に木札を投げるがことごとく弾き飛ばされ散りに散らばる。うははは!笑いそうになるくらい強いよ!魔王さんは伊達じゃないよ!
「さぁしまいだ――」
影から姿を現した、不意を突いた一撃。首でなく胴であれば逃れることもない、そう思ったのだろう。
けどね、あまあまだよ?
「な、にが!?」
古来、日の本の国にはこんな技がある。
――影縫。
影を結わえて相手を縛る呪術であり、影を操る魔物への対策だったりする。忍術だよ?にんにん?
うち落としてもらった木札はダミーな囮さん。本命は攻撃してきた影だったわけだ。うん、倒すことも殺すこともできずとも動きを縛ることはできるんだよ?
「く、影を……!蝙蝠に散開もできぬだと!?」
さてはて、うんうん。こまったな?心臓は無いから倒せないんだよ。こう全開な光でビカっとして怯んだところを杭でくいっとクイックに倒そうと考えていたんだけどね?できないからしかたないんだよ?でも先に奥さんに頭を下げておいたからいいよねって!すまないとは思っているだが私は謝らない?
「……ま、まて、おい?その手に持っているのはなんだ?」
「え、よく知ってるでしょ?ほら、思い出して?朝みたじゃない?着替えるときに?」
「わ、吾輩のベルト……?」
「そうそう、ベルトさんだよ?いいベルト使ってるよね?本革製かな?しなりが良いんだよ!」
「か、返せ!意外と高いのだぞ!って、なぜそんなものを……」
うん、なんでって言われたらそりゃね?この戦いってさ、中継されてるんだよね?外に?
「そ、それがどうした」
「だからこうする?」
腰のズボンにベルトでムチのように衝撃を与える。お、上手いことはじけ飛んだんだよ、ボタン?
「ぎゃ!な、ななな!?」
「さてどうするかな?あと三十秒もすればこの戒めも解けるよ?けどそのまえにズボンは落ちる。パンツくらいならさらしていいと思うだろうけど、うん気づいてるかな?
「ひも……ま、まま、まさか?」
パンツのゴム紐?はじかれてたけどかすってはいたんだよね?切れてたんだね?
「た、たぁ!?ば、馬鹿ではないか!な、なぜこんなことを!」
「仕方ないじゃない、まじめに戦おうにもそっちがまじめに戦いをしていないんだから。こちらもふざけた戦いしかできないよ?やるんなら、まじめにやるんだよ?」
マントをなびかせ、眼前の男をにらむ。
「く、はは、はははは!!!いいだろう、勇者真人よ!貴殿を侮った。非礼を詫びよう」
「うん、謝れれても困るんだけどどうするつもりかな?あーもしかしてだけど」
「ああ、貴殿に我が力を見せよう」
ふふ、第二段階かー。早いよ!もう少し粘らないと!
「そうさせたのは貴殿だ」
めきめきとバキバキと来ていた服を破き、脱ぎ捨て、その姿を現す。パンツも破けたよ!?
姿を現したのは脅威で暴力的な魔力の塊。蝙蝠の化け物。龍にも見えるソレは悪夢のような邪悪だった――。
あ、でもごめんね?それも想定内なんだよ?
『な、なにが――』
蝙蝠と蜘蛛は相性が悪かったりする。蝶や蛾、トンボに限らず、蜘蛛に喰われた蝙蝠は実は結構いたりするわけで。つまるところ、空を飛びまわる生き物すべてと言っていいほどに蜘蛛とは相性は最悪なんだ。羽は薄いし大きいから糸に絡んだら動けなくなるんだよ?ほら、今みたいにね?
「うん、つまるところは走り回りながら?仕込んでおいたんだよ?アラク姉さんの糸のネバネバ版?いらないからって沢山もらっておいて本当に良かったんだよ」
張り巡らせるための工夫に苦労したんだけどうまくいったよ!あと収納にも苦労をね?うんうん、蝙蝠さんだから大音響攻撃だー!とか考えてたけど、開けた所でそんなこともできないし、割と普通に明るいからピカっと光撃もむつかしいんだよね!だから糸なんだよ?飛ぶ前に落とすんだよ。
『く、こんな小細工ごときで!』
「うん、これだけじゃムリムリさんだよね?魔王さんなんだし?」
だから木札を大盤振る舞いで投げに投げて投げ付ける。蜘蛛の糸に縛り付けられた蝙蝠の化け物をさらにがんじがらめに絡めとりながら、影を縛り、術で縛り上げていく。そして、既にその周りには木札で描いた陣が描いてある。
「陣ってのはどこの世界でも変わらず同じで意味を世界に刻み付けて文字や言葉を呪という形にするんだよ。知らない世界で知らない言葉で頑張って編み上げたこいつは未完成で不完全だけど、貴方を封印する力くらいはあるんだよ?」
それは妖怪や魔物を封じるために使われる大規模封印を行う際の陣。形だけの木彫りの独鈷に見立てた木札さん達はすべて魔の力を持つ魔王用の呪式を頑張って書いておいたんだよ!力を吸い出し、その吸出した力で封印の力を強めていくという妖怪にとっては悪夢のような封印術式。うん、ごめんね?魑魅魍魎な妖怪さん退治だったら俺の得意分野なんだよ?
ぐるぐるに糸に巻き取られて断末魔的な叫びをあげることもできずにミイラになってる魔王にダメ押しにあの桜巨木の枝で作っておいた墨汁で陣を刻む。うん、血で刻んだら絶対吸うからね、このおっちゃん!
しおしおと陣に力を吸われて小さくなって完全なミイラとなり、術式が発動を繰り返していく。
うんうん、アンデットは封印するのが基本だよね!そうじゃないと永遠に終わらないバトルファイトさんだからね!黒くてねじれたモノリスさんは無いけどね?ウェイ?
奥さんに怒られる5分前?的な?