29話:走り走って走り抜けるけどこけるかどうかなんて心配してられないよね?
時間が無い兎も角時間が無い。アラク姉さんのとこで思わず時間を喰ってしまった。舞台に立つならふさわしい服でねと仕立て直してくれるらしいけど、そこまで目立たなくていいからね!と言ったが聞いてくれてるかな?ムリかな?
ともかくとにかく急いで仕上げていかなければならない。目標の五割ほどは準備はできているのだ。仮定に基づいて組み上げ、さらに仮定を加えて結果を求めていく。
「仮定が過程に仮定で過程なもんだから結果が夫婦別居な家庭内離婚?が危ぶまれるけど子は鎹で踏みとどまってる的なアレ?」
「何言ってるかさっぱりわかりませんが、大魔王様のところで遊んでなかったらもっと時間があったんじゃないですか?」
ロベリアちゃんのジト!ありがとうございます可愛いです!うん、こっそりやってたもろもろの実験と実証で形にはなってるんだよ?イケルイケルの精神って大事だよね!犠牲者には捧げておこう。どうか安らかに……。
「ライガ様は亡くなられてません!はぁ……。それはいいですけど何度も言いますがそれで戦う気なんですか?確かに魔力は通っていますが、素材はどう足掻いても木ですし、私が見たことも無い術式ばかりで……」
「やる前よりは出力は上がってるから問題ないさー!ってね。うんうん、心配かけてごめんよ」
あたまをなでなでしてあげる。昨日泣かせちゃったからね。泣かせたあいつはぶっ飛ばすというかヒーヒー言わせるから我慢してね?とっても見苦しくなるかもしれないからあんまり見ない方がいいかもだけど?
「なんだかとっても不安な気持ちが倍増してきました。逆の意味で」
あれ?なんだかジトだよ?うん、俺の活躍を期待してくれてるんだね!うふふ。
カリカリかきかきしゃきしゃきと根を詰めて念を詰めて魂を込めて仕上げていく。どれもこれもは消耗品。明日にはすべて使い切るつもりだが手を抜くつもりは毛頭ない。あのハゲだけならここまでいらないだろうが、他の魔王とも戦う事になるだろうから多すぎて損は無い。特に金髪イケメンは要注意だ。爽やかなやさがおで体躯もヒョロイ感じではあったが、動きに無駄もムラも無く達人の域に至っている人間の動きそのもの。それでいて龍、つまるところドラゴンが変身した姿だとのこと。来るよ!第二形態!絶対変身するから!ぎゃおー!とか言い出すんだよあのイケメン!ふふ、こわい。
「天空疾駆と言うのがシルヴ様の二つ名でして、現在この世界最速の魔王であり、音を抜き去る速さで世界を駆け抜けるという話があります」
「音速超えるのかー。戦闘機の速さをも超えてくるのかな?」
「せんとーき?うーん、えっと、その速さを生かした攻撃もさることながら、大出力魔術の行使による殲滅魔法も特徴でして、狙われた者はいかなる者も焼き払われ、そこが国や町であったなら嵐が過ぎ去ったかのように何もなくなってしまうとの話です」
「死ぬかな?」
「死にます。やめませんか?」
うん、でもやめられないんだよ?男は馬鹿だからね?覚悟を決めたら走り抜けるものなんだ。ああ、そうさ、脳細胞はトップギアだ!ナチュラルハイかな?お薬はキメてないよ!
ふと、扉にノックの音が響いた。
「あ、ああ、アリステラ様!」
「こんな夜遅くまで作業をされていたのですね。近くの部屋の使用人からクレームが来ていますよ?あの部屋、臭くてうるさくてすっごく迷惑だって」
「ご近所迷惑だった!?あー、そういえば防音するの忘れてたんだよ」
普段使ってた護符は全部使っちゃったからね!悪いのはあの大魔王さん何だよ?ぷるぷる。それは兎も角こんなとこではアレなのでどうぞどうぞ?今すっごく片付いて無いけど!匂いは今は大丈夫。きっと?恐らく?メイビー?
「……いえ、ここで。真人さん、貴方は明日の武闘会に参加されるつもり……なのですか?」
「それはもちのろん。魑魅魍魎が跋扈するこの地獄に水無瀬真人がここにいるってね?止められても止められないのがかっぱ……じゃない男の本分だよ?男の子には意地があるんだよ」
「そう、きっとあの子も喜ぶでしょう。ですが、貴方は勝てるのですか?大魔王様には気に入られているようですが……」
「できる出来ないじゃなくて、やるんだよ?最初から最後までクライマックスだからね。諦めない限りそれは負けじゃないんだよ」
「ふふ、それこそ人間の怖さですね」
「そうだよ。俺は人間さ。人間で身分違いで種族も違うけど好きにちゃって、覚悟も決まったならフルスロットルさ。もう誰にも止められないんだよ?」
あの夜、答えを出してあげられなかった自分をぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいだけどね!サクラちゃん一世一代の告白だったのに!
「あの子が普通の人間で、普通に出会っていたのなら、きっと貴方と幸せになれていたのでしょうね」
「いいや違うよアリスさん」
そう、違う。今のサクラちゃんだから俺はサクラちゃんに出会えたんだ。普通じゃないから幸せになれないだなんて俺は言わせない。それでも幸せだって思わせてあげるんだよ?
そのためには勝たないといけない。あのハゲも浮気性な吸血鬼のおっさんとか金髪イケメンも頭の中空っぽなワンコとかもいたけど全部ぶっ飛ばしてあの子の手を握ってあげるんだよ。
苦労も苦難も困難あるだろうけど一緒なら乗り越えれるかなって。だってそれが好きになるってことじゃあないのかな?
ただ綺麗で美人で可愛いからって理由なだけじゃ花を愛でるのと違うんだよ。
一緒にだよ?二人一緒じゃないとダメなんだって。
だから、こんな俺を好きになってくれた、俺が好きになったサクラちゃんのために戦うんだ。
自分のためであの子のためだ。だから負けないよ?負けられないんだよ。
「あの子が貴方を好きになった理由がちょっとだけわかった気がします。ロベリアがなついた理由も、ね?」
「は!?な、ななななにをおっしゃられていますか!?そういうのではなく!決して違います!このご主人様は馬鹿でアホで人に迷惑かけてばかりだから近くで観察というか監視してないといけないから傍にいるだけです!決して他意はありませんから!」
「頭なでなでとか嫌だったかな?」
「それはしてくれても別にいいですが、ともかく、そういうのではないですから!」
アリステラさん苦笑いしてる!うん、可愛いよねロベリアちゃん。頭なでなでされながら手をぶんぶん降ってるし。また妹ができたみたいでちょっと俺も可愛がり過ぎたかなって思ってるのはここだけの話なんだよ!あ、まだ撫でないとダメだった?ごめんね!
新年あけましておめでとうございます?今年もよろしくお願いします?みたいな?