26話:行間を読めっていうけどそこ書いてくれればいいのになってと思うよね?
普段の2倍ほど文の量がありますが、最後の一行くらいを読めばだいたい内容がわかるかなって?
私は数えで七つの頃、このお城にやってきました。
野党に襲われ、村が焼かれ、母が、父が、友が、犯され、殺され、捕らえられていく中で偶然通りかかったアリステラ様に救われたのです。
両親がすでに亡くなっていたため、救われたご恩に報いたいと暗部に所属し、修行し、お仕事も少しずつですが任せられるようになって来ていました。
つい、先日の事です。私はある変で奇妙で珍妙でおかしな人のメイドになるよう命じられました。
どうやら大魔王様の部屋に侵入した異世界から来たという男のようでしたが、上手いこと生き残り、大魔王様が大変気に入られているとの事でメイドをあてがうことにしたそうなのです。
暗部である私があてがわれる理由など単純。言われるまでもなく、この男を殺せ。つまるところそういう事なのでしょう。アリステラ様は、この男が変な事をしないか見ておいてくださいねとの事だったが、変な事をしたら即・殺でいいでしょう。軽薄ですし、へらへらしていますし、なんだかいろんな人に馴れ馴れしすぎます。睨んでいたらなんでか喜んでたし。変人さんすぎます。
観察をしているとやはり変な男でした。やらせられることはなんでもそつなくというレベル以上にこなし、このお城で働く方々を皆驚かせていました。手を抜くことなく、何でも懸命にお仕事をするさまは、少なからず、うん、尊敬してもいいかなと感じるところです。でも、視線がエッチになるのはちょっとどうかと思います。変人さんというよりも変態さんじゃないでしょうか?
そしてこの男はあろうことか姫様の塔に入りこみました。
暗部の先輩方でさえ入りたがらないそこに男は意気揚々と入り込み、ご飯をもって数時間帰ってきません。何をしているのか、姫様に失礼を働いていないか、とても、ものすごく心配ですが、ここだけは入るわけにはいきません。入るな、とアリステラ様にも厳命されてされているからですから。
夜、この男は眠ることはありませんでした。
眠ることなく木を削り、筆を滑らせ、何かを作りだしていきます。一つ二つではなく、恐らくは百を数えるほどに。怪しい。とても怪しい。
結局眠ることなく部屋を出た男はトレーニングをしたいと言い出しました。
それであればと案内したのは四天王の一角、ライオネル様がご自分の精鋭と早朝訓練をされている訓練場でした。ここならばこの男の実力を見ることもでき、危険性を知ることもできると考えたからです。うん、完璧です!
ライオネル様に万が一にでも勝つことは無いでしょうが、最悪事故で死んでしまう事もあるでしょう。それならそれだけの男と言うだけです。きっとアリステラ様が気をもまれることもなくなるでしょう。
その考えがとても甘いと思い知ったのはライオネル様とその男の戦闘の初撃でした。
ライオネル様の全力の一撃。あろうことかその男は軽々とその一撃を避けて見せたのでした。
そしてそのまま私もまだ見切る事すらできない攻撃を躱して、すかし、すかして避け、まるで暴風雨のような乱撃をあの男はすべて躱しきり、さらに一撃、そして二撃加えたのです。
こんな男に勝てるわけが無い。正面からは殺せない。戦慄の中、私はただ立ち尽くすしかありませんでした。呪いの仮面もどうやら効いていないようですし、うぅ、どうしましょう……。
男は今日も又姫様の塔へと向かいます。ご飯を持っていくのは俺の役目だから当然なんじゃないかなって?とか言っていましたが、本当に不敬を働いていないかものすごくとっても心配です。私が姫様の魔眼をレジストできればいいのですが、今の私では死ぬことは無くとも気絶してしまいます。そんな姿をあの男に見せるわけにもいかないので、跳ね橋の前で待機します。どうしようもなく悔しいですが、ここは雌伏の時。じっと待って、隙を伺うのです。
しかし、この男はこの日も又寝ることはありませんでした。また黙々と昨日の木札を作り直しています。頭のネジがどこか外れているのではないでしょうか?
うつらうつらと眠気に負けそうになりながら今日も私はまた男に付き従います。
訓練ではライオネル様の部下の方々と戦われていましたが、皆さんの攻撃がかすることもなく、というよりも私でも気づかないうちに乱戦の中から一人抜け出してライオネル様とお握りを食べていました。分身とかしてましたがアレが夜のうちに作っていたお札の効果なのでしょうか?危険。危険すぎます。早くなんとかしないと……。
あの男が温泉に行っている間に部屋の中に忍び込み、息を殺して時を待ちます。今夜こそあの男は床に就くでしょう。私はきっとあの男を殺せなければ捨てられてしまう。いや、きっと切り捨てられるでしょう。すでに覚悟はできています。この身は既にこの国のために捨てるつもりでした。両親を野党に奪われたあの日から。
ギイと扉が開き、ギシリとベットが軋む。あの男がようやく床についた。そう、これはまたとないチャンスでした。素早く体をねじり、短刀でベットを刺し貫きます。が、手ごたえが無い。ならばと引き抜こうとしますが、動かない!念のために用意しておいたもう一振りで刺し貫きますが、これもまた動かなくされてしまいました。こうなってはどうしようもありません。私はベッドの下から飛び出て、悪態をつきます。
――ですが、それが失敗でした。この男は油断なく、既に罠を張り巡らせていたのです。アラクネの糸。恐らくクレオさんからくすねてきたモノなのでしょう。その糸で私は瞬く間に動けなくされてしまったのです。
ああ、もうダメだ。私は失敗してしまった。だから死ぬしかない――。
歯の奥の薬をかみ砕き呑み込もうとしたとき、何か布を口に入れこまれてしまいました。これでは、死ねない!
「さてはてふてほて、こういう場合は尋問というのが相場だけど」
尋問!だ、ダメです、その前に死ななくては――
「そんなことしたら好感度が低い男子高校生さんの好感度が更に底辺で悲しみに明け暮れることになりそうなんだよ。でも、一応は俺の?メイドさんなんだし?お仕置きくらいはした方がいいかなって思うんだけどどう思うかな?」
この男はこの期に及んでお仕置きをすると言ってきたのです。馬鹿じゃないのでしょうか?私は殺そうとしたのに、お仕置きですべてを済ませるつもりなのです。はっきりといってあり得ません。きっとお仕置きと言う名の拷問をするに決まっています!
「まぁアレだ。もうこんなことしないって言うなら開放するけどした瞬間に奥歯のモノを呑み込んじゃいそうなんだよね?うん、アレだよ?これはお仕置きだからね?一応もう一回言っておくけどお仕置きだからね?同じことしなければもうしないからね?」
そう言って驚くべきことに男は私の唇を奪ったのでした。
私の初めてのキス。ですが私は構うことなく入ってきた男の舌ごと薬をかみ砕こうとしました。ですが、男の唇は、舌はそんなことを許してくれず、というよりも口を閉じることすらできず、私は口の中のありとあらゆる場所を蹂躙されてしまいました。とても気持ちが悪いはずなのに、何故かゾクゾクと背筋を電気のような何かが走り抜けます。ああ、ダメです。こんなの、ダメになります!ビクビクと体が自然と跳ね、舌がうねるたびに私の体も簡単に反応を繰り返してしまう。まるで操り人形のように私の体はこの男に簡単に屈してしまっていたのでした。
唇を離された時の私の顔は自分でも思い出したくありません。きっと真っ赤な顔でだらしない顔をしていたに決まっていますから。うぅぅ……。
悔しくて、恥ずかしくて、でもやっぱりこの男が理解できなくて私は言葉をぶつけました。
「貴方は、なんで殺そうとした私を生かそうとするんですか?アリステラ様を脅すつもり、なんですか?」と。
すると男はこういったのです。
「死んだら何も残んないからね。生き返っちゃう俺が言っても説得力ないけど、死ぬってのは怖いことだよ?大切にしていたことも大切にしていたものも大切にしていた人も全部無くなっちゃうし、悲しむ人も絶対にいるんだよ」
良くは分かりませんが、私が死んで悲しむ人なんていてくれるのでしょうか?いえ、いるわけがない。
「私は……孤児です。ここで拾われ、使い潰されて死ぬために生かされています。私が所属しているところはそういう部署です」
そう、死んで当たり前なんです。同じ時期に入った子で死んだ子はもう何人もいます。彼がその勇者ならきっと、同じように……。
「でも、今は俺のメイドさんだよ?」
あっけらかんと男は、真人様はそう答えたのです。訳が分からない。意味が分からない。私は殺そうとしたのです。殺意をもって、真人様を殺そうとして、失敗したのです。ならば殺されても当然なのに真人様は私の頭を優しく撫でながらこう言ったのです。
もうこんなことしないでくれと。死のうともしないでくれと。ちゃんと生きて、と。
馬鹿です。この人はとんでもない大馬鹿です。お人好しにもほどがあります!思わず言葉にしてしまったのですが、苦笑いをしながら馬鹿じゃないよ?勉強はできるんだよ?とか言ってました。そういう事じゃありませんよ……。ダメです、この人早くなんとかしなければいけません。きっと誰かがそばにいないとダメな人なんです。ダメダメな人です。だから私は決めました。
「はぁ……。わかりました。いえ、諦めました。真人様、改めまして貴方にお仕えいたします」
この人に誠心誠意お仕えして、少しでもまともになってもらおうと。そう決めたんです。でもちゅーはダメです。その、頭が駄目になります!
そんなことを考えていたのに、目の前で真人様は岩石王に叩き潰されました。
まるで赤い果実を握りつぶしたかのように、バチュン、と。
頭が真っ白になって、目の前がちかちかとして、私は思わず岩石王にとびかかろうとしました。かなう訳もないのに、勝てるわけもないのに、待っているのは死だけだというのに。
私は許せなかった。大切な友人になってくれたビオラちゃんを襲ったのもそうです。ですがそれよりも何よりも、私のご主人様を殺したのです!どんなことをしてでも私は仇をうつつもりでした。
ですが、ですが、飛び出す寸前に意識が刈り取られます。油断――
私の後ろにいた鬼の魔王様に私はいとも簡単に気絶させられてしまったのでした……。
目を開くと見知った天井。私は私の部屋で寝かされていました。
絶望感が心を満たし、思わず嗚咽をもらします。また、大切なものを失って――
「いやいや、泣くことは無いと思うよ?そう!誰も怪我せずにすんだんだしね!俺天才かなって?」
ぴんぴんとした様子で真人様が私のベッドのわきに座っていた。
うん、これは怒っていいですよね?いいと思うんです。人にさんざん死ぬなーとか言いながら死にに行ったんですから怒っていいです。だから思う存分起こりました。ポカポカと叩いて泣きました。
きっと私はもう真人様のおそばを――
ロベリアちゃんが目を覚めるまで待っていたのに目が覚めたらオコでポカポカだった!すごくとっても可愛いけど、痛いな?
長いなー。長いよ!!